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しおりを挟むレドンが水汲みに出ていた時。
同じ頃、シーノは庭を横切ろうとしていた。
ヴァイスと共に資料室へ戻ったあと、
人間に直接聞けばいいのでは。
と、今さらながら思い至り、行動に移ろうとしていたのだ。
そこへ、ちょうど赤髪の青年の姿が目に入る。
(あの人なら……)
シーノは小走りで近づいた。
一方のレドンは、そんな気配にも気づかず、井戸の縁に身を乗り出しながら慎重に水を汲んでいる。
「ふぅ……これでよしっと!」
満杯になったバケツを引き上げ、腕で額の汗を拭うと、そのまま肩に担いだ。
「あの、すみません……」
背後からかけられた声。
男にしては高い、まだ声変わり前の幼さを残した声だった。
「はい?」
何気なく振り向いた、その先。
朝の光を背負う銀色の少年が立っていた。
――あ。
言葉になる前に、思考が止まる。
口を開けたまま、レドンの身体はわなわなと震えた。
妖精。
あの日に見た、あの姿。
そんなレドンの異変など気づく間もなく、シーノは慎重に問いかける。
「……人間の村がどこにあるか、知っていますか?」
「……??」
理解が追いつかないまま、膝から力が抜ける。
情けなくも、手からバケツを落とし、その場に座り込んだ。
「うわっ! 大丈夫?!」
慌てて駆け寄り、シーノはレドンの上からバケツをどかす。
「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですが……」
「い、いえ!! こちらこそ! こ、このくらい、すぐ乾きます!」
「そ、それは無理があると思いますけど……」
沈黙。
満杯だった水はすべて地面にぶちまけられ、
レドンは腰から下までずぶ濡れだった。
シーノは困ったように眉を下げる。
(どうしよう……)
このままでは風邪をひいてしまうと上着を脱ぎかけた時、少年の声がかかる。
「──レドン!遅い……よ?……え?」
「あ、彼の知り合いですか? すみません。俺が驚かせてしまって、こんな事に……」
「あ、はい」
ぽかんと間抜けな表情でシーノを見つめていた少年は、反射で返事を返すも、心ここに在らずといった様子で黙り込む。
銀色の髪は、キラキラと陽の光に照らされ、まるで天使の様に神聖なものに映った。
(何が妖精だ……こんなの、天使じゃないか)
茶髪の少年ライタンは、そう心の中で毒づくも、目を逸らしてなるものかと、シーノ・マイテイルの姿を目に焼き付けていた。
「あの……彼の着替えはありますか?」
「はい。あります」
「良かった……」
安心したように微笑むシーノの顔には、慈愛が溢れて見えた。
尚も座り込んだ状態のレドンへと、シーノは空いていた左手を差し出す。
「立てる?バケツも……せっかく頑張って汲んだのに、申し訳ない」
一向になんの反応もしないレドンに焦れたライタンが、ドカッとレドンを蹴り上げ腕を引っ掴んだ。
「早く立ちなよ!」
「わ、悪い」
やっと正気に戻った青年の様子に安心したシーノは、何だかんだと言い合うふたりを横目に、サッと井戸にバケツを投げ込んだ。
カランカランと言う音を聞きつけた頃には、シーノは既に水汲みを終えていた。
「あっ!」
「ちょっ!?」
「え?」
慌てたように声を上げる二人。一斉に押し寄せてくる視線と圧。
驚いたシーノは、一歩退いた。
バシャンと音を立てて、またもや水たまりが完成する。
ただ手伝おうとしただけなのに、余計に仕事を増やしてしまった状態に顔が青ざめる。
「ごめんなさい……!!濡れなかった?!」
少しばかり離れていたので、もしかしたら……と思って声をかけたシーノだが、思いは通じず、足元をビッシャリとさせた二人の姿が目に入る。
あぁ、やってしまったと後悔しても後の祭り。
「ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げ謝罪すると、レドンとライタンが慌てて止めに入る。
「それよりも早く着替えましょう!こちらへ!」
そう言って歩き出すライタンの後にシーノが続こうとした、その時。
「そこの者、待て」
鋭い声に全員、ピタリと体が止まり、ゆっくりと声のする方へ視線を向けた。
「お前が噂の妖精か?」
「……?」
全く心当たりのない質問にシーノは首をかしげ、周囲を伺った。
全ての視線が自分に向いていることを確認したシーノは、ピクリと顔を引き攣らせて問いかけた。
「もしかして、俺ですか?」
「他に誰がいるんだ?」
初めはキラキラした黄色い瞳で見つめられていたのに、次の瞬間には、厳しい目つきで睨みあげられていた。シーノは苦しそうに顔を歪めて俯く。
相手の顔には侮蔑の感情と、軽蔑、怒り。
幾重にも重なった負の感情。
(あぁ……)
喉が詰まる。
(俺を“欠陥品”だと思っている人の目だ)
身体が、無意識に強ばった。
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