未来も過去も

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コウイチという男

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「…コウイチ…?」
俺がやって来たのは漏れた明かりで分かっていただろうに、こちらを見なかった男は、俺の呟きでゆっくりと体をこちらに向けた。

「体、大丈夫か…。…随分軽くなった…。」
その男はコウイチだった。
「髪…、どうしたの?」
「切った。」
コウイチの返事は、コウイチらしく、短くシンプルだった。

夢で見たのとほぼ同じ髪型。短くなった前髪をワックスで固めて立たせている。やはり、男前だ…。羨ましいぐらい…。夢で見た通り…。
「やっぱりコウイチは男前だな。」
俺は無理に笑って見せた。

「腹減ってないか?」
コウイチが席を立ちながら聞いて来た。俺の前を素通りし、管理人室へ入ろうとしている。
「ちょっと待って。」
俺はコウイチの腕を掴んだ。
「ね、管理人降りるってほんと?」

「…ああ。」
首だけ回して俺を見たコウイチが簡単に答えた。
「…どうして?」
「まずは夕飯食べよう。もう、11時だ。何も食べてないんだろ?」
俺の手をやんわりと引き剥がし、コウイチは管理人室へ消えていった。俺も意を決して後に続いた。…絶対に…絶対に一緒に過去へ飛ぶ…!

もうすでに出来ていた料理を温め直し、キッチンのカウンターに出してくれたそれは、味噌で煮込んだうどんだった。沢山の刻みネギと落とし卵が載せてある。2人分用意され、コウイチも「過去の部屋」から持ち込んだ椅子に腰を下ろした。

「とりあえず、食べよう。」
コウイチの言葉に箸を持ち、真ん中に乗っている卵の黄身を割った。とろりと流れた黄身が熱々の汁に触れたところから固まってくる。…美味しそう…。俺は数本のうどんを取り、黄身を絡めて口に入れた。

「美味いっ…」
どうしてコウイチの作ったものってこんなに美味いんだ?どんどん箸を進める俺を見ていたコウイチは、フッと笑みを浮かべると、ようやく自分のうどんに箸をつけ始めた。

「なあ、俺、明後日また7年前へ飛ぶんだ。」
半分ほどうどんを平らげたところで、俺はコウイチの横顔に話しかけた。
「ああ。」
コウイチは、こちらを見ようとせずにまたうどんを啜った。俺は箸を置いて、体ごとコウイチに向き合った。

「一緒に行こ?」
「…」
コウイチは返事をせずに、うどんを少しずつ啜って胃に収めていた。

「ねぇ…返事して?」
俺の言葉にコウイチも箸を置き、こちらを向いた。



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