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序章
コイン30枚で取引しましょう
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「陶器は白く削り取り、撒き散らされた黄金は残さず拭き取れ。それでも居座る嫌われ者には香水を撒いても良いとする」
給料はろくすっぽ貰えやしないが、それでもなせばならない最低基準だ。クソみたいなタスクはとっとと終えるに限る――
なんの変哲もない青年、スディは束子を棚に仕舞い、手を洗うために蛇口を捻った。
「おーい、スディ。また取引の時間だ」
彼の雇い主が名前を呼んでいる。慌てて濡れた手をズボンで拭ってから、急いでトイレの個室を後にした。
ここはバール『サン・ミィ・マーナ』。労働者や旅人に、珈琲、稀に酒を提供している。他のバールと違い食事により力を入れており、それを目当てに来る客も少なくない。店主の男と、たまにアルバイトに入るスディの、二人で営業している小さな店だ。
店内に戻ったスディは、珈琲を提供するためのカウンターに、店主と常連客がいることを確認した。
「マスター、また来たんですか?あの食いしん坊」
「はいはい、いつもの食いしん坊ですよ。今日もコイツで立て替えて貰えませんかね」
店主の代わりに客が応えた。
彼は黒いロングコートを纏い、胸には銀のアクセサリーが輝いている。小柄でスラリとしており、何も知らなければとても大食いには見えないだろう。
男は手に持った麻袋をスディへ突き出した。
「これ500グラムとコイン30枚で取引しましょう」
「500じゃちょっとなぁ、せめてあと300はないと」
「やだなぁ、ボクがおカネ持って無いからって足元見るんです?」
「こっちだって生活かかってるんですから」
客はうーんと唸りつつ、もう一つほぼ同じ大きさの麻袋を取り出して渡した。受け取ったスディは、
「これで取引成立ということで」
と、ポケットの財布から小銭を取り出し、客に渡す代わりにカウンターに置いた。
「確かにコイン45枚受け取ったよ。まいどあり」
会計を済ませた店主に礼を言い、常連客は店をあとにした。彼の鉄馬(分かりやすく伝えるならばこれはスクーターと呼べる)は、日が落ちて薄暗くなった町に、この世界のものとは思えないほどの騒音を撒き散らしていった。
「まったくいい加減にしてくれよな。迷惑ったらありゃしない」
小銭をレジ箱に仕舞い込みながら店主はそう呟いた。
「あんなに礼儀正しい人なのに、なんでコインは持ってこないんでしょうね」
「馬鹿言うな、礼儀もマナーもあったもんじゃねえよ。アイツはこの店を舐め腐ってやがんだ、クソ食らえ」
スディは返事をしなかった。
「……そろそろ上がる時間だな。じゃあ、お疲れ様です」
スタッフルームに向かおうとするスディを、店主は逃しはしなかった。
「これで帰れると思うなよ、こんだけ仕事が残ってんだ」
店主の指差した先には……ソースに塗れたパーティー用の大皿が50枚。
「残業代は出るんですよね?」
「あの客に請求するんだな」
「…………全く、クソ食らえだ」
給料はろくすっぽ貰えやしないが、それでもなせばならない最低基準だ。クソみたいなタスクはとっとと終えるに限る――
なんの変哲もない青年、スディは束子を棚に仕舞い、手を洗うために蛇口を捻った。
「おーい、スディ。また取引の時間だ」
彼の雇い主が名前を呼んでいる。慌てて濡れた手をズボンで拭ってから、急いでトイレの個室を後にした。
ここはバール『サン・ミィ・マーナ』。労働者や旅人に、珈琲、稀に酒を提供している。他のバールと違い食事により力を入れており、それを目当てに来る客も少なくない。店主の男と、たまにアルバイトに入るスディの、二人で営業している小さな店だ。
店内に戻ったスディは、珈琲を提供するためのカウンターに、店主と常連客がいることを確認した。
「マスター、また来たんですか?あの食いしん坊」
「はいはい、いつもの食いしん坊ですよ。今日もコイツで立て替えて貰えませんかね」
店主の代わりに客が応えた。
彼は黒いロングコートを纏い、胸には銀のアクセサリーが輝いている。小柄でスラリとしており、何も知らなければとても大食いには見えないだろう。
男は手に持った麻袋をスディへ突き出した。
「これ500グラムとコイン30枚で取引しましょう」
「500じゃちょっとなぁ、せめてあと300はないと」
「やだなぁ、ボクがおカネ持って無いからって足元見るんです?」
「こっちだって生活かかってるんですから」
客はうーんと唸りつつ、もう一つほぼ同じ大きさの麻袋を取り出して渡した。受け取ったスディは、
「これで取引成立ということで」
と、ポケットの財布から小銭を取り出し、客に渡す代わりにカウンターに置いた。
「確かにコイン45枚受け取ったよ。まいどあり」
会計を済ませた店主に礼を言い、常連客は店をあとにした。彼の鉄馬(分かりやすく伝えるならばこれはスクーターと呼べる)は、日が落ちて薄暗くなった町に、この世界のものとは思えないほどの騒音を撒き散らしていった。
「まったくいい加減にしてくれよな。迷惑ったらありゃしない」
小銭をレジ箱に仕舞い込みながら店主はそう呟いた。
「あんなに礼儀正しい人なのに、なんでコインは持ってこないんでしょうね」
「馬鹿言うな、礼儀もマナーもあったもんじゃねえよ。アイツはこの店を舐め腐ってやがんだ、クソ食らえ」
スディは返事をしなかった。
「……そろそろ上がる時間だな。じゃあ、お疲れ様です」
スタッフルームに向かおうとするスディを、店主は逃しはしなかった。
「これで帰れると思うなよ、こんだけ仕事が残ってんだ」
店主の指差した先には……ソースに塗れたパーティー用の大皿が50枚。
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「…………全く、クソ食らえだ」
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