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生田という男

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「だから、俺、奏も抱けるよ。」

笑顔で言い放った生田の顔を見ながら、俺は口をパクパクさせていた。何か言ってやりたいのに、言葉が出てこない。こいつ、奏と呼びやがった。今までは小野寺だったのに。

「おや、奏、嫌じゃないみたいだねー。抱かれてみる?」

「ば、ば、ばかっ!何言ってるんだ!!俺は、女が恋愛対象だっ!」
思わず大声が出た。慌てて周りを見渡す。席の近い女性客がこちらを見て固まってる。やっちまった…。顔から火が出そうだった。

「しー!声大きいから。」
「しっ、知ってるっ!」
ニコニコ上機嫌の生田と反対に、俺は不貞腐れた。

「そんなに頰膨らますなよー。てかさ、例の管理人もきっと俺と同じだぜ。」

「へっ?」
思わぬ新情報に、つい間抜けな顔になった。
「3年ぐらい前かな。見た事がある。」
「何を?」
少しだけ気になった。
「男と歩いているとこ。」
「男と歩いているなんて友達どうしなら普通じゃん。」
何か問題か?普通だよな…。

「腰を抱いて密着してても?それに、その相手、ゲイだし。」
「何で分かるんだよ。」
見ただけで、性嗜好分かるか?そんな特技ある?怖いんですけど。ひと睨みしてからラーメンを啜った。

「俺も抱いた事ある相手だったから。」

「な、な、なに…!」
啜ったラーメンが気管に入り込み咽せる。なかなか、気管は正常に戻らなかった。生田はそんな俺を冷静な目で見ながら続けた。

「大丈夫か?動揺した?…それにさー、そのすぐ後で別の日に、あいつが女とホテル入って行くとこ見たんだよね。あの頃はあんなモッサリした髪型じゃなくて、バッチリ決めてたけど。」
生田は、ラーメンを食べ終わり、つゆを飲みながら笑顔でこちらを見た。
「俺、一度インプットした顔はほとんど忘れないからさ。この職場で顔合わせたときはビックリしたよ。ま、あっちは俺のこと知らなかったみたいだけど。」

「そ、そう…。」
何と言ったらいいのか分からない。身近にバイが2人。多くないか?案外普通なのか?そんな事をグルグル考えていた。

「で、どうする?」
水を飲みながら、何でもない調子で聞いてきた生田だったが、何を言いたいのか分からなかった。
「何が?」 
生田は顔を近づけて小声で言った。
「抱かれてみる?気持ちよくしてあげるよ。」

「ばーか。お・こ・と・わ・り、だ。」
俺がゲイだとしても、生田はナイ。俺より小さいコイツとお付き合い?ナイナイ。

「ちぇ、残念。…でも可能性はあるよな。奏、気持ち悪がってないもん。俺、気が長いからさー。待つよん。」

そう言って、生田はにっこり笑った。
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