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教育実習ニ週目

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「……どうした?」
 ぶつかったのはトモだった。全然気配が分からなかった。2階から降りてきたのだろうか? それとも廊下の隅にじっとしていた?

「いえ、だ、大丈夫です。」
 自分の痴態を覗かれたわけでもないのに顔が熱い。ドキドキしながらトモの脇をすり抜け、それでも音を立てないよう注意しながら、出来るだけ早く階段を昇った。自分の部屋に行って後ろ手にドアを閉め、その場にズルズルと座り込む。

『リョウとユウ……。』
 知識としては知っていた。男どうしのセッ・ス。でも知識として今までに見たことがあるものと、実際に見た光景では、天と地の差があるように感じた。

 ガタガタッ 

「……………。」
「…………………。」

 下から物音や声が聞こえてきて、慌てて立ち上がる。争い事は好きじゃない。ドアに鍵をかけて、ずっと握りしめていた空のコップをテーブルに置き、スマホとイヤホンを持ってロフトに上がった。

『トモはショックだろうな……。』
 布団を頭から被り、音楽を流しながらさっき見た光景を思い出す。きっとトモも見たはずだ。そして今、たぶん修羅場を迎えてるんだ。

 音楽に集中しようとしても中々そうはいかなかった。リョウ……。女っぽいと思っていたけど、身体は完全に男だった。付いているものはちゃんとついてた。そしてユウ……。獣のようにリョウの肩に喰らい付いて腰を振っていた……。

『俺にしとけよ。』
 いつか漏れ聞いたトモの声が忘れられない。リョウはユウのことを追いかけてきたんだ。ユウはノーマルだと思っていたのに、そうではなかったのか? トモはどんな気持ちなんだろう? リョウはあの時、満たされていたのか? あの時……。

 何をどう考えたらいいのか分からないまま、気がついたら自分の下半身に手を伸ばしていた。僕の分身が反応していて愕然とする。

『いや、アレは誰でも刺激が強過ぎだろ?』

 僕はノーマルなんだ。でも、こんなに硬くなった分身のまま眠れるような気がしない。本能のまま右手を動かしながら、お気に入りの動画を思い出そうとする。けれども頭の中に浮かんでくるのは、さっき見た光景ばかりだった。

『僕の分身を触ってるのは……。』

 さっきはユウがリョウの分身を握りしめているようだった。僕のこれを扱いているのは自分? それともユウ? それとも……トモ? 

「……つっ。」
 何がなんだか混乱しているうちに、分身を扱く手も速くなりいつの間にか達していた。息が苦しい。布団の中から顔を出して、はぁはぁと息を整える。

「なんだよっ!」

 下からリョウの声がして体がビクッと反応した。いつの間にかイヤホンがどこかにいってしまっていた。ドタドタと階下から足音がする。

 バン!

 思いっきり閉められたであろうリョウの部屋の襖の音に、どうしたらいいか分からなくなった。まだ、声が聞こえる……。ユウとトモが話をしているのか? 

『明日からどんな顔をしてみんなに会えばいいんだろ。』

 すっかり頭から追い出された学校の指導案を思い出すことなく、それからしばらく下の物音に漠然と耳を傾けながら、物思いに耽っていた。



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