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遭遇3 〜侑〜
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「おいっ! 待てっ!」
自分は足が速い。捕まらずに逃げられる! 噴水の先に公園を出る道があったはず。さっき杏と2人で話をしていた時に遠くに見えた。全速力で円形の噴水まで戻って右に迂回する。けれどもその瞬間、右の手首を後ろから掴まれた。
「はっ、離せっ!」
驚きすぎて掠れた声しか出なかった。男と向き合う。右手はガッチリ掴まれてとても痛かった。
「何で逃げんだよ。」
「アンタ、誰?」
自分とアイツの声が重なる。嫌悪感しかない。こうやってみると、和樹よりも背が高くて肩幅も広い。癖のある髪があちこちにハネながら、首の後ろまで隠しているのが分かった。髭が動く。
「お前、大学《がっこう》で女と歩いてただろ? そしてこの前は男と手を繋いで歩いてた。どっちもイケんの?」
『?』
何を言われたのか全然分からなかった。えっ? どっちもイケるって? えっ! 自分をレズビアンだと思ってるってこと?
「なぁ、俺はゲイだ。分かってんだろ? 駅前で会ったよな?」
「……だから?」
だんだんと怒りが湧いてきた。思わず声が低くなる。男を睨むと、驚いたような顔をしてきた。
「お前……。」
男の視線が顔から下に向き、何度も体を上下する。ボタンを開けていたジャケットの前から覗くセーターを凝視しているようだった。
「女か?」
手首を掴む男の力が緩んだのを感じて思い切り振りほどく。呆気なく放たれた右手の手首をさすりながら、目に力を込めた。
「女だから何だっていうの? アンタ誰?」
もう訳がわからない。もしかして、自分を男だって思ってたってこと? 別に今に始まったことではないけど、ゲイの人に目をつけられたのは初めてだ。
「……いや、何でもない。」
左手を鼻の下に持ってきて口を覆う。戸惑っている様子が明らかだった。自分も恐怖心からいつの間にか解放されてた。
「じゃ、用事ないでしょ? 自分帰るから。」
ブラウンのTシャツに、黒の革ジャンなんか羽織ってカッコつけてる男の傍を通り抜ける。バス停に行こう。たぶん、もう大丈夫。
「待てよ。」
そう思って歩き出したのに、また右手を掴まれた。
「何!」
怒りで大声が出た。ここは、誰かに助けを求めるべきなのかもしれない。けれども、視界の中に入ってくるのは、色づいた沢山の木々だけだった。
「……タクシーで送ってやるよ。家まで。」
送る? 家まで? 急に紳士的になった男に警戒心が湧き上がる。この人自分で、ゲイだって言ってたけど。……どうしよう?
「……駅まで。」
けれども、ちょっとだけ誘惑に負けてしまった。お金を使わずに済むならありがたい。それに、ゲイだという事は、「女」は対象外でしょ? さっきは自分を男だと思って声をかけてきたのが明らかだ。
この前、一緒にいた小さな男とはどうなったんだろう?
頷いた男と今度は2人並んで歩き出す。モールに行けば、タクシーもすぐに捕まるに違いない。そんな事を思いながら、ただ、無言で落ち葉の上を歩いた。
自分は足が速い。捕まらずに逃げられる! 噴水の先に公園を出る道があったはず。さっき杏と2人で話をしていた時に遠くに見えた。全速力で円形の噴水まで戻って右に迂回する。けれどもその瞬間、右の手首を後ろから掴まれた。
「はっ、離せっ!」
驚きすぎて掠れた声しか出なかった。男と向き合う。右手はガッチリ掴まれてとても痛かった。
「何で逃げんだよ。」
「アンタ、誰?」
自分とアイツの声が重なる。嫌悪感しかない。こうやってみると、和樹よりも背が高くて肩幅も広い。癖のある髪があちこちにハネながら、首の後ろまで隠しているのが分かった。髭が動く。
「お前、大学《がっこう》で女と歩いてただろ? そしてこの前は男と手を繋いで歩いてた。どっちもイケんの?」
『?』
何を言われたのか全然分からなかった。えっ? どっちもイケるって? えっ! 自分をレズビアンだと思ってるってこと?
「なぁ、俺はゲイだ。分かってんだろ? 駅前で会ったよな?」
「……だから?」
だんだんと怒りが湧いてきた。思わず声が低くなる。男を睨むと、驚いたような顔をしてきた。
「お前……。」
男の視線が顔から下に向き、何度も体を上下する。ボタンを開けていたジャケットの前から覗くセーターを凝視しているようだった。
「女か?」
手首を掴む男の力が緩んだのを感じて思い切り振りほどく。呆気なく放たれた右手の手首をさすりながら、目に力を込めた。
「女だから何だっていうの? アンタ誰?」
もう訳がわからない。もしかして、自分を男だって思ってたってこと? 別に今に始まったことではないけど、ゲイの人に目をつけられたのは初めてだ。
「……いや、何でもない。」
左手を鼻の下に持ってきて口を覆う。戸惑っている様子が明らかだった。自分も恐怖心からいつの間にか解放されてた。
「じゃ、用事ないでしょ? 自分帰るから。」
ブラウンのTシャツに、黒の革ジャンなんか羽織ってカッコつけてる男の傍を通り抜ける。バス停に行こう。たぶん、もう大丈夫。
「待てよ。」
そう思って歩き出したのに、また右手を掴まれた。
「何!」
怒りで大声が出た。ここは、誰かに助けを求めるべきなのかもしれない。けれども、視界の中に入ってくるのは、色づいた沢山の木々だけだった。
「……タクシーで送ってやるよ。家まで。」
送る? 家まで? 急に紳士的になった男に警戒心が湧き上がる。この人自分で、ゲイだって言ってたけど。……どうしよう?
「……駅まで。」
けれども、ちょっとだけ誘惑に負けてしまった。お金を使わずに済むならありがたい。それに、ゲイだという事は、「女」は対象外でしょ? さっきは自分を男だと思って声をかけてきたのが明らかだ。
この前、一緒にいた小さな男とはどうなったんだろう?
頷いた男と今度は2人並んで歩き出す。モールに行けば、タクシーもすぐに捕まるに違いない。そんな事を思いながら、ただ、無言で落ち葉の上を歩いた。
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