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ー純ー
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タクシーの中では結構、会話が盛り上がったと思う。話していくにつれて、女っぽい話し方もするようになった。でも、コイツは女だろうが面白い奴だ。あまり気を使う必要がない。
名前は「侑」……男とも女とも取れる名前だ。だからなのか? 気軽に話せるのは。大学3年。変な匂いもせずに好感が持てる。香水だか媚薬だか分からんが、強烈な匂いを振りまいている奴は男も女も苦手だった。
「送ってくれてありがと。」
駅前でタクシーを降りて2人で地面に立つ。コイツがいう言葉に少しだけ迷った。男に見えるとはいえコイツは女だ。迷いながら口を開く。
「……送らなくて、いいのか?」
「大丈夫。あなたに家、知られたくないしね。つけてこないでよ?」
「バカやろっ。そんなことするか!」
せっかくの好意を揶揄われて少しだけ焦る。コイツはハッキリとものを言う。下心なんて微塵もねぇよ。俺は男にしか興味がない。
「じゃあ、先に帰って?」
「俺はここからは電車。」
「じゃあ、さようなら。」
シュンの所に行こう。もうそろそろ家に帰るところだろ。まだ鍵は貰ってないが、マンションの近くで待っていて……驚かせてもいいな。
改札口を通り抜けて少しだけ振り返ると、侑がまだこちらを見ていた。後をつけられないか警戒してるのか? 何だか面白くなってきて、挨拶がわりに手を上げた。
『ふっ……変なヤツ。』
シュンのマンションは2駅となりだ。30分もかからずにマンションにつける。夕飯はどうする? シュンは何か食べたか? ホームに着く頃には、侑の事など頭から消え、シュンに連絡を取るかどうか悩みながら、電車が来るのを待った。
「へへっ! 良いよねーー。この腕っ。」
「そう?」
聞き慣れつつある声に顔を上げる。駅中の蕎麦屋で夕飯を済ませて、シュンのマンションの入り口近くで帰りを待っていた。
30分以上。地下駐車場へ降りていくところの低い植え込みの端に座り、煙草を吹かしていた。遠くから歩いて来るのは、シュンと……もう一人の男。
「僕ねーー、家に招待する人は新田くんが初めてなんだーー。」
入り口の機械に鍵を当てて、解除ボタンを押す。見慣れた光景。シュン、そのセリフ、俺にも言ってなかったか? 気がつくと立ち上がって、まだ半分も吸ってなかった煙草を落として靴裏で踏み潰していた。
「さ、どうぞーー!」
「俺も入れてくれるよな?」
振り向いたシュンの顔が凍りつく。と、同時に連れの顔がハッキリと見えた。禿げ上がった頭に筋骨隆々の腕。こちらも驚いた顔をしている。
「新田君? 初めまして。君はシュンの彼氏?」
「……えっ? あぁ……まぁ。」
俺より筋肉はありそうだ。でも背は俺ほどではない。相手にしてやるよ。シュンは驚きすぎて声が出ない様子だ。
「へぇ、じゃあ、俺は元彼氏かな? 誰かとは共有しないって、言ったよなぁ?」
ブルブル震えているシュンを睨む。馬鹿が。
「じゃあ、最後の別れの挨拶だけさせて貰うわ。」
シュンの顔を殴り、新田という奴のタマを蹴り上げたい衝動に駆られる。けれども腕を上げてシュンの青白い顔に向けた途端に、気持ちが萎えた。
「……もういいわ。2人とも、俺の前に二度と現れんな。」
そう言い捨てて歩き出す。下手したら警察沙汰になる。そしたら捕まるのは俺の方だ。馬鹿馬鹿しい。アイツにそんな価値はない。
心が凍りつく。駅に向かう俺の体に、一足先に冬がやってきたようだった。
名前は「侑」……男とも女とも取れる名前だ。だからなのか? 気軽に話せるのは。大学3年。変な匂いもせずに好感が持てる。香水だか媚薬だか分からんが、強烈な匂いを振りまいている奴は男も女も苦手だった。
「送ってくれてありがと。」
駅前でタクシーを降りて2人で地面に立つ。コイツがいう言葉に少しだけ迷った。男に見えるとはいえコイツは女だ。迷いながら口を開く。
「……送らなくて、いいのか?」
「大丈夫。あなたに家、知られたくないしね。つけてこないでよ?」
「バカやろっ。そんなことするか!」
せっかくの好意を揶揄われて少しだけ焦る。コイツはハッキリとものを言う。下心なんて微塵もねぇよ。俺は男にしか興味がない。
「じゃあ、先に帰って?」
「俺はここからは電車。」
「じゃあ、さようなら。」
シュンの所に行こう。もうそろそろ家に帰るところだろ。まだ鍵は貰ってないが、マンションの近くで待っていて……驚かせてもいいな。
改札口を通り抜けて少しだけ振り返ると、侑がまだこちらを見ていた。後をつけられないか警戒してるのか? 何だか面白くなってきて、挨拶がわりに手を上げた。
『ふっ……変なヤツ。』
シュンのマンションは2駅となりだ。30分もかからずにマンションにつける。夕飯はどうする? シュンは何か食べたか? ホームに着く頃には、侑の事など頭から消え、シュンに連絡を取るかどうか悩みながら、電車が来るのを待った。
「へへっ! 良いよねーー。この腕っ。」
「そう?」
聞き慣れつつある声に顔を上げる。駅中の蕎麦屋で夕飯を済ませて、シュンのマンションの入り口近くで帰りを待っていた。
30分以上。地下駐車場へ降りていくところの低い植え込みの端に座り、煙草を吹かしていた。遠くから歩いて来るのは、シュンと……もう一人の男。
「僕ねーー、家に招待する人は新田くんが初めてなんだーー。」
入り口の機械に鍵を当てて、解除ボタンを押す。見慣れた光景。シュン、そのセリフ、俺にも言ってなかったか? 気がつくと立ち上がって、まだ半分も吸ってなかった煙草を落として靴裏で踏み潰していた。
「さ、どうぞーー!」
「俺も入れてくれるよな?」
振り向いたシュンの顔が凍りつく。と、同時に連れの顔がハッキリと見えた。禿げ上がった頭に筋骨隆々の腕。こちらも驚いた顔をしている。
「新田君? 初めまして。君はシュンの彼氏?」
「……えっ? あぁ……まぁ。」
俺より筋肉はありそうだ。でも背は俺ほどではない。相手にしてやるよ。シュンは驚きすぎて声が出ない様子だ。
「へぇ、じゃあ、俺は元彼氏かな? 誰かとは共有しないって、言ったよなぁ?」
ブルブル震えているシュンを睨む。馬鹿が。
「じゃあ、最後の別れの挨拶だけさせて貰うわ。」
シュンの顔を殴り、新田という奴のタマを蹴り上げたい衝動に駆られる。けれども腕を上げてシュンの青白い顔に向けた途端に、気持ちが萎えた。
「……もういいわ。2人とも、俺の前に二度と現れんな。」
そう言い捨てて歩き出す。下手したら警察沙汰になる。そしたら捕まるのは俺の方だ。馬鹿馬鹿しい。アイツにそんな価値はない。
心が凍りつく。駅に向かう俺の体に、一足先に冬がやってきたようだった。
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