僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

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教育実習四週目

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 佐々木先生の言葉を聞いた途端、全身の血が足元に沈んでいくような気がした。

『小池……!』

 昨日、僕が教室まで呼びに行ったんだ。あの時は普通だった。僕も何も分からずに小池を佐々木先生へ引き渡しただけだった。後からご両親が交通事故に遭ったとは聞いたけど、まさか……!

「五十嵐君? 五十嵐先生!」
「あ、は、はい! 長内を呼んできます。」

 佐々木先生の声で我に返り、自分の席に鞄を置いて3階の教室まで急いだ。長内は学級の副委員長だ。小池の代わりに仕事を頼むに違いない。

『小池は今どんな気持ちでいるのだろう。』
 まだ14、5歳の子どもが家族を一瞬にして失う。想像力の乏しい僕でもその喪失感が大きいものだということは分かる。昨日きっと病院へ行って……。他に兄弟はいるのだろうか?

 胸が締めつけられた。小池が今どんな気持ちでいるのかと思うと、何かしてあげたいのに何もできない自分に苛立ちを感じた。僕はただの教育実習生。でも、この3週間、確かに小池の先生だった。

 この気持ちは小池に告白をされたからではない。人として、あの子に関わりを持った者として当然なものだ。そう自分に言い聞かせながら教室まで行くと、ちょうど登校したばかりで、鞄を机の上に乗せ、教科書を取り出している長内を見つけた。

「佐々木先生が呼んでるからちょっと来て。」
「どうしたんですか? わー先生。」
「いいから。」

 不思議そうな顔をした長内を後ろに従えて、無言のまま職員室に戻る。佐々木先生の側で話を聞いている長内の顔が驚いた表情になるのを、僕は自分の席から眺めていた。今日の予定はなんだっけ? そんなことが一瞬だけ頭を過ったけれど、何だかどうでもいいような気がした。




「小池のご家族が、昨日交通事故で亡くなられた。」

 朝の学活の時間、佐々木先生の話はそこから始まった。たぶんお葬式が近々あること、今週は小池が休みになるだろうこと。今、小池の事を考え、自分たちで何ができるか考えなくてはならない。そんな話を聞く子どもたちは誰一人として茶化す雰囲気を出さずに、真剣な面持ちで話を聞いていた。

 僕は何をしてあげることができるだろう? 何かをしてあげたい気持ちと、もうすぐ教育実習が終わってしまう事実。せめて、そばに行って慰めてやりたいような気もするけれども、僕はそんな立場にはいない。

『僕には何もできない……。』

 その事実にただ打ちのめされながら、佐々木先生の話を聞いていた。


「五十嵐君、今日の3年3組の授業、また自習監督を頼めるか?」
「大丈夫です。プリントですか?」

 2時間目の授業の後、職員室に戻ると佐々木先生に声をかけられた。3年3組といったら5時間目だ。午後に何か用事でもできたのだろうか? 佐々木先生は6時間目は空きのはず。

「ああ。小池の様子を見てくる。管理職には許可を取った。すまないな、何かあったら隣のクラスにいる先生か教頭を頼ってくれ。」

「分かりました。」
 小池……今頃どうしているのだろう。3年前に祖父が亡くなった時のことを思い出す。あの時両親は、葬儀の会場を決めたり、遺体に付き添ったりと大変そうだった。僕はただ命令されたことをその通りに手伝うのが精一杯だった。小池は……。

 まだ中学3年。小池がその事実を受け止め切れるのかどうか、考えただけで吐き気が込み上げてくるような、そんな気がした。


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