3 / 8
4日前
しおりを挟む
夕飯が終わり、コーヒーを持ってベランダに出る。今日は暖かくて気持ちがいい。近くの公園から吹き飛ばされてきた桜の花びらがヒラヒラと舞い降りてきた。
「星、綺麗だなーー。」
この辺りは住宅街で、大きなマンションもビルもない。目の前には畑が広がっていて、その先にその所有者の家が見えるだけだ。街の灯りからも遠く、夜空にたくさんの星が瞬くのが見えた。
カラカラ……
左隣から窓の開く音がする。俺の声が聞こえた? まさかな。そのままコーヒーを啜り夜空に目を戻す。まだオリオン座は見えるか? 西の方に目を向けると、かろうじてペテルギウスだと思われる星を確認することができた。
「にゃ。」
ニャッ? え? 猫? 隣にハナが来ているのか? 隣との仕切り越しに覗き込みたい衝動をかろうじてこらえた。
「ハナ、おいで。」
「……。」
俺の声に反応して現れるはずのハナを待つ。が、なかなか姿が見えなかった。
あ、あれ? ハナじゃないのか? え? 今の鳴き声って……隣の男?
ここは思い切って声をかけるか! 左手で持っていたマグカップを顔に近づけ、もう一口飲んだ。
「ここは星が綺麗だよな。」
「……。」
おい、何か言えよ! 俺の声が聞こえてんだろ? 思わず隣を覗き込もうとして、1歩左側に動いた足を元に戻す。この仕切りはプライベートを保つためのものだ。俺の倫理観が許さない。でも……。
「こんばんは。君、新入生? 欅藝大の。」
「……にゃ。」
「男、だよな?」
「……。」
絶対に返事をした。絶対に隣人の声だ、猫じゃない。それなのになぜ黙り込む?
「もしかして……女?」
「んぎゃっ!」
こいつ、猫の鳴き声でしか返事をしないつもり? 「んぎゃっ」と強く主張するところをみると、やっぱりこいつは男だ。だんだん俺は楽しくなってきていた。
顔を見たいなあ。茶髪だってのはわかるけど、顔は? 可愛かったら3歳年下の彼氏をもつのも悪くない。大切にしてやるよ?
「なあ、夕飯食べた?」
「……。」
「食べてないの?」
「にゃ。」
「どうして?」
「……。」
オイ、黙り込むなって。俺が独りで喋っているようで恥ずかしいだろ? いや独りか。コイツは「にゃ」としか言ってないし。
「肉じゃが食べるか?」
夕飯用に作った肉じゃがが、鍋に沢山残っている。少しだけ分けてやっても問題ない。
「……にゃ。」
微かな声が聞こえた。俺は嬉しくなって、まだ温かさが残っているはずの肉じゃがを取りに部屋へと戻った。
「星、綺麗だなーー。」
この辺りは住宅街で、大きなマンションもビルもない。目の前には畑が広がっていて、その先にその所有者の家が見えるだけだ。街の灯りからも遠く、夜空にたくさんの星が瞬くのが見えた。
カラカラ……
左隣から窓の開く音がする。俺の声が聞こえた? まさかな。そのままコーヒーを啜り夜空に目を戻す。まだオリオン座は見えるか? 西の方に目を向けると、かろうじてペテルギウスだと思われる星を確認することができた。
「にゃ。」
ニャッ? え? 猫? 隣にハナが来ているのか? 隣との仕切り越しに覗き込みたい衝動をかろうじてこらえた。
「ハナ、おいで。」
「……。」
俺の声に反応して現れるはずのハナを待つ。が、なかなか姿が見えなかった。
あ、あれ? ハナじゃないのか? え? 今の鳴き声って……隣の男?
ここは思い切って声をかけるか! 左手で持っていたマグカップを顔に近づけ、もう一口飲んだ。
「ここは星が綺麗だよな。」
「……。」
おい、何か言えよ! 俺の声が聞こえてんだろ? 思わず隣を覗き込もうとして、1歩左側に動いた足を元に戻す。この仕切りはプライベートを保つためのものだ。俺の倫理観が許さない。でも……。
「こんばんは。君、新入生? 欅藝大の。」
「……にゃ。」
「男、だよな?」
「……。」
絶対に返事をした。絶対に隣人の声だ、猫じゃない。それなのになぜ黙り込む?
「もしかして……女?」
「んぎゃっ!」
こいつ、猫の鳴き声でしか返事をしないつもり? 「んぎゃっ」と強く主張するところをみると、やっぱりこいつは男だ。だんだん俺は楽しくなってきていた。
顔を見たいなあ。茶髪だってのはわかるけど、顔は? 可愛かったら3歳年下の彼氏をもつのも悪くない。大切にしてやるよ?
「なあ、夕飯食べた?」
「……。」
「食べてないの?」
「にゃ。」
「どうして?」
「……。」
オイ、黙り込むなって。俺が独りで喋っているようで恥ずかしいだろ? いや独りか。コイツは「にゃ」としか言ってないし。
「肉じゃが食べるか?」
夕飯用に作った肉じゃがが、鍋に沢山残っている。少しだけ分けてやっても問題ない。
「……にゃ。」
微かな声が聞こえた。俺は嬉しくなって、まだ温かさが残っているはずの肉じゃがを取りに部屋へと戻った。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる