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第二章 開かれる女の子への道(クリスティーナ編)

【第6話】 クリスティーナの過去(4/9) 

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 クリスは目隠しをされたまま、車に押し込められて移動させられた。
 どれくらい経ったのだろうか。来たことがない遠くの場所であることは確かだろう。

 連れてこられたのは、監禁には不自然なほど立派な部屋だった。

 どことなく女性的なフローラルな香りが漂うクイーンベッドが中央にある。
 冷暖房も完備されているようだ。今まで過ごしてきた孤児院の部屋とは比較にならない。

 だが、この部屋はどこか不気味だ。

 まず窓がない。
 時計もないので、時刻も分からない。
 ドアノブがないので、アクセスキーを持っていない人は外に出ることも不可能だ。
 最も奇妙なのは、部屋床面以外の全てを覆う大きな鏡だ。
 そこにはショーツとブラを付けさせられた、クリスの姿が写っていた。
 
 恥ずかしくなって目を背ける。

 クリスはまだ捕らわれの身だ。
 強引に部屋に押し入れられた後、猿ぐつわをされた状態で、両手両足をベッドの四隅に固定された。
「んっ、んっ、ぅんっ」
 華奢なクリスの両腕首が、大きな男の手で押さえつけられる。
 暴れようとするが、強い力で抑え込まれて思うように動けない。
 ようやく暴れるのがおさまったところで、猿ぐつわを外された。

 身震いを押し隠しながら、アレックスを睨みつける。
「どういうつもりだ」
 上ずった声で懸命に威嚇するが、女の下着姿では全く威圧感がない。
 アレックスはわざとらしく肩をすくめる。
「せっかく話せるようにしてやったのに、『どういうつもり』はないだろう」

「こんな鏡張りの部屋で拘束して、オレをどうしようというんだ」
「鏡張り? くくっ。鏡張りかぁ。ここはそんな単純な部屋じゃない。嘘だと思うなら、自分の姿をよく見てみろ」

 そう言われて天井鏡に写る自分の姿に目を配る。
 鏡に写っていたのは、ブラジャーとショーツ姿の自分だった。
 だがよく観察すればするほど、違和感が募る。
 ベリーショートだが、女の子の髪型。
 控えめだがたしかに膨らんだ胸。
 そこに写っていたのは、クリスの生き写しのような姿の、だった。
 
「えっ。違う。これはオレじゃない。似ているけどオレじゃない」
 クリスの混乱した様子を、アレックスは楽しそうに笑う。
「くくっ。ようやく気付いたか。そうだ、これはただの鏡じゃない。姿を映す魔法の鏡なのだ。まっ、オレもどういう仕組みか分かっちゃいないがな」

 混乱したクリスと目が合った鏡の中にせもののクリスは、潤った唇の口角を上げながらニヤリと笑う。
 クリスは背筋がぞっとした。

『あたしはクリスティーナ。身も心もエッチな女の子よ。そして、あなたはあたし。あたしになるの。うふっ。うふふっ』

 鏡の中のクリスクリスティーナは、可愛らしいクリスの声で不気味に笑う。

「やめろ、偽物。オレの声で、変なこと言うな」

 ベッドで四肢を固定された、クリスの声がむなしく響く。

「くくっ。偽物はお前だ。お前がクリスティーナほんものになるまでな」
 
 アレックスは気味悪く笑いながら、クリスに覆いかぶさるように体を近づけてくる。
 横に背けた首の位置を修正されて、唇を奪われる。

(うっ、ううえっ。嫌だ。絶対嫌だ)
『あむっ。くちゅ。美味しいわ』

 クリスは眉間にしわを寄せて、男のキスから逃れようとする。
 鏡の中クリスクリスティーナは、火照った女の顔で目をつぶって、うっとりと男の舌を受け入れる。

『うふっ。こんなに気持ちいいのに、バカな娘』

 鏡の中クリスクリスティーナは、そう言いたげにクリスに目配せする。
 クリスはつばを飲む。
 反抗心と矛盾する、得体のしれないくすぶった欲望が蠢くのを、胸の奥で感じていた。
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