ある時、ある場所で

もこ

文字の大きさ
上 下
29 / 118
2回目〜1年前〜(悠)

6

しおりを挟む
11月の冷たい風が肌を刺す。前回が8月だったからギャップがすごい。出てきた物置の戸を閉めてメガネのスイッチを入れ、バス停をめざした。今回は前回とは逆方向の隣町に向かう。俺の実家や高校とも逆方向だからあまり行ったことがない街だったが、駅もある結構大きな街だ。今度は、スマホの地図アプリに住所を登録して、降りる場所を検索した。

「バス停で…6個目、と。」
今回もあまり遠くない。明日までに確認が取れるといいな。ちょうど来たバスに他の乗客とともに乗り込む。後ろの方に空いている座席を見つけて歩いていった。

『1年前か…。』
1年前はフラフラしていた。院に在籍しながら就職を決めようともしなかった。バイトをしながら女のアパートに転がり込み、半同棲生活をしていた。ま、あの生活は1ヶ月持たなかったけど。そんな中突然母親から電話が入り、大学を辞めて地元に帰るように言い渡された。

『帰ったら伯父さんがいたんだよなー。』
しかも怖い顔で…。ちょうど去年の11月だ。母親の兄にあたる伯父さんは、体格がよく強面だった。
『悠、俺の会社で働け。言っとくがこれは決定事項だ。住居も決めてある。』
あの顔と言い方で嫌とは言えないっつう…ね…。ま、いいけど。給料もまあまあ良かったし。

30分もかからずにバスを降りる。ここから800mほど歩く。ここは町はずれの雰囲気だ。住宅やマンションが多く、コンビニが点在している。たまに回転寿司屋やレストランがある。
「ここか…。」
ターゲットの住所があるアパートに着いた。

一階はクリーニング店や雑貨屋、ケーキ屋があり、それなりに人の出入りがあった。2階と3階にアパートの窓が並んでいる。ターゲットはここの2階に住んでいるはずだ。裏手に階段を見つけて登って行った。

202号室には、「箕田」の文字。やはりここが住居に違いない。迷わずインターフォンを押す。これで本人が確認出来れば今回の任務は完了。…楽だ。でもそう上手くは行かないようで、3回押して待ったが応答はなかった。

『ちょっと隣に聞いてみようかな?』
両隣を訪ねたが、201号室も203号室も誰も出て来なかった。
『在宅率低っ。』

でも、よくよく考えると今日は平日。このアパートの広さだとせいぜい2部屋。単身向けだとすればうなずける。斜め向かいにあるコンビニで対策を練ろうとアパートを後にした。

「さあて、どうするか…。」
コンビニで雑誌を立ち読みしているフリをしながら、斜め向かいのアパートに目を向ける。ここからかろうじて建物の半分を見ることができた。3階の住人や2階の他の住人に当たるか…?それともクリーニング店や雑貨屋の店員に聞く?
30分ほど考えて、とりあえず午前中は周辺をうろつき、たまにアパートに登って本人宅と両隣の帰宅を待つことにした。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,251pt お気に入り:745

たとえ偽りの番でも、たとえ愛されなくても

BL / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:1,282

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,572pt お気に入り:139

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,327pt お気に入り:846

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,172pt お気に入り:33

処理中です...