69 / 104
教育実習四週目
14
しおりを挟む
学校に着く頃には、頭の中は学校のことに切り替わった。今日は1時間目が空きで、2時間目が3年2組、3時間目は校長の講話。4時間目には2年1組、5時間目には1年1組、そして6時間目には3年3組の自習監督だ。
『今日は小池の家族の葬儀だ。』
もう諦めてはいるものの、やはり残念な気持ちは拭えない。来週のバドミントンの地区大会を見に行ったら会えるだろうか?
「今日は朝の学活には来なくていいぞ。昨日仕上げた教育実習のまとめも見終わって管理職に上げてある。3時間目の校長との話は覚悟をしておくことだ。」
佐々木先生に脅されて少しだけビビる。とても穏やかな校長で、研究授業を終えた後の指導も「よく頑張った。」と労ってくれた。えっ? 最後の最後でダメ出しをされる?
唯一の空き時間を有効に使おうと、与えられていたロッカーと机の中のものを取り出して鞄に入れる。とはいっても荷物はほとんどないから、1時間目の授業が始まる頃には全て終わってしまった。1時間目には自習プリントを解いてみたり、1年生や2年生の教科書を眺めたりして、最後の1日に備えることができた。
2時間目。3年2組の授業だ。珍しく佐々木先生は降りてこなかったから、3年生の教科書と教育実習ノート、筆箱を持って1人で3階に上がる。いつもの廊下を歩きながら、休み時間の割には子どもたちが少ないことに気づいた。
『3年2組はまだ授業が終わってないのか?』
3年2組の子どもは誰一人として廊下に出ていない。それ以上に教室がシンと静まりかえっていた。1時間目は道徳だったはず。今日は来なくてもいいと言われて空きができたんだ。まだ授業中かもしれないと、恐る恐る教室の後ろの引き戸を開ける。
パン、パパン、パン、パン!
大きな音が後から後から鳴り響き、心臓が止まるかと思った。いくつかある金や青の紙吹雪入りのバルーンを誰かが割ったらしい。いつの間にか教室が折り紙のチェーンで飾られ、色とりどりのお花紙で作った花が華やかさを増していた。それに1番は……黒板アート。
『わー先生ありがとう!!』
今年流行った映画のキャラクターが大きく描かれた上に被せる形で、文字が浮かび上がっていた。
「「「わー先生良い先生になってね!」」」
どこで練習をしていたのか、全員がこちらを向いて声を揃えた。いつの間にか、鼻の奥がツンとして涙が溢れてきていた。子どもたちの前でなんか泣きたくもないのに……!
「わー先生、前に来て。」
渡邊に声をかけられて、教室の前に進む。黒板の前には浅川と長内、加納が待ち構えていた。
「卒業証書。五十嵐和殿。あなたは…………。」
加納から教育実習卒業の手作り証書を与えられ、長内からは小さな花束をもらった。そして浅川。
「みんなからのメッセージ。先生になるには試験があるんでしょ? わーちゃん大丈夫? 勉強してよ?」
お前だけには言われたくない、と内心思ったけれども、後から後から流れ出てくる涙はどうしようもなかった。
「先生、この黒板アートは小池のアイディアなんだよ! そしてこれ……裏見て?」
浅川の隣から小さく声をかけてきた長内に言われて、リボンがかけられた色紙の裏側を見る。裏には小さな便箋に書いて貼り付けられた小池からのメッセージがあった。
『和先生へ。
先生の数学の教え方はとてもわかりやすくて好きでした。先生なら、きっと生徒に慕われる先生になれると思います。今度、いつか会いに行きます。その時は笑顔で会いたいと思います。
小池。』
溢れる涙を、もうどうする事もできなかった。長内が小池とは家が近所で頼まれたんだ、などという言葉も頭の上を素通りしていった。
『今日は小池の家族の葬儀だ。』
もう諦めてはいるものの、やはり残念な気持ちは拭えない。来週のバドミントンの地区大会を見に行ったら会えるだろうか?
「今日は朝の学活には来なくていいぞ。昨日仕上げた教育実習のまとめも見終わって管理職に上げてある。3時間目の校長との話は覚悟をしておくことだ。」
佐々木先生に脅されて少しだけビビる。とても穏やかな校長で、研究授業を終えた後の指導も「よく頑張った。」と労ってくれた。えっ? 最後の最後でダメ出しをされる?
唯一の空き時間を有効に使おうと、与えられていたロッカーと机の中のものを取り出して鞄に入れる。とはいっても荷物はほとんどないから、1時間目の授業が始まる頃には全て終わってしまった。1時間目には自習プリントを解いてみたり、1年生や2年生の教科書を眺めたりして、最後の1日に備えることができた。
2時間目。3年2組の授業だ。珍しく佐々木先生は降りてこなかったから、3年生の教科書と教育実習ノート、筆箱を持って1人で3階に上がる。いつもの廊下を歩きながら、休み時間の割には子どもたちが少ないことに気づいた。
『3年2組はまだ授業が終わってないのか?』
3年2組の子どもは誰一人として廊下に出ていない。それ以上に教室がシンと静まりかえっていた。1時間目は道徳だったはず。今日は来なくてもいいと言われて空きができたんだ。まだ授業中かもしれないと、恐る恐る教室の後ろの引き戸を開ける。
パン、パパン、パン、パン!
大きな音が後から後から鳴り響き、心臓が止まるかと思った。いくつかある金や青の紙吹雪入りのバルーンを誰かが割ったらしい。いつの間にか教室が折り紙のチェーンで飾られ、色とりどりのお花紙で作った花が華やかさを増していた。それに1番は……黒板アート。
『わー先生ありがとう!!』
今年流行った映画のキャラクターが大きく描かれた上に被せる形で、文字が浮かび上がっていた。
「「「わー先生良い先生になってね!」」」
どこで練習をしていたのか、全員がこちらを向いて声を揃えた。いつの間にか、鼻の奥がツンとして涙が溢れてきていた。子どもたちの前でなんか泣きたくもないのに……!
「わー先生、前に来て。」
渡邊に声をかけられて、教室の前に進む。黒板の前には浅川と長内、加納が待ち構えていた。
「卒業証書。五十嵐和殿。あなたは…………。」
加納から教育実習卒業の手作り証書を与えられ、長内からは小さな花束をもらった。そして浅川。
「みんなからのメッセージ。先生になるには試験があるんでしょ? わーちゃん大丈夫? 勉強してよ?」
お前だけには言われたくない、と内心思ったけれども、後から後から流れ出てくる涙はどうしようもなかった。
「先生、この黒板アートは小池のアイディアなんだよ! そしてこれ……裏見て?」
浅川の隣から小さく声をかけてきた長内に言われて、リボンがかけられた色紙の裏側を見る。裏には小さな便箋に書いて貼り付けられた小池からのメッセージがあった。
『和先生へ。
先生の数学の教え方はとてもわかりやすくて好きでした。先生なら、きっと生徒に慕われる先生になれると思います。今度、いつか会いに行きます。その時は笑顔で会いたいと思います。
小池。』
溢れる涙を、もうどうする事もできなかった。長内が小池とは家が近所で頼まれたんだ、などという言葉も頭の上を素通りしていった。
0
あなたにおすすめの小説
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~
水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】
「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」
実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。
義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。
冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!?
リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。
拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる