ある時、ある場所で

もこ

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4回目〜2年前〜(悠)

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「佐々木信孝ですね。」
「ああ。76歳。データはいつもの通り、スマホに送ってある。」
俺は「過去の部屋」のパソコンの前で、洸一さんと向き合っていた。これで4回目。もうこの流れも慣れたものだ。

「今回の俺の名前は?」
俺の言葉に洸一さんが立ち上がり、後ろのテーブルから身分証と運転免許証を差し出し、俺はそれを受け取った。

『これって、結局偽造になるんだよな?』
自分の顔写真が貼り付いた運転免許証をひっくり返す。何処も不自然なところがない。俺の顔のわきに「佐々木翼」という名前があるのが違和感ありまくりだけど…。

「翼、翼、佐々木…。」
覚え込もうとしている側で、洸一さんの声が聞こえた。
「…お前、今回行くのか?」
「えっ!?」
咄嗟に対処できなかった。なんて言う?行く気はないというのは違うような気がするし…。

「…できれば。」
洸一さんにはごまかしは効かない。そんな気持ちで告げる。
「今まで遭遇して、お前が『伊那村悠』である事には気がついているのか?」
反対されるかと思った洸一さんの次の言葉は俺の予想を裏切った。
「いいえ。」

「じゃあ、行くな。もし偶然出会ったとしても無視しろ。過去に接点があったとしたら尚更だ。少なくとも『伊那村悠』である事は隠し通せ。」
やはり反対されたか…。当然といえば当然だが、俺には納得する理由が欲しかった。
「なぜ?」

「お前、帰ってきて…真人がこの世からいなくなってたとしたらどうする?」
「…!?そんな事あり得るんですか!?」
驚いた…。俺と過去で会う事で…真人が消える…?

「あり得るかどうかを今検証しているんだ。まだまだ危険は冒せない。大事な人なら尚更だろ?」
優しい口調…。洸一さんの「大事な人」という言葉が心に染みた。洸一さんは、俺の気持ちが分かっている。
「はい。…分かりました。」

荷物を確認して、過去への扉を通り抜ける。物置小屋を開けると今にも雨が降りそうな曇り空だった。今日は雨か…。まだ降り出してはいないが風が強い。1月にしては暖かい方だが、風が容赦なく体温を奪う。
『あれ…?』

小屋の入り口に立てかけるように傘が置いてあった。コンビニに売っているような透明なビニール傘。
『誰かの忘れ物か?』
もらってしまおうか…。ちょっと心は動いたが、必要になれば買えばいい。そのまま携帯で任務について確認しながら、バス停に向かった。


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