自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

文字の大きさ
21 / 87
 ー純ー

3

しおりを挟む
 タクシーの中では結構、会話が盛り上がったと思う。話していくにつれて、女っぽい話し方もするようになった。でも、コイツは女だろうが面白い奴だ。あまり気を使う必要がない。

 名前は「侑」……男とも女とも取れる名前だ。だからなのか? 気軽に話せるのは。大学3年。変な匂いもせずに好感が持てる。香水だか媚薬だか分からんが、強烈な匂いを振りまいている奴は男も女も苦手だった。

「送ってくれてありがと。」
 駅前でタクシーを降りて2人で地面に立つ。コイツがいう言葉に少しだけ迷った。男に見えるとはいえコイツは女だ。迷いながら口を開く。

「……送らなくて、いいのか?」
「大丈夫。あなたに家、知られたくないしね。つけてこないでよ?」
「バカやろっ。そんなことするか!」

 せっかくの好意を揶揄われて少しだけ焦る。コイツはハッキリとものを言う。下心なんて微塵もねぇよ。俺は男にしか興味がない。

「じゃあ、先に帰って?」
「俺はここからは電車。」
「じゃあ、さようなら。」

 シュンの所に行こう。もうそろそろ家に帰るところだろ。まだ鍵は貰ってないが、マンションの近くで待っていて……驚かせてもいいな。

 改札口を通り抜けて少しだけ振り返ると、侑がまだこちらを見ていた。後をつけられないか警戒してるのか? 何だか面白くなってきて、挨拶がわりに手を上げた。

『ふっ……変なヤツ。』

 シュンのマンションは2駅となりだ。30分もかからずにマンションにつける。夕飯はどうする? シュンは何か食べたか? ホームに着く頃には、侑の事など頭から消え、シュンに連絡を取るかどうか悩みながら、電車が来るのを待った。




「へへっ! 良いよねーー。この腕っ。」
「そう?」

 聞き慣れつつある声に顔を上げる。駅中の蕎麦屋で夕飯を済ませて、シュンのマンションの入り口近くで帰りを待っていた。

 30分以上。地下駐車場へ降りていくところの低い植え込みの端に座り、煙草を吹かしていた。遠くから歩いて来るのは、シュンと……もう一人の男。

「僕ねーー、家に招待する人は新田くんが初めてなんだーー。」

 入り口の機械に鍵を当てて、解除ボタンを押す。見慣れた光景。シュン、そのセリフ、俺にも言ってなかったか? 気がつくと立ち上がって、まだ半分も吸ってなかった煙草を落として靴裏で踏み潰していた。

「さ、どうぞーー!」
「俺も入れてくれるよな?」

 振り向いたシュンの顔が凍りつく。と、同時に連れの顔がハッキリと見えた。禿げ上がった頭に筋骨隆々の腕。こちらも驚いた顔をしている。

「新田君? 初めまして。君はシュンの彼氏?」
「……えっ? あぁ……まぁ。」

 俺より筋肉はありそうだ。でも背は俺ほどではない。相手にしてやるよ。シュンは驚きすぎて声が出ない様子だ。

「へぇ、じゃあ、俺は元彼氏かな? 誰かとは共有しないって、言ったよなぁ?」

 ブルブル震えているシュンを睨む。馬鹿が。

「じゃあ、最後の別れの挨拶だけさせて貰うわ。」

 シュンの顔を殴り、新田という奴のタマを蹴り上げたい衝動に駆られる。けれども腕を上げてシュンの青白い顔に向けた途端に、気持ちが萎えた。

「……もういいわ。2人とも、俺の前に二度と現れんな。」

 そう言い捨てて歩き出す。下手したら警察沙汰になる。そしたら捕まるのは俺の方だ。馬鹿馬鹿しい。アイツにそんな価値はない。

 心が凍りつく。駅に向かう俺の体に、一足先に冬がやってきたようだった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...