27 / 38
K
2
しおりを挟む
「マスター、久しぶり!」
ダークブラウンの扉を開き、挨拶をする。
「アキラさん、いらっしゃいませ。久しぶりですね。」
マスターが相変わらず穏やかに僕を迎え入れてくれた。
「はぁっ、疲れた。マスター、ごめんね。去年の夏飲んだ分払いに来るの忘れてた。」
「ははっ、相変わらず真面目ですよね。たまにはそのスーツを脱いで楽な格好で来たらどうですか?」
スーツを脱いで……。考えたこともなかった。ここに来るためだけの服。けれど、この服じゃないと落ち着かない。髪の毛もこうじゃないと……。
『髪型なんて変えても顔を変えなきゃ無理だよ。』
そうなのかもしれない。けど、こうでなければ僕が僕でいられない。
「いつものちょうだい。」
今まで通り。今日もここで、入ってくるお客さんを眺めるんだ。ガタイのいい男が僕の好み。そして、オジサンならもっといい。
「アキラさん、何か雰囲気変わりましたね。進展ありましたか?」
「ないよ……ずっと待ってる。」
そう、僕は今まで通り。オジサンに会える日を心待ちにしている。
チリンチリン
マスターがギムレットを出すと同時に、入り口のドアが開いた。
「……。」
こちらをジッと見てる大きな男。
「久しぶり。」
僕はグラスを掲げてみせた。
「マスター、帰るね。これ今までの分。」
5000円札を1枚カウンターに置いて席を立つ。多めに払うのは前回の謝罪分。お釣りはいいから、と言って、入り口に立ったままのこういちさんのところに行った。
「久しぶり。行こ。」
こういちさんが珍しく、初めて僕の肩に腕を回した。
「こういちさん、進展あった?」
歩きながら聞いてみる。
「誰と?」
こういちさんが僕をギロッと睨んできた。そっか……こういちさんもまだか。
「想い人と。」
「……ない。」
「そっか。じゃ、もっとギュッとして。恋人にするみたいに。……いいでしょ?」
「アキラ……。」
僕の言葉に立ち止まったこういちさんが、顔を持ち上げてキスをしてきた。
『陽介……すげー好き。』
不意にあの時の言葉が耳に蘇る。生田くんはどうしてあんな事を言ったんだろう。いや、誰にでも言っているのか……。
「やっぱり、僕、こういちさんがすごい好き。……かもしれない。」
僕からの精一杯のリップサービス。今日はこういちさんしか見えない。だから、忘れさせて。脳裏に出てこようとする面影を。耳に聞こえてくる声を……。
こういちさんが、僕の腰を抱いてまた歩き始めた。僕もこういちさんの歩調に合わせる。
それから僕たちは、無言になってただ歩き続けた。
ダークブラウンの扉を開き、挨拶をする。
「アキラさん、いらっしゃいませ。久しぶりですね。」
マスターが相変わらず穏やかに僕を迎え入れてくれた。
「はぁっ、疲れた。マスター、ごめんね。去年の夏飲んだ分払いに来るの忘れてた。」
「ははっ、相変わらず真面目ですよね。たまにはそのスーツを脱いで楽な格好で来たらどうですか?」
スーツを脱いで……。考えたこともなかった。ここに来るためだけの服。けれど、この服じゃないと落ち着かない。髪の毛もこうじゃないと……。
『髪型なんて変えても顔を変えなきゃ無理だよ。』
そうなのかもしれない。けど、こうでなければ僕が僕でいられない。
「いつものちょうだい。」
今まで通り。今日もここで、入ってくるお客さんを眺めるんだ。ガタイのいい男が僕の好み。そして、オジサンならもっといい。
「アキラさん、何か雰囲気変わりましたね。進展ありましたか?」
「ないよ……ずっと待ってる。」
そう、僕は今まで通り。オジサンに会える日を心待ちにしている。
チリンチリン
マスターがギムレットを出すと同時に、入り口のドアが開いた。
「……。」
こちらをジッと見てる大きな男。
「久しぶり。」
僕はグラスを掲げてみせた。
「マスター、帰るね。これ今までの分。」
5000円札を1枚カウンターに置いて席を立つ。多めに払うのは前回の謝罪分。お釣りはいいから、と言って、入り口に立ったままのこういちさんのところに行った。
「久しぶり。行こ。」
こういちさんが珍しく、初めて僕の肩に腕を回した。
「こういちさん、進展あった?」
歩きながら聞いてみる。
「誰と?」
こういちさんが僕をギロッと睨んできた。そっか……こういちさんもまだか。
「想い人と。」
「……ない。」
「そっか。じゃ、もっとギュッとして。恋人にするみたいに。……いいでしょ?」
「アキラ……。」
僕の言葉に立ち止まったこういちさんが、顔を持ち上げてキスをしてきた。
『陽介……すげー好き。』
不意にあの時の言葉が耳に蘇る。生田くんはどうしてあんな事を言ったんだろう。いや、誰にでも言っているのか……。
「やっぱり、僕、こういちさんがすごい好き。……かもしれない。」
僕からの精一杯のリップサービス。今日はこういちさんしか見えない。だから、忘れさせて。脳裏に出てこようとする面影を。耳に聞こえてくる声を……。
こういちさんが、僕の腰を抱いてまた歩き始めた。僕もこういちさんの歩調に合わせる。
それから僕たちは、無言になってただ歩き続けた。
0
あなたにおすすめの小説
氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~
水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】
「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」
実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。
義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。
冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!?
リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。
拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
一緒に食べよう
河野彰
BL
三坂貴史(みさかたかし)は2年前に妻に先立たれ、娘の実咲貴(みさき)と一緒にマンションで暮らしていた。偏食の気がある実咲貴に困ったり、学童を断られたりと心労や疲労が続くなかで、同じマンションに住むフレンチシェフの一修吾(にのまえしゅうご)と出会う。
最初は実咲貴の安全を考えて警戒していた貴史だが、何度か偶然にも出会う内に修吾のおおらかさと手作りの料理とで次第に心を許していき……。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
交際0日婚の溺愛事情
江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。
だから緩やかに終わりを探して生きていた。
──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。
誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。
そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。
■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。
■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる