93 / 104
オオカミは1人だけ
17
しおりを挟む
僕が4階のフロアに辿り着くと、そこにはトモやユウより体格のいい1人の男が立っていた。その場所は何もなく、壁も天井も床も全て白く塗られ、左右には、やはり白いベンチのようなものが作り付けられていた。奥の壁一面に広がる窓から入る光で全体が輝いて見える。
「お前たちだな? 所長から聞いてる。こっちへ来い。」
コウイチと呼ばれた男……トモに少しだけ雰囲気が似ているような気がする。短髪で前髪を立たせて固めているけど。でも、切長の目で見られると少しだけ怖い。声がものすごく低くて凄みがある。トモの方が少しだけ優しい顔と声をしているかも。
トモの方を見るとトモもこちらを見ていた。少しだけ口角を上げるとそっと手を繋いでくる。そして2人で、いつの間にか音もなく左側に開いていた部屋へと、みんなの後について入って行った。
『ここは……?』
先程の白い空間とは違い、今度は藍色で塗り固められた空間。間接照明がいくつかつけられているけど、全体的に暗いイメージだ。目が慣れてくると、壁や天井に黒い無数の小さな点があるのが分かった。右側の壁には大きな机が置いてあり、3台のパソコンのモニターとキーボードが1つだけ置かれていた。
「君たちは俺を知っているな?」
「「はい。」」
「洸一さん! 若いっ!」
パソコンを背にしてこちらを向いたコウイチさんと向かい合うようにして、4人で横に並ぶ。ユウとトモの声に被せるようにしてリョウが弾んだ声を上げた。
「リョウ!」
ユウの非難するような口調で、リョウが少しだけ顔を赤らめた。
「俺は君たちのことは知らない、知りたくもない。ただ、今日の件に関しては指示を受けている。帰るのは誰だ?」
「「はい。」」
ユウとリョウが2人揃って手を上げる。コウイチさんの視線がトモへと向かった。
「では、残るのは君だな? 名前は?」
「小池智治。これから『U』の部屋で働くことになる者です。」
「……『U』?」
コウイチさんは少しだけ眉間に皺を寄せて何やら考えているようだったけど、皺を解くとまたトモへ向かって質問してきた。
「では、智治くんはここの操作もできるな?」
「はい。」
「俺もできるとは思うが自信がない。今回は君に任せる。12年後に帰す前に、1度10年後のこの日付で扉を開くように言い渡されている。こちらに来て指示書を確認してくれ。」
コウイチさんに促されて、トモがパソコンの前の椅子に座り、渡された封筒に入った書類を出して眺め始めた。急に隣のトモが行ってしまって居場所がない。僕はトモの隣にある、もう1つの空いている椅子に座りたくてしょうがなかった。
「君、名前は?」
いきなり声をかけられて肩が揺れた。慌ててコウイチさんの顔を見る。すると目の端に、後ろをサッと振り返るトモの姿が見えた。
「五十嵐和といいます。」
トモが見ている。それだけで勇気が出てコウイチさんの顔を真っ正面から見た。
「君が智治君の…………?」
トモの何だって? 何を言いたいの、この人? でも何となく、何を聞かれているか分かったような気がして顔が熱くなるのが分かった。
「洸一さん、浮気はダメです。」
「奏さんに言いつけますよ?」
「カズは俺のモノなので。」
ユウが声を上げるのを始めとして、リョウ、トモが後に続いた。3人の顔を順に睨みつけるコウイチさんがいる。迫力があるけど、少しだけ耳が赤くなったような気がした。
「心配ない。俺も奏しか眼中にない。」
「お前たちだな? 所長から聞いてる。こっちへ来い。」
コウイチと呼ばれた男……トモに少しだけ雰囲気が似ているような気がする。短髪で前髪を立たせて固めているけど。でも、切長の目で見られると少しだけ怖い。声がものすごく低くて凄みがある。トモの方が少しだけ優しい顔と声をしているかも。
トモの方を見るとトモもこちらを見ていた。少しだけ口角を上げるとそっと手を繋いでくる。そして2人で、いつの間にか音もなく左側に開いていた部屋へと、みんなの後について入って行った。
『ここは……?』
先程の白い空間とは違い、今度は藍色で塗り固められた空間。間接照明がいくつかつけられているけど、全体的に暗いイメージだ。目が慣れてくると、壁や天井に黒い無数の小さな点があるのが分かった。右側の壁には大きな机が置いてあり、3台のパソコンのモニターとキーボードが1つだけ置かれていた。
「君たちは俺を知っているな?」
「「はい。」」
「洸一さん! 若いっ!」
パソコンを背にしてこちらを向いたコウイチさんと向かい合うようにして、4人で横に並ぶ。ユウとトモの声に被せるようにしてリョウが弾んだ声を上げた。
「リョウ!」
ユウの非難するような口調で、リョウが少しだけ顔を赤らめた。
「俺は君たちのことは知らない、知りたくもない。ただ、今日の件に関しては指示を受けている。帰るのは誰だ?」
「「はい。」」
ユウとリョウが2人揃って手を上げる。コウイチさんの視線がトモへと向かった。
「では、残るのは君だな? 名前は?」
「小池智治。これから『U』の部屋で働くことになる者です。」
「……『U』?」
コウイチさんは少しだけ眉間に皺を寄せて何やら考えているようだったけど、皺を解くとまたトモへ向かって質問してきた。
「では、智治くんはここの操作もできるな?」
「はい。」
「俺もできるとは思うが自信がない。今回は君に任せる。12年後に帰す前に、1度10年後のこの日付で扉を開くように言い渡されている。こちらに来て指示書を確認してくれ。」
コウイチさんに促されて、トモがパソコンの前の椅子に座り、渡された封筒に入った書類を出して眺め始めた。急に隣のトモが行ってしまって居場所がない。僕はトモの隣にある、もう1つの空いている椅子に座りたくてしょうがなかった。
「君、名前は?」
いきなり声をかけられて肩が揺れた。慌ててコウイチさんの顔を見る。すると目の端に、後ろをサッと振り返るトモの姿が見えた。
「五十嵐和といいます。」
トモが見ている。それだけで勇気が出てコウイチさんの顔を真っ正面から見た。
「君が智治君の…………?」
トモの何だって? 何を言いたいの、この人? でも何となく、何を聞かれているか分かったような気がして顔が熱くなるのが分かった。
「洸一さん、浮気はダメです。」
「奏さんに言いつけますよ?」
「カズは俺のモノなので。」
ユウが声を上げるのを始めとして、リョウ、トモが後に続いた。3人の顔を順に睨みつけるコウイチさんがいる。迫力があるけど、少しだけ耳が赤くなったような気がした。
「心配ない。俺も奏しか眼中にない。」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる