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生田という男

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ジリジリうるさいスマホのアラームで目が覚める。ワンルームに備え付けられたベッドはセミダブル。単身用なのに大きすぎないか?毎朝自問する。部屋自体は10畳ほどあるから、圧迫されるほどではないが。部屋に対面する形のキッチンに移動すると、コーヒーメーカーのスイッチを入れて朝の支度に取り掛かった。

俺の主な勤務先は二階。配達業務以外では、普通の会社員のようにここに来て、経理の仕事を手伝っている。ここの課で働くのは総勢6人。生田と杉崎課長以外は配達業務の事は知らない。

「おみやげありがとー!」
俺より二つ年上の佐藤さんが嬉しそうに声を上げた。ちょっぴり丸顔の佐藤さんは、化粧も濃くなく好感がもてる。俺より年上にはどうしても見えない癒し系。今回はここの一階にある菓子屋で買ったマドレーヌが土産だ。喜んでもらえて何より。

「っていうか、どうして出張は男の人だけなの?」
休憩時間を無視してお茶を全員に配っていた田中さんが俺に疑問をぶつけてきた。女性の中で唯一の既婚者。
「どうしてでしょうねー。」
苦笑いしかできない俺に代わって、課長がフォローしてくれた。
「ほら、長時間拘束されるから、女性はね。いろいろあるでしょう。」
穏やかな人柄で、この課をまとめる課長。さすが。生田と俺は事情を知ってることもあり、下手なことは言えない。ここは課長に任せるのが一番。

「私は大丈夫だけど。」
向かいの席の一見クールな吉川さんが、ボソッと呟く。それを聞いた課長が苦笑いして言った。
「今度、上に言っとくね。」
その時、内線がかかって呼び出された課長はお茶に口をつけると部屋を出て行った。

「ほら、昨日までの分。」
隣の席の生田が書類を差し出してきた。俺がいないときは、生田が俺の受け持ち分をこなす。逆もそう。
「今日は、6時から『元』な。」
「あれ?今日だっけ?」
「そ、男会。」
月一で開催される男会は、裏の仕事をもつ俺たちの打ち合わせの場。このショッピングモールから出られない俺たちが行ける唯一の居酒屋だ。建物の一階にある。つまり、俺たちの御用達。

俺たちの会話を聞いていた佐藤さんが、口を挟んできた。
「男会、いいなあ。ねー女会もやりましょうよー。いつもの『元』じゃなくて違うとこ!」
女性3人でどこでやるか盛り上がっている声を聞き流しながら、今日の分の仕事に目を向けた。


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