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補足:回想
回想:クロヴィス(本編1〜15話時点)
しおりを挟む※本編1~15話時点でのクロヴィスの回想です。
【Side:クロヴィス】
(※一人称が本来の『俺』になっています。)
俺が10歳の時、リアムが生まれて母がいなくなった。
リアムが生まれた時はかなりの難産だったらしく、産まれるまでに相当な時間を要した。もうすぐ産まれると聞いて母の部屋の前で待っていた俺とアルマン、そしてソフィアは、母の悲鳴のような声を扉の外で聞きながらずっと神に祈り続けていたのを覚えている。
そうして漸く生まれたリアムは息をしていなかった。通常は頭を下にして産まれてくるはずなのに、リアムの場合は足から先に出てきたことで分娩に時間が掛かったのだそうだ。それが原因で低酸素状態になり、呼吸に異常が出ていたのである。長い時間陣痛、そして分娩に耐えた母の身体は満身創痍といった様相だった。
母はぐったりとしながらも、産声を上げない赤子に手を伸ばしてぎゅっと優しく包み込むように抱きしめた。するとリアムの全身に光が集まり、やがて光の塊に包まれていき、そうして光が消えた。母の手から力が抜けるのと同時にリアムは産声を上げたのである。
――母の魔力は、空になった。
魔力がなくなるということは、死んでしまうということと同義である。魔力とは生命力そのものであり、聖魔法は命を削る魔法だ。それを知っていながら、極度の疲労に陥っていた身体で、無理をしてまで産まれてきた我が子に聖魔法を使った母を誰が責められようか。
俺は、嬉しいのか悲しいのかよくわからない感情だった。当時6歳のアルマンもそうだったのだろう。見るからに泣くのを我慢していた。当時3歳だったソフィアはよくわかっていなかっただろうけれど。
それから俺とアルマンはあまりリアムと関わらなかった。リアムのせいで母がいなくなったのだと思いたくないのに、そう思ってしまう自分が嫌で積極的に関わろうとしなかったのだ。ただソフィアだけはリアムのことを構い倒していたから、それでいいと思っていたのかもしれない。
アルマンは夜になると決まって俺の部屋に来た。一人で眠るのが怖いと言って、俺と一緒に眠るのだ。俺はアルマンの寂しそうな寝顔を見つめながら、毎日考えていた。
母は聖女だった。いつも白いローブの人を見ると身体をぷるぷると震わせて顔を強張らせ、一人になると泣いていた母。俺達には絶対に弱い顔を見せなかったが、父には弱音を吐いていたのだろう。母は、綺麗で強くて優しくて、そして格好良い――オメガの男性だった。
「父様、なぜ母様はずっとこのお城でいられないのですか?」
ソフィアが1歳の時、たまたま父と二人きりになった時にそう聞いた。すると父は寂しそうな表情で大聖堂の見える窓を見つめ、母が聖女だからだと言った。
「私も、クレイルと一緒にいたいと願い、そう伝えたのだが……中々上手くいかないものだな」
母――クレイルと心が通じ合った時、父は大聖堂に乗り込んで全ての聖女の解放を訴えたのだそうだが、即位したてだったこともあり相手にもされなかったらしい。それから何度も何度も訴えたが、もぎとれたのは一つだけ。奉仕の役目の免除、それも母のみのだ。
そうして何度も訴えを退けられ、もぎとれた母の奉仕の免除をもなかったことにすると言われ、泣く泣く諦めるしかなかったのだそうだ。
その聖女の役目の本当の意味を知ったのは、もう少し大きくなった頃だったが、それでも父の悲痛な表情に胸が痛んだ。
俺の第二性がアルファだとわかったのは、リアムが生まれる少し前のことだった。
直系皇族の俺がアルファだったことで、傍系の叔父叔母達が騒ぎ始めたが、父が目を光らせていたためか直接何か関わりを持とうとはしてこなかった。それはリアムが生まれてからもう同様だったが、リアムが産まれてからの父はみるみる内に憔悴していったため、聖女について話されることが年々多くなっていった。
この国では皆10歳で第二性を知ることができるのだが、アルマンが10歳になってアルファだとわかった時、同時に幼馴染のカミーユがオメガだということが発覚した。母と同じく、男性のオメガだとわかったカミーユを父は心配していた。それは今でも鮮明に覚えている。
公爵や本人達との話し合いの末、アルマンとカミーユがお互いが惹かれあっていることがわかり、すぐに婚約を成立させた。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
16歳の時、カミーユの髪色がアイスシルバーからホワイトブロンドに変わり、魔力に聖属性が付与されたのである。耳が早い大聖堂は、数日後公爵家に現れた。そしてカミーユを大聖堂へと連れて行こうとしたが、カミーユ――ではなくてアルマンが反対した。
しかし抵抗虚しくカミーユは連れて行かれてしまったために大聖堂に乗り込もうとしているアルマンを、俺はなんとか引き留めて、その足で父の元へと向かった。かつてはアルマンと同じ立場だった父は俺とアルマンに聖女に関する全ての事柄、そして俺たちの母であるクレイルについての全てを話してくれた。
憤慨してすぐにでも大聖堂に向かおうとするアルマンを俺はまた引き留めた。この時すでにアルマンとカミーユは番関係にあり、それは俺たちも知るところだった。なのでそうすぐには皇族の婚約者、それも番には手は出さないだろうとの考えから、皇帝陛下である父から大聖堂へ送った抗議文と誓約書に関する返事を待ってからでも遅くはないと説得した。
しかし返ってきたのは、アルマンとカミーユの婚約関係を解消しろといった内容だった。それを見た瞬間アルマンはカミーユを救い出すために大聖堂に乗り込んだ。……そう、乗り込んでしまったのだ。
「カミーユ助けに来たぞ!!……っ?!」
「アル、マン……っ」
涙を流しながら霰もない姿で組み敷かれる婚約者の姿を見たアルマンの怒りはどれほどのものだっただろうか。
その後は本当に地獄だった。
俺はカミーユを連れてその場を離れ、大聖堂から出ようとしていると一人の少年と出会った。それが当時13歳のドミニクである。
「何してるんですか?」
「っ、君は?」
「俺ですか?俺はドミニクです。光属性なので昨年から此処で暮らしてます。……その方は聖女カミーユですか?」
「……っ!」
ドミニクは興味なさそうに俺たちの方を向いて、ある一点を指さした。
「出口、あっちですよ。そっちにいくと中の方に入ってしまいます」
「あ、ありがとう」
「いえ、昨日聖女カミーユに助けていただいたので、それのお礼です。では」
そう言って去っていくドミニクを俺たちは呆然と見送り、お互いにハッとして出口へと走り出した。
その後カミーユは大聖堂から逃げ出せたが、しばらく経つとカミーユはまた大聖堂へと戻ってしまった。アルマンが婚約破棄を絶対にしないと暴れたことで、役目の免除を取り付けることだけは何とかもぎ取ったのが大きかったのかもしれない。カミーユは自分の意思で戻っていった。
何度か出禁にされそうにもなったが、カミーユが戻ったのなら入れないと困るとアルマンが暴れ、今のような礼拝禁止のみとなったのだ。
因みに傍系皇族の中には未だに聖女の奉仕を乞う人も数人いるそうだが、そのうち消し去りたいところではある。
その後はアルマンが大聖堂に向かう時は必ず俺が同行し、アルマンとカミーユと会っている間はドミニクと話すことが多くなっていった。
しかし、ある時からドミニクの様子がおかしくなったのだ。
それまでは無表情と言ってもいいほど表情がほとんど変わらなかったドミニクは、いつからか胡散臭い笑みを浮かべるようになっていた。そこからは少し疎遠になってしまったのでわからない。
でも未だに俺は信じられないんだ。
カミーユに純粋な恋心を抱いていた少年が、同じ聖女であるラウルくんの初めてを奪ったという事実が。
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