ドラゴン・サーカス

水瀬 文祐

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銀の騎士、参る

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 団長はステッキから仕込み刀を抜くと、鎖の前に立った。「やってくれたな、小僧」
 丁重な喋り方をしていない。リオは団長の言葉を聞いて血の気が引いた。あれは、本気で相手を殺すときの団長。「テッテ、だめ、逃げて。あなたじゃ敵わない」
 テッテも相手から発せられる木枯らしのような殺気を身に浴びて、ひしひしとその実力差を味わっていた。多分、本気のガルアン以上だ、この人は。とほとんど絶望したい気持ちだったが、勝手に絶望して終わるわけにはいかなかった。やると決めた以上、退却の二文字はない。
 テッテは剣を構え直し、瞬きをした、その一瞬で団長の姿は消えた。「逃がしゃしねえよ。てめえはあの世以外には行けねえ」
 団長の剣がもうテッテの喉元にあった。だめだ、と観念した瞬間、観客席から飛び出した影が一つ。まっしぐらに団長に向かうと、団長も攻撃を止めて慌てて飛びずさった。団長がいたところには巨大な銀の槌が振り下ろされ、檻の床に大穴を空けた。
「モルガン!」
 テッテが叫ぶとモルガンは髭を擦りながらほっほと笑った。「冥途の土産にと思うて来てみれば。またとんだことになっておるのう、テッテよ」
「銀の騎士が邪魔をして……。許されるとお思いですか。我らの興行は王からの」
 モルガンは団長を追って走り、再び槌を、今度は横薙ぎに振り回した。団長も辛うじて躱すものの、テッテとは距離を空けられてしまい、舌打ちする。
「儂はもう引退する身じゃ。このおいぼれの命を使うなら、国のためではなく、孫のように思っておる子に使うわい」
 モルガンはテッテに向かってしわだらけの顔をしわくちゃにしながら笑って、親指を立てる。
「国の象徴たる銀の騎士が、愚かなことを」
「愚かかどうかは、この先の歴史が決めることじゃ。テッテは未来を生きる子。儂やお主のように古い因習や過去に囚われた亡霊とは違う」
「それをあなたがおっしゃいますか。古いものは残ってきたからこそ価値あるもので、守られるべきもの。そしてあなたはその守り人でしょうに」
 団長とモルガンの獲物が激突する。両者一歩も引く様子を見せない。
「テッテ、やれい。お前が人間の新しい夜明けを切り開いて行け!」
「お願いテッテ、エドゥアルトを、彼を助けて!」
 モルガンとリオの叫びを背に浴びながら、テッテは魔法の剣を振りかぶって飛び上がり、鎖に向かって一閃。振り下ろした。
 甲高い音が鳴って、鎖の半ばまで剣がめり込んだところでそれは折れ、テッテははじき飛ばされてしまった。
 テッテは着地して、呆然と首に残ってしまった刃と手の中の折れた剣を見比べる。剣は最早青白い輝きを失って、ただの美しい銀の剣だった。
「どうやら三本目までは魔法がもたなかったようですね」
 団長がモルガンの心臓目掛けて放った鋭い刺突を、モルガンは辛うじて槌の柄で弾いていなすが、銀の鎧の脇に僅かな傷がついた。
「おう、陛下から賜った鎧に傷をつけてしまうとはの」
「鎧の傷より、地に落ちた自分の名前の方に気を配ったらどうですかな、モルガン殿」
モルガンも年のせいか息が切れ始め、次々と疾風のように繰り出される団長の猛攻を前に防戦一方となっていた。
 これで終わりなのか。こんな幕切れで、本当にいいのか。モルガンもリオも恐らくテッテほどではないとはいえ、何らかの処分を受ける。エドゥアルトは散々見世物にされた後は殺され、武具や装飾品の材料にされる。そんな終わり方を許すのか。いや、許してたまるか。
 テッテは折れた剣を投げ捨て、エドゥアルトの首を、鱗を足掛かりにしてよじ登り、鎖に食い込んだ折れた刃先を握った。鋭い痛みが走って、テッテは顔を顰める。
「テッテ、何を……」
 エドゥアルトも困惑気に首にとりついたテッテを見下ろす。そんなエドゥアルトに、テッテは腹立たし気に見上げて叫ぶ。
「お前はただ助けを待ってるだけなのか。それでいいのか、エドゥアルト! 自由なんてものは、自分の手で掴み取るものじゃないのか。お前の翼は、こんな地面で朽ち果てるのを許すのか」
 エドゥアルトは目を見開いた。テッテの血が、エドゥアルトの首を伝い流れ落ちる。だが、どれほどテッテが力を込めようと魔法の切れた剣では鋼鉄の鎖を斬ることはできなかった。
 テッテは掌に刃を食い込ませながら叫んだ。
 するとエドゥアルトもまた咆哮を上げ、首の鎖を引きちぎろうと翼を羽ばたかせる。だが鎖は軋んだ音をたててもちぎれる様子は見せなかった。
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