無添加ラブ

もこ

文字の大きさ
23 / 38
本屋の外回り

2

しおりを挟む
「こんにちは。太田書店です。」
「ああ小寺さん、ありがとう。」
ビニール袋に包まれた本を一冊、「OHTA」の店長の須賀さんに手渡す。この人は、しおりんの遠い親戚って聞いたことがある。40代のオジサン。最近、40代の人が結構な年寄りに見えてる。この人も……この目尻の皺がなければもっとイケてるだろうに。

「午後一番に取りにくると言ってたから、本当に助かったよ。」
「いえ、ちょうどこちらにあって良かったです。」
今は午前10時半。このショッピングモールも当然開店しているけど、平日の午前中は本屋にまで用事があるお客さんは少ないらしく、閑散としていた。

生田君と極力合わないように気を遣う。外回りになってすぐに、この須賀さんにそれとなく聞き出し、バイトの子は土日以外は夕方からしか入れてない事を聞き出していた。今日も生田くんは当然いない。

「それでは、またよろしくお願いします。」
納品書も手渡して、帰ろうとした時、須賀さんに声をかけられた。

「そちらではバイトの子は間に合ってますか?」
バイトの子という言葉にギクッと反応する。

「ええ、人手が足りないとは聞いたことがありませんが。」
嘘……こちらは店の規模が大きいこともあって、バイトを多く雇っている。入れ替わりも多いから大変だと山根さんが言ってた。僕の時みたいに長く勤めてくれる子が欲しいって。

「そっか……いや、そっちの方が家に近いとか何とかで、こちらを辞めてもいいかなんて言ってきた子がいてね。」
生田くん……? 店長からは一言もなかったけれど、勝手に想像して口が動いた。

「こっちはちょっと難しいかもしれないですね。上に聞いてみないと分からないですが……。では失礼します。」
言い捨てて、「OHTA」を後にする。後でそんな事なかっただろうと苦情がきても構わない。バックヤードから一階に降りて、もはや僕の愛車になりつつある会社の白のミニバンまで走って行った。

赤信号で止まり、横断歩道を渡る人たちを眺める。男の人も女の人も、みんな充実した顔をしている。僕は……何だか空虚だ。

「久しぶりに『J』にでも行ってみようかな。」
信号が青に変わる。僕は呟いて、静かにアクセルを踏み込んだ。



『準備するか。』
1日の勤務を終えて、自分のマンションに帰り浴室でシャワーを浴びる。「J」に行く前の儀式。誰かと夜を共にするとはいかない事が殆どだけど、いつ初恋のあの人と出会ってもいいように……。

「う……ン。」

『じゃ、生田くん好き、って言って。』
耳の中に何ヶ月か前の、あの時の声が蘇る。あんなに身体が満たされたのは初めてだ。でも……。

心が満たされない。好きなんかじゃない……。ただ、身体の相性が良かっただけ……。

『俺も好き。……アキラが好きだ!』

「あっ……ン。」

僕はアキラじゃないのに……あの声が忘れられない……。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~

水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】 「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」 実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。 義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。 冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!? リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。 拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

別れたはずの元彼に口説かれています

水無月にいち
BL
 高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。  なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。  キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。  だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?  「やっぱりアレがだめだった?」    アレってなに?  別れてから始まる二人の物語。

処理中です...