僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

文字の大きさ
71 / 104
教育実習四週目

16

しおりを挟む
『今日は、まだ誰も家に帰ってないだろうな。』

 太陽が西に傾き、真っ正面から夕陽を浴びる形で家裏の河川敷を歩いていた。まだ5時過ぎだ。今までで1番早い時間に帰宅できた。教育実習終了。何だか清々しい気分。



 教育実習最終日は部活を手伝わなくても良いと話があった。6時間目が終わると、全学年の子どもたちが体育館に集められ、簡単なお別れの集会を開いてもらった。僕は事前に知らされてなくて、危うく全生徒の前で泣いてしまうところだったけれど、何とか堪えて挨拶をすることができた。

 そして子どもたちが各々部活動に散った後、職員室で先生方を前にしてお礼の挨拶をし、最後の教育実習ノートを見てもらって、その後もう帰っても良いと言われた。少しだけ名残り惜しい気がしたけれど、荷物を全部持って職員室に残っていた先生方に挨拶をし、玄関へと向かった。

『小池に手紙を渡してきた。』
 見送りに来てくれた佐々木先生に、突然話しかけられた。

『小池は泣いてなかったな。五十嵐君の手紙だと言った時にはとても驚いていた。いや、大したものだったよ。お祖父さんお祖母さんたちに囲まれながら、キチンと参列者に頭を下げていた。』

 そうか。小池はそういう奴かもしれない。変に大人びていていつも感情を隠している……。でも一度だけ小池の本音に触れたことがある。1週間前の金曜日。何だかあの体育館での出来事が遥か昔の事のように思えた。

『小池は転校が決まった。』
『えっ!?』
『さっきお祖母さんから電話があって、父方の祖父母と暮らすことになるらしい。来週のどこかで転校手続きをするそうだ。』
『そうですか……。』

 では、本当にこれで小池と会うことは無くなるわけだ。部活の大会にも……来ないだろうな。そう考えると、手紙を渡してもらえたことは本当に良かった。佐々木先生に改めてお礼を言って、靴を履き、学校を後にした。



 家の裏門を開けて敷地に入る。南側の玄関に近づいたところで物音に気づいた。

「トモさん!」
「ああ、お帰り。早かったな。」

 ドアを開けたばかりのトモと鉢合わせになった。トモはやはりネクタイとスラックスの上に作業服を身に纏っていた。僕以外の3人がたまに着ているのを見かけるベージュ色の作業着。胸ポケットに「F」のロゴが紺色に輝いている。

「トモさん、いつもこんなに早いんですか?」
「いや、今日は特別。話があると言ったろ?」

 その言葉を聞いて今朝のことを瞬時に思い出す。学校のことや小池のことで頭がいっぱいで完全に頭から抜けていた。大切な話があると言ったトモ。そして額へのキス。学校で子どもたちに質問責めにあった時の、あの気持ち。

「着替えてきて。ちょっとだけ2人で散歩に行かないか?」
「は、はい。」

 硬直していた体がトモの一言で動き出す。何かを期待している。もう既に心のどこかでは自分の気持ちは分かっている。そんな気持ちで、トモの後に続いて家の中に入った。



 手を洗ったり着替えを済ませたりしながら、言葉少なく2人で家から外へ出た。トモの後に続く形で裏門から河川敷の遊歩道へと歩き出す。3つあるアスレチックを右手に見ながら、ただ歩き続けた。

「橋の向こう側にも遊歩道が続いているんだ。行ってみよう。」

 バス停の向こう側にある遊歩道は僕も知っていた。桜の木がたくさん植えられていて、花が咲くと見物客で賑やかになるけど、普段は人が少ない場所。僕は一度も足を踏み入れたことは無かった。

 そこは、ちょっとした憩いの場になっているらしかった。遊具は1つもなかったけれど、トイレや水道があって、所々に苔むした東屋が設置されているとても静かな場所だ。

 1番奥まで歩いて行く。橋から200mほど。散歩している人も遊んでいる人も誰一人としていなくて、ただ風だけがサラサラと桜の葉を揺らしていた。1番奥の東屋まで来ると、トモが立ち止まって僕の方に体を向けた。

「俺の名前は小池智治《こいけともはる》。元は小池基治《こいけもとはる》だった。」

「えっ?」
 あまりに突然告げられた言葉に、僕はトモが何を言い出したのか分からなかった。
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~

水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】 「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」 実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。 義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。 冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!? リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。 拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...