僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

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教育実習ニ週目

3

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 玄関を開けると、ドンドンドンドンという音がキッチンから響いていた。玄関には靴が2足。少し小さな靴はリョウだ。でも僕よりは若干大きい? もう1つはたぶんトモ。この間ユウと買い物に行った時の靴じゃない。僕は玄関に入ると、階段に鞄を置いて、そのままキッチンへ向かった。

「ただいま帰りました。」
「お帰り。……?」
 えっ? 何か変かな? トモが何だか驚いたような顔をしてこっちを見ている。トモはワイシャツにスラックス。そしていつものエプロンだ。ソファに上着が投げ出されているところを見ると、やはり帰ってきたばかりに違いない。

「あ、あの。手を洗ってもいいですか?」
「ああ、いい判断だ。洗面所は使えない。リョウが鍵をかけて風呂に入っている。」
「えっ? 鍵をですか?」
 トンカツ用の肉を包丁の背で叩いていたトモが、一旦止めていた手をまた動かし始めた。隣で手を洗いながら話しかける。

「ああ。わざわざ大家に電話して許可を取った。先週の事がよほど嫌だったらしい。」
「そうですか。」
 鍵をつけるなんてそんなに簡単に出来るものなのか? あれ、あれか? 公衆トイレで使われているようなやつ。あの横にスライドさせる鍵なら僕にも付けられそうだ。いや、あまり得意じゃないけど。

「そのスーツ、似合うな。」
 分厚い豚のロースト肉に塩胡椒を振りながら、トモが話しかけてきた。

「あ、ありがとうございます。春に買ってたものなんですけど、今日ようやくデビューしました。」
「そうか。」
 今日は今までの紺色のスーツではなく、新しいダークグレーのスーツを着ていた。今朝はトモは先に仕事に出ていていなかったから、知らなかったんだ。でも、褒められると嬉しい。この色を選んで良かったかもしれない。

「あ、着替えたらお手伝いしますね。」
「ゆっくりでいい。」
 鼻歌でも歌いたい気分になりながら、手を拭いてキッチンを後にした。



「今日はラベンダー。」
 ジーンズに白い、今回は外国のロックバンドの写真がプリントされたTシャツを着て、リョウがリビングに入ってきた。バスタオルで頭を拭いている。キャベツを四半分に切って水で洗っていた僕は途端に緊張した。

『俺にしとけよ。』
 昨日漏れ聞いた声を思い出して、横目でトモを見る。昨日は気にしないように努めて1日を過ごした。けど……。しかし、トモはリョウに気づいていないかのように、肉に衣を付けていた。

「リョウさん、花の香りが好きですよね。」
 動揺を隠すようにして普通に話しかける。洗面所の引き出しに入れてあるのは、花の香りの固形の入浴剤ばかり。初めて見た時には笑ってしまった。女っぽいところはないけど、顔は中性的だし何となく花が似合いそうだ。お陰で僕も毎日花の香りを身に纏っている気がする。

「リラックス効果。」
 濡れた髪でいつもより濃い色になった頭をガシガシ拭きながらリョウが答えてくれた。
 

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