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第一章
①錬金術師は淡々と実験を進める
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――昨日は散々だった。結局皿洗いだけでは終わらず、翌日の客に出す料理の下ごしらえもさせられた。だが陰鬱な労働とはおさらばだ。今日は思う限りの探求を!――
日課のシャワーを終えたスディは、昨夜帰宅後にほっぽっていた麻袋を取り上げた。例の客から買い上げた資材。掬い上げた中身は……光沢を持った小ぶりのドングリ。
「やっぱり、質の高さは間違い無いな」
右手に掬った少量のドングリをガラス容器に移し、スディは部屋の隅に置いたごく小さな台の前に腰をおろした。
台の端に紙の束が積まれている。これは何日もかけて彼自身が書き上げた式の解だ。
一枚拾い上げ台の上に広げる。先程のガラス容器をそっと傾け、そこに中身を注ぎ入れた。
注がれたドングリはみるみるうちに光沢を増し、黄金へと姿を変えた。
スディは紙を皿のように持ち上げ……とりあえず元のガラス容器に戻しておいた。生まれた金は形を崩して砂となり器に積もった。
今から執り行われるのは錬金術である。
一般に錬金術と言われて直感するそれとは異なるだろう。彼が今必要としているものは"式"の方だ。この儀式により、それは魔力を纏う魔術式となった。
その過程に発生した金は何にも使えない。ようは廃棄物なのだ。
さて、錬金術師は淡々と実験を進める。作業台の横の棚から、紙でくるんだ何かを取り出した。
包みを開ける。そこにあったのは、罠にかかってもう死に絶えたドブネズミ。四日ほど前に彼の勤務先から無断で拝借してきたものだ。
先程出来上がった魔術式に亡骸をのせて、包む。魔力が行き渡るまで包んで、包んで、行き渡ったことを確認し、中を見る。
ネズミは錬金術により、生命を取り戻し……
「…………毛づやは良くなったか?」
取り戻さなかった。つまり、実験は失敗した。
とはいえ、その程度の失敗は織り込み済みだった。式の解はまだまだ積まれている。次の式を、それもダメなら次を……
「ついにドングリも紙もそこをついてしまった。ああボクチンの努力が水の泡だぁ~」「勝手にアテレコして遊ばないでくださいよ」
今まで無言で手を動かしていたスディは、突然横から他人の声が聞こえたために驚いて飛び上がった。
「いいだろ、どうせ事実だぜ?」
スディの左にいたのは、臙脂色のショートジャケットを羽織った背の高い女性。結われた長い髪と少し高めの声からスディはそう判断した。
「事実ならふざけていい訳じゃないですから」
右にいた男性は黒いロングコートを纏っており、胸には十字のアクセサリーが銀に輝いていた。小柄でスラリとしており……何も知らなければ、とても大食いには見えないだろう。
「人生には一片のユーモアが必要なんだよ」「一片というか一辺倒ですよね?」「これから地獄に落ちる彼への手向けというやつさ」「彼からすればユーモアじゃなくてイヤミにあたるでしょうよ」「あぁ?どうやって確かめるんだよ」「どうしても気になるなら直接聞けばいいんじゃないですか?」
二人がスディに向き直る。なお当事者は茫然自失であった。
「おい、お前今笑ったか?笑ったよな?」
「いや……」
「やっぱりユーモアではなかったみたいですね」
「そんなことじゃなくて……」
「イヤミでも無かったみたいだけどな」
「なんで僕は地獄に落ちるんですか?何も心当たりが無いんですけど」
日課のシャワーを終えたスディは、昨夜帰宅後にほっぽっていた麻袋を取り上げた。例の客から買い上げた資材。掬い上げた中身は……光沢を持った小ぶりのドングリ。
「やっぱり、質の高さは間違い無いな」
右手に掬った少量のドングリをガラス容器に移し、スディは部屋の隅に置いたごく小さな台の前に腰をおろした。
台の端に紙の束が積まれている。これは何日もかけて彼自身が書き上げた式の解だ。
一枚拾い上げ台の上に広げる。先程のガラス容器をそっと傾け、そこに中身を注ぎ入れた。
注がれたドングリはみるみるうちに光沢を増し、黄金へと姿を変えた。
スディは紙を皿のように持ち上げ……とりあえず元のガラス容器に戻しておいた。生まれた金は形を崩して砂となり器に積もった。
今から執り行われるのは錬金術である。
一般に錬金術と言われて直感するそれとは異なるだろう。彼が今必要としているものは"式"の方だ。この儀式により、それは魔力を纏う魔術式となった。
その過程に発生した金は何にも使えない。ようは廃棄物なのだ。
さて、錬金術師は淡々と実験を進める。作業台の横の棚から、紙でくるんだ何かを取り出した。
包みを開ける。そこにあったのは、罠にかかってもう死に絶えたドブネズミ。四日ほど前に彼の勤務先から無断で拝借してきたものだ。
先程出来上がった魔術式に亡骸をのせて、包む。魔力が行き渡るまで包んで、包んで、行き渡ったことを確認し、中を見る。
ネズミは錬金術により、生命を取り戻し……
「…………毛づやは良くなったか?」
取り戻さなかった。つまり、実験は失敗した。
とはいえ、その程度の失敗は織り込み済みだった。式の解はまだまだ積まれている。次の式を、それもダメなら次を……
「ついにドングリも紙もそこをついてしまった。ああボクチンの努力が水の泡だぁ~」「勝手にアテレコして遊ばないでくださいよ」
今まで無言で手を動かしていたスディは、突然横から他人の声が聞こえたために驚いて飛び上がった。
「いいだろ、どうせ事実だぜ?」
スディの左にいたのは、臙脂色のショートジャケットを羽織った背の高い女性。結われた長い髪と少し高めの声からスディはそう判断した。
「事実ならふざけていい訳じゃないですから」
右にいた男性は黒いロングコートを纏っており、胸には十字のアクセサリーが銀に輝いていた。小柄でスラリとしており……何も知らなければ、とても大食いには見えないだろう。
「人生には一片のユーモアが必要なんだよ」「一片というか一辺倒ですよね?」「これから地獄に落ちる彼への手向けというやつさ」「彼からすればユーモアじゃなくてイヤミにあたるでしょうよ」「あぁ?どうやって確かめるんだよ」「どうしても気になるなら直接聞けばいいんじゃないですか?」
二人がスディに向き直る。なお当事者は茫然自失であった。
「おい、お前今笑ったか?笑ったよな?」
「いや……」
「やっぱりユーモアではなかったみたいですね」
「そんなことじゃなくて……」
「イヤミでも無かったみたいだけどな」
「なんで僕は地獄に落ちるんですか?何も心当たりが無いんですけど」
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