吸血鬼に転生した俺は、人間の村を目指す

ナポ

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 楽しそうな笑い声が止まり、シーツを剥ぎ取られる。
 魔法であっという間に綺麗にされた体に、テキパキと服を着せられ、ボタンを止められる。
 意外にも丁寧な手つきを、ぼんやりと見つめていると、首元に指が伸びた。クラバットをキツめに絞められる。
 思わず緩めようと手を伸ばすと、すぐに低い声が飛んできた。

「崩れる」
「……キツイです」
 困ったように眉を下げ、訴える。
「……少しだけだ」
 渋々と言った様子で布を巻き直すタルドに、小さくお礼を告げる。
「ありがとうございます」

 やけに周りが静かなことに気がつき、扉があると思われる方へ視線を向けた。
 ベッドを檻のように囲う薄い布から、固まる人影が見えた。
 じっと観察していると、一瞬で帳が上げられ、何とも言えない表情のヴァイスと、タルドの妹・フラッタが現れる。
 フラッタは何故か物凄い形相で睨んできている。
 先程の会話からして、ブラコンなのだろう。
 好きな兄のそばにいる俺が気に食わないというのが良く分かる。
 目が合ったので、軽く頭を下げた。
「シーノ・マイテイル」
「はい」
「私、貴方のこと大嫌い」
「……」

 返す言葉に迷っていると、フラッタは「ふんっ」と鼻を鳴らし、勢いよくヴァイスの腕を掴み、退出していく。

 ……自分の兄を取られたと思って拗ねているのだと考えれば、少し可愛い気もする。
 面と向かって「大嫌い」と言われる経験も、そうそうない。
 逆に好感度が上がってしまうな。

「ククッ、面白い妹だろう?」
「とても可愛らしいと思います」
 素直にそう答えると、タルドの口元の笑みが一瞬だけ引きつった。
「ほぉ?お前の感性はよく分からんな」
 なぜか不機嫌そうな空気に首を傾げる。
「兄妹仲が良いのは素敵なことだと思います」
 余計な一言だったらしい。
 タルドの指に力が込められ、ぐい、と引き寄せられる。
「……勘違いするな」
 青い瞳が間近で細められる。
「フラッタは俺の妹だ。
 誰かに可愛いなどと言われる筋合いはない」
 独占欲なのか、支配欲なのか。
 どちらにしても、彼の中で“妹”も“俺”も同列の所有物なのだろう。
「……すみません」
 反射的に謝ると、タルドは小さく鼻で笑った。
「謝るな。お前はそういうところが滑稽でいい」
 頭を軽く叩かれ、離される。
 まるで出来の悪い玩具を見るような目。
「それでは、俺はこれで……失礼します」
「……好きにしろ」

 もう用はないとばかりに手を振られ、見送られる。

 サールス家の屋敷は広い。
 廊下には分厚いカーテンが掛けられ、日光を遮っている。
 お昼時は吸血鬼よりも人間の使用人がよく働いている。
 俺が住んでいる離れには元々人が少ないので、よく分からないが、働いている人を見るのは何だか懐かしい。

 人間の村に行けば、もっとありふれた日常が過ごせるのだろう。
 居ないものとして扱われる俺にも、働ける場所があるはずだ。
 そして、美味しい料理を食べて、お風呂に入って……

「シーノ………」

 渡り廊下の突き当たり。鉢合わせるようにヴァイスが現れた。

「ヴァイス……その……ありがとう」
「……あぁ。俺も、悪かった。泣かすつもりはなかった。いや、言い訳だな……ただ、お前が居なくなると思ったら……」
 暗い顔で俯くヴァイスの袖を軽く引き、視線を合わせる。
「俺も……」
 頬にそっと柔らかな唇が触れた。
「……これで無しだ」
「っ…………!」
 赤い瞳を細めて柔らかく微笑むヴァイス。
「あの子は?!」
 誤魔化すように話をぶつける。
「あの子……?……あぁ、サールスの令嬢か。先程締め出されたが、こっそり戻ってきたんだ。もう近くには居ないだろう」
「そう……」

 何だか落ち着かない。何時もより近い距離が何だかもどかしい。
 ヴァイスが俺に……っ!ヴァイスの触れ方を思い出し、顔が熱くなる。いやいや、あれは事故!ヴァイスも無かったことにって言っているんだ。もう、あんな風に触れられることなんて……と考えて、
 ずんと、心が重くなる。

 資料室へと歩く時間が長く感じた。人間の村については話さずに、森に生える植物や花の話になった。
 暫くして、元の場所にたどり着く。

「俺は夕暮れまでもう一眠りしようと思う。お前も……休め」
「はい」

 光が遮断された通路を去っていく後ろ姿をしばらく見つめていた。

 食料として捕らえられた人間に待っているのは死だ。
 早くしないとあの子たちも危ない。
 俺は元きた場所へと足を向けた。






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