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第三章
幕間 高校最後の後夜祭 前編(壱弦視点)
もうすぐ高校生活最後の文化祭が終わる。
文化祭が終われば俺たち三年生は受験一色となり、あとは目標に向かって勉強に励む毎日が訪れるだろう。自分の夢を叶えるため、将来のために机に向かい続ける日々がやってくるんだ。だからきっと今日が高校生活最後の楽しみと言っても過言ではないだろう。
けれど、そんな楽しみもあと数時間で終わりを迎えようとしていた。
一年生の時には弓月がいないこの学校に通う意味はあるのかなんて思ってしまって、ほとんどのイベントごとを楽しむことができなかった。弓月と一緒にグループを組もうねなんて話していた修学旅行も、出発直前まで休もうかどうかと悩んでいたくらいだ。何をしても「なんであいつはいないんだろう」なんて思っていた。
二年生の頃には「ああ、もうここにはいないんだ」とぼんやりと思うようになっていて、それなりに過ごすようになった。周りも俺がやっと元気になったと安心したのか、遊びに誘ってくれることも増えた。けれど心の中ではやっぱり弓月を追い求めている自分がいたんだ。ずっと悲観して追い縋ってって、どこの悲劇のヒロインだよって……今では俺もそう思う。
俺はずっと弓月と高校生活を過ごしたかった。イベントごとだけじゃなくて何気ない毎日を一緒に過ごしたかった。ただそれだけでよかったんだ。
けれどまた会えた。会えて、昨日今日と少しの時間だけではあったけれど文化祭というイベントを一緒に楽しむことが出来たことが、本当に嬉しかった。いくら願っても叶わなかった願いがここに来て叶ったことに驚きつつ、もしも夢ならばずっと覚めないでくれって今もずっと願っている。それほどまでに夢のような時間だった。
「ねぇ、刈谷くん」
後夜祭が行われているグラウンドの端に立っていると、隣で同じように腕を組みながら立っていた六花さんが俺を呼んだ。
まるで芸能人かというほどに整った容姿は見る人を惹きつける力があるのか、昼間に一緒に歩いているとかなりの視線を感じたのだが、夕焼けが眩しい今はそれほどでもない。俺は六花さんの方を見ながら、はいと返事をした。けれど彼女はずっと前を向いたまま、俺の方なんて一瞥すらもしない。
「君、弓月くんのこと好きでしょ?」
「っ、な……っ」
まるで晩御飯のメニューでも言いそうな淡々とした声音。その内容に驚き過ぎて変な声が出た。
思わず変なタイミングでごくりと唾液を飲み込んでしまったせいで咳き込んでいると、六花さんの端正な顔がこちらを向いた。目の奥まで焼いてしまいそうな程の赤く激しい光が六花さんの後ろから差している。逆光でどんな表情をしているのかはわからないが、正直眩しさと驚きでそれどころではなかった。
「っ……なん、で」
「……わかるわよ」
――だってあいつと同じ目や表情をしているんだもの。
消え入りそうな声で呟かれた言葉。少し離れているとはいえ後夜祭の喧騒もまだあり、その上あまりにも小さな声だったにも関わらず何故か俺の耳にはっきりと届いたそれに息を呑む。それはなんとなく今まで思っていたことを確信させるような言葉だった。
彼女の言う『あいつ』には心当たりがある。
……いや恐らく、その人しかいないだろう。
「……やっぱり、そうなんですね」
「えっ……?」
夕陽は沈むのがとても速く、二分ほどで沈んでしまうのだそうだ。さっきまで強い光を放っていた夕陽は今まさに影を潜めようとしていた。そのお陰で逆光で殆ど見えなかった六花さんの表情が徐々に見えるようになっていく。
「六花さんの言うあいつって……瀬名先生のことですよね?なんとなくそうかなとは思ってたんですけど、やっぱりそうだったのか……」
弓月の傍にはいつも瀬名先生がいた。
六花さんと同じように容姿が整っていて、優しくて、特に女子生徒からの人気が高い瀬名先生。いつも穏やかな笑みを浮かべているイメージがあったが、弓月と一緒にいる時の先生は全く印象が違っていた。
……本当に、目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。
「刈谷くん……」
「……まあでも、諦めませんけどね」
そう、諦める気はない。
俺だって友達になれた時からずっと弓月のことが好きだった。瀬名先生がどれほど弓月のことを想っていたのかはわからないが、想いでは負けないつもりだ。
そう言って笑えば、六花さんはほっとしたような表情をした後、そっと目を閉じた。
「うん……頑張れ」
「……弟じゃなくて俺を応援していいんですか?」
「あいつは……どうでしょうね。私なんかに応援されても嬉しくないって言いそうだわ」
眉尻を下げ、苦笑混じりにそう言う六花さんに、俺も同様に苦笑をこぼした。二人がどんな関係かなんて姉弟であるという以外によく知りもしないのに、そんなことないですよとは言えない。だから俺はただ曖昧に笑った。
六花さんの元にやって来たのは和泉先生と先生によく似た男子生徒だった。三人は知り合いのようで、俺に断りを入れるとすぐに人だかりの中に消えていった。その後ろ姿を少し離れたところでぼんやりと眺めていた。
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