食っちまうぞ!

もこ

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3日前

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 ガタン、ゴン! グワングワングワン………。

 外から激しい物音がして目が覚めた。顔を上げると曇りガラスの向こうに人影。ベランダ伝いに左側へ戻って行こうとしているようだった。

「おい! 待てっ!」

 跳ね起きて窓を開ける。と同時に隣のベランダ側の窓が閉まる音がした。




 昨日は肉じゃがを入れた丼を片手に顔を見てやろうと思った。けれども、隣人が大きく手を伸ばしてきて丼を掴むとサッと部屋へと戻ってしまった。

 企み失敗。でも伸ばされた腕は、意外と細かったように思う。黒のスエットだかパーカーだか分からんが、厚手の生地の先に出ていた指はすごく細かった。女みたいだ。

「礼を言えっ! 馬鹿野郎。」

 つい言ってしまった俺は悪くないよな? その時、俺の声に反応するように下の階の住人が窓を開ける音が聞こえてきて、慌てて声を抑えて身動きを止めた。

 足元を見ると、見慣れない木製のトレーに昨日の丼が置いてある。なかなか洒落たトレー。楕円形の両脇に持ち手がくり抜いてあり、年輪を生かした茶色の塗装がしてある。

 持ち上げた瞬間に、トレーの裏側から小さな紙片がくるくると回りながら、降りていった。茶色と白の紙のようだ。

『メモ紙?』

 裏返しになって白い面が上になった紙を拾い上げる。表に返してみると、茶色の縁取りで、食パンを模したようなメモ紙にペン書きで文字が書いてあった。

〈おいしかった。ありがとう。〉

 綺麗な文字。俺の殴り書きとは全く違う。頭が良さそうな、そんな感じ。

『にゃー、にゃーばかり言ってないで、喋ればいいのに。』

 でも、何故だか俺はそのメモ用紙の言葉に満足して、お盆を抱えて部屋に戻った。




 テーブルでパソコンを立ち上げて音楽を聴いていた俺は、微かに隣の部屋の窓が開くのを聞いたような気がした。ボリュームを下げて立ち上がり、ベランダへの窓を開ける。今日は少し肌寒い。曇り空で月も星も出ていないが、左隣に人の気配を感じた。

「こんばんは。」
「……。」

 俺がベランダに出た途端に、奥に引っ込んだ男に声をかける。昨日の今日だから、返事がなくとも気にしない。

「お前、字が綺麗だな。習字かなんかやってた?」
「……にゃ。」

 コイツは「にゃ」でしかコミュニケーションを取りたくないらしい。でもまあ、いい。猫みたいなやつは俺好み。

「夕飯は食べたか?」
「……。」
「今日カレー作ったんだけど、食う?」
「……。」

 なんだ。遠慮してんのか? 知らないうちにたくさん作っちまったから、食べてもらえるとこちらはありがたいんだが。

「めっちゃ、たくさん作って余ってるんだよね。お盆も返したいし。どう?」
「……にゃ。」
「お腹空いてる?」
「にゃ。」
「待ってろ。」

 反応が良くなった隣の男に気をよくして、ちょっとニヤけそうになった顔を抑えながら部屋へと戻った。



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