声を失ったSubはDomの名を呼びたい

白井由貴

文字の大きさ
86 / 210
第三章

六十七話 夕陽と宵闇


 色々とあった二日間が終わった。
 ……とは言っても、学校では今は後夜祭が行われているので文化祭自体はまだ終わってはいない。けれど不可抗力だったとはいえ他のDomからの威圧グレアを浴び、一瞬でも調子を崩したということもあって、俺はコンテストが終わったあと律樹さんに連れられて帰路についた。
 
 文化祭が終わっていないのに教師が帰ってもいいのかと思うだろう。正直、俺もそう思った。だから大丈夫だと告げたのだが、律樹さんを始め、保科さんや六花さんにもここは素直に甘えておけと言われた結果今に至る。
 実際俺が思っていたことは間違っていなかった。本来であれば後夜祭中もその後も生徒の指導や監督、それから設備の片付けなどの仕事が山ほどあったらしい。しかし今回の騒動のことで学校側としても何か思うところがあったようで、ケアが必要な被害者のパートナーとして早く帰れるようになったのだそうだ。
 正直そこら辺の事情はよくわかっていない。所謂大人の事情というやつだそうだ。あまり詳しく教えてはもらえなかったのだが、呼び出された律樹さんから話を聞いた保科さんが険しい顔つきで「ふざけてるな」と言っていたのでそういうことなのだろう。これ以上は怖くて聞けなかった。

 そういえば俺が最後に見ていたコンテストだが、ミス部門、ミスター部門ともに最後まで大きな盛り上がりを見せていた。人だかりから少し離れたところで会場が沸く様子を見ていたが、あれは本当にすごかった。
 そんなコンテストだが、律樹さんの結果はミスター部門の教師の部で優勝。なんでも圧倒的な女性票を獲得しての優勝だったらしく、司会者をしていた男子生徒が興奮気味に叫んでいた。

(まあ……この顔だもんなぁ……)

 運転する横顔を眺めながらそう思った。
 男の俺から見ても律樹さんは綺麗で格好良いと思う。姉である六花さんもすごく綺麗な人だから、もしかすると彼らのお父さんが途轍もなく綺麗な人なのかもしれない。
 俺と彼は母親たちが姉妹の従兄弟なのだから少しだとしても同じ血が流れているはずなのに、少し違うだけでここまで差が出るものなんだなぁ……と思わず苦笑がこぼれる。

「……ん?どうかした?」

 目の前の信号が赤になり、車が止まる。視界の端で俺が笑ったのが見えたのか、律樹さんがこっちを向いた。
 
 フロントガラスから差し込む夕焼けの強い光に、琥珀色の瞳がきらりと輝く。少し視線を上に上げれば、少し色素の薄い栗色の細く艶やかな髪の毛に反射して金色のような輝きを放っていた。それがとても眩しくて、俺は思わず目を細める。
 整った顔立ちだとは前々から思っていたけれど、今視界に映っている彼の姿はまるで絵本の中に出てくる王子様のようだ。コンテストで律樹さんに投票した人たちが見たら卒倒するんじゃないかというくらい綺麗だった。

「弓月?」

 俺はなんでもないよというように首を横に降り、眉尻を下げて笑った。信号が青に代わり、律樹さんが前を向くのと同じくらいに車が動き出す。つられて前を向けば、目の奥を焼くような鋭さと煌めきを持った夕陽が真っ直ぐに俺たちに向かっていた。あまりの眩しさにほんの少し視線を横に逸らす。見えた窓の外は赤く染まっていて、そこはとても幻想的な景色だった。

 律樹さんが俺の頭にぽんと手のひらを置いた。同時にふわりと香る優しい香り。大きな手のひらが俺の頭の上をぽん、ぽんとゆっくりと小さく上下に跳ねる。それがなんとなく気持ち良くて、俺は目を閉じた。

「あ、そうだ。今日の夜ご飯はテイクアウトにしようと思うんだけど、弓月は何が食べたい?」

 今からデパートに向かうから駐車場に着くまでに考えおいてくれたら嬉しいという律樹さんの言葉にこくりと頷き、俺は膝の上に置いていたスマホを手に取った。俺が会話によく使うメッセージアプリを開くと、何件かの新着メッセージが届いていることに気がついた。
 どうやら壱弦と六花さんが俺のことを気遣ってメッセージを送ってくれたらしく、二人とも内容は示し合わせたようにほとんど同じだった。
 書かれている内容は二つ、俺の体調を気遣う内容と昨日と今日の文化祭についての感想である。俺は二人に体調は大丈夫だという旨と俺も楽しかったという言葉を書いて送った。本当に二人には昨日今日と、心配をかけてしまった。今日の場合は不可抗力だったけれど、それでも心配をかけてしまったことは事実なので謝罪も入れておく。
 既読はつかない。……それもそうか、二人とも今は後夜祭に参加しているのだからスマホを見る暇なんてないだろう。それなのにこうして俺にメッセージを送ってくれたことに胸が温かくなった。


 
 ゆらゆらと身体が揺れる。肩に触れた温もりがじんわりと俺を溶かしていくようだった。

「弓月、着いたよ」

 律樹さんの声が耳のすぐ近くで聞こえ、俺は落ちていた瞼を押し上げた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。通りでお店で夜ご飯をテイクアウトして車に戻ってからの記憶がないわけだ。

 俺は隣で俺の身体を揺する律樹さんの顔を見てから、視線をまっすぐ前に向けた。さっきまであんなにも強い力を放っていた夕陽はいつの間にか姿を隠し、代わりに星空が姿を表そうとしている。フロントガラス越しに見上げた空には赤と紺の美しいコントラストが浮かんでいた。
 

 

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

響花学園

うなさん
BL
私の性癖しか満たさない。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!