【SS】転生したくないでござる

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絶対に転生したくないでござる!

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 今日も異世界転生所、通称『ハローライフ』は、生霊でごった返している。
 死んでいるのだから、死霊と言った方がいいのかもしれないが、ここでは生霊と呼んでおく。
 所狭しと張り出された「求魂広告(キュウコンコウコク)」には「なんと今ならチート能力もお付けして」とか、「これであなたもハーレム間違いなし!」とか、扇動的な文句が並ぶ。

「まっ、関係ないけど」と、オレはやる気のない声を出す。
 情熱もやる気も全くない、典型的なダメ人間がここにいる。
 はっきり言ってクズだ。自分で言うのもなんだが、オレは人間のクズだ。
 いや、今は生霊なんだっけ。

 まぁいい。
 正直どうして地獄に落ちなかったのか不思議なくらいの、怠け者なのである。
 ダメ人間の中のダメ人間たるもの、周りから何を言われても、気にしない。

「ねぇねぇあなた、そろそろ転生しなさいよ」
「あの人まだ転生してないんだって。うーけーるー。ぷぷっ」
「転生せずに許されるのは、三日までだよねー」

 と天使らしい役人に毒を吐かれても、気に留めず、何もせずぶらぶらと過ごす。
 クズ・オブ・クズを自負する生霊は伊達ではないのだ。

 そんなオレに転機がやってきた。やる気を出したわけではない。
 やる気なんてもの、オレが死ぬ前にとっくに死に絶えている。
 
 ライフラインを止められたのだ。
 ガス、水道、電気、全てを止められた。
 死んでいるのだからライフラインと言うのもおかしな話だが、この世界に来ても腹は減るし、喉も乾く。
 だから仕方なしに、ハローライフにやってきて、今に至る。
 何日ぶりの外出だったか覚えていない。外の光が眩しかった。

「あーあ、やってらんねーな」
 適当に整理券を受け取って、待合室でポテチを頬張りながら、ごろごろ過ごす。
「次こそは勇者様さ」とか言っている連中が眩しすぎる。
 まるで人生が掛かっているかのような真剣さだ。まぁ、文字通り人生が掛かっているのだが。
 そうこうしているうちに時間は経ち、ようやくオレの番が来た。来てしまった。

「N4424EUの方、七番の窓口までお越し下さい」

 やれやれ、めんどくさいな。
「どっこいしょ」と爺臭い声を出して、のろのろと牛歩で指定されたブースに向かう。

 向こうで待っていたのは営業マン……のような、営業マンでないような、微妙な存在だった。
 いや、確かに営業の部分は間違っていない。問題は「マン」の部分だ。

 タコだった。そこにいたのは、押しも押されぬタコだった。 

 ん? 言葉の使い方が間違っているって?
 我はダメ人間。そんな小さなことに気にしない。
「てにをは」だって、時々間違える。誤字脱字なんて上等さ!
 気にしなければいけないのは、私小説を書いているような志の高いやつらだけだ。

 脱線してしまってすまない。話を続けよう。

 そこにいたのは、八本の腕を持つ典型的なタコだった。
 普通のタコと違う点と言えば、頭に「転生第一」と書かれた鉢巻をしているところと、気持ち悪いほどの営業スマイルを振りまいてくることだろうか。
 後ろに「月間目標、転生三億件!」とか、「転生実績の棒グラフ」とか貼り出されているから、きっと契約人数で評価が決まるのだろう。こいつはトップ・セールス・オクトパスなのだろうか。
 ウニョウニョと触手を動かしながら、書類に筆を走らせている間も笑顔を絶やさない。
 とにかくすごい生命体だ。
 全ての手が別々に動いて業務をこなしているのだから、器用なものだ。
 昔の人が描いた火星人のイメージもあながち間違っていないのかも。
 やっぱり出来上がった、いや出来るタコは違う。
 そう感心していると、待ちに待った質問がやってきた。

「それでは、希望を聞かせて下さい。どんな転生がご希望ですか?」
 
 待っていましたとばかりに、タコ人間に決めセリフをぶちまける。

「転生したくありません! 絶対に転生したくありません!」

 キョトンとした「ひょっとこ顔」はまさに傑作だった。
 面接官は、タコさんウインナーのように足を広げると、信じられないという風にドモりだした。

「ど、ど、ど、ど、どうしてですか?」

 転生の機会を蹴る生霊がいるなんて、信じられないのだろう。
 ついでにそのまま踊りだしてくれると、楽しいんだけど。
 踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々って、いや、本当にダメ人間ですいません。

--

 「どうして」という質問に、オレは寝る間も惜しんで考えてきた答えを披露する。

「まず、チート能力を与えますって書いてあるけど、騙されてはいけない」
「何がいけないのですか?」と聞いてくるタコくんに、オレは一カ月間調べてきたことを偉そうにレクチャーする。
 こちとら年季の入ったダメ人間。怠けるためなら努力だって厭わない。

「まず、人間に転生できるか分からない」
 タコが「なるほど、そうですね」と頷き否定してこないところを見ると、これは事実なのだろう。
 スラ〇ムに転生する話を聞いたことがあるので、オレ自身も想定の範囲だ。

「霊長類や哺乳類、爬虫類くらいに転生できればまだいい」

 ふうとため息をつき、一呼吸置いた後、一気にまくし立てた。

「まず種族の話をしよう。地球を例にすると人間が七十億人に対し、アリの数は一京匹だ。
 一寸の虫にも五分の魂という言葉を踏まえると、アリに生まれ変わる確率の方が百万倍高い。
 いや、アリならまだましだ。プランクトンに生まれ変わる確率の方がもっと高い。
 プランクトンは多細胞生物だが、数だけ言えばミドリムシとかの単細胞生物の方がさらに多い。
 ラブもロマンスもあったもんじゃないぜ。やつら単性生殖だからな。
 ウイルスなんて、他の生き物のDNAに自分のRNAを転写させて、自分のコピーを増やしてもらう。
 それでしか命をつなげない。あわれだぜ、ウイルスに転生したら。
 まぁ、やつらが生命かというと微妙なところだがな。
 まだある」

 まだあるんですかー、と茹でタコになりつつある面接官を無視して続ける。

「大災害の危険性だ。地球の歴史を振り返ると、五度の大量絶滅が起きている。
 一番有名なのは、隕石が衝突した六千七百万年前の事件だ。あれで恐竜が絶滅した。
 ペルム紀末なんて、地球の内部からの超巨大マグマ放出が二百万年間続き、生物種の九割が絶滅したと言われている。
 二百万年ずっとだぜ、二百万年。その時代に生まれたら、死ぬまで悪環境に耐え忍ばなければならない。
 まだある」

 目を回し、すっかり出来上がった美味しそうなタコがそこにいた。そろそろ食べごろだ。

「宇宙が広すぎる。もし転生して会いたい人がいても、まず出会えない。
 同じ銀河系でも、三千億の恒星がある。仮に百万個の恒星に一つの生命惑星があったとしても三十万だ。
 ちなみに、地球の歴史で数十億年微生物の時代が続いたことを考えると、それらの星にいる生物もおそらくほとんど微生物だ。
 この宇宙には七兆個の銀河があるから、さらに三十万×七兆で約二百兆の星に生物がいる。
 その中で、同じ二人が奇跡的に同じ星に生まれる変わるのは、サマージャンボ宝くじの一等を二回連続で当てるよりも難しい。どうだ!」

 オレの会心のマシンガントークに、タコは冷静に突っ込む。
 
「それだけやる気があるんだったら、転生してもやっていけますよ」 
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感想 5

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みんなの感想(5件)

此処寝
2020.07.26 此処寝

 失礼しました。UMA(オクトパス)様 
 ぜひ、お名前を、ちなみに私は駅弁ひっぱりだこのファンです。

2020.07.26 ジオラマ

此処寝さん
これは失礼しました。壺があったら入りたいです。
私はキュバーン・オ・クトーパス三世と申します。
駅弁ひっぱりだこ、美味しいですね。でも、なぜか食べていると罪悪感を覚えたりします。

解除
此処寝
2020.07.25 此処寝


 「たこさん、いい仕事してますねぇ」

2020.07.25 ジオラマ

此処寝さん

八本の腕を自由に操る、火星生まれのセールスマン。
五千年連続転生者件数ナンバーワン。転生者満足度ナンバーワン。
茹でても、酸に付けても美味しい男とは、私のことです。
この度は、お褒めにあずかり光栄です。

って、誰がタコですか!

解除
此処寝
2020.07.25 此処寝

 野暮ですが。転生してしまった(オレ)の転生先知りたい。
 前世の記憶のある、、、の話聞きたいです。

2020.07.25 ジオラマ

此処寝さん

洒落たコメント、ありがとうございます。
オレさんの転生先は、ナマケモノです。
ナマケモノ界の働き者として、ぐーたら生活を送っています。
記憶はあるけど、思い出すのはメンドクサイとのことです。

解除

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