自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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遭遇3 〜侑〜

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 噴水が勢いよく上がる水を眺める。いつの間にか遠くで聞こえていた子どもの声もなくなり、水の撥ねる音だけが辺りに響いていた。周りには誰もいない。

 彼氏とデートする杏。いつも女の子らしい服装で、女の子らしい仕草。自分には到底真似はできない。

 そこのモールには一人でスカートを履いて何度か来たことがある。それこそ急にワンピとかスカートを買いたくなった時。そんな時には決まって変な男に声をかけられた。

『君、1人? この後どう? 一緒に2階のカフェでコーヒー飲まない?』

 今どきの誘い文句って「コーヒー飲まない?」なの? それにアナタ、この自分の外見に騙されてるんじゃない? 自分、そんなに寂しそうに見えた? そんなことを思いながら「飲まない。」と返すのが常だった。

「帰ろ。」

 モールに行ってご飯でも食べて帰ってもいいけど、ちょっぴりお金が惜しい。バイトをしてない身としては、親からの仕送りをどう使うかでいつも頭を悩ませる。駅までのバス代もかかるしね。

 ベンチから立ち上がって、元の遊歩道を歩き始めると、前からザクザクと誰かが近づいてくる気配がした。

『?』

 ポケットに指を入れて肩で風を切って歩く姿。……あの歩き方、どこかで見たことがある。その人が街灯の下に来た時、一瞬顔が見えた。

『!』

 アイツ! あの台車の、ゲイの、確か名前は……出てこない。けれどもあちこちに跳ねた癖のある髪。綺麗に整えられた口と顎の髭。前回すれ違った時の特徴をそのまま見ることができた。

 ザク、ザク、ザク、ザク

 幅が1mあるかどうかの遊歩道。すれ違うには少し傍に寄らないと。すれ違う直前、一際大きな桜の木の根元に寄って立ち止まり、アイツをやり過ごそうとした。

「お前、バイか?」

 普通にやり過ごせるはずだった瞬間が、アイツが立ち止まってこちらを向いたことで、思い通りにいかなかった。

「?」

 バイ? バイト? えっ? なに? アイツが何を言ってるのかが全然分からなかった。戸惑っていると、アイツが一歩こちらに近づいてきた。

「オイ、お前に聞いてんだ。お前、大学で俺にぶつかってきた奴だろ? なぁ。」

 一歩詰め寄られたことで、自然と足が後ろに動く。真後ろにある桜の大木が、自分の退路がないことを教えてくれた。

 左に行って来た道を戻るか、右に行ってバス停まで行くか……。

「オイ、何か喋れよ。」

 男がもう一歩踏み出して来たことで、急に恐怖心が湧き上がる。何も考えられなかった。本能のまま走り出し、きた道を噴水の方へと駆け出していた。

 
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