自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

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 ー純ー

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 めちゃくちゃ足が速い。陸上でもやってたのか? だが、俺とはコンパスの長さが違う。程なく追いつくことができた。

「はっ、離せっ!」
 ソイツの手を掴むと振り向きざまにハスキーな声が聞こえた。あぁ、いいんじゃないか? コイツの声を聞くのは初めてに等しい。こちらを睨む目も、声も俺好みだ。

「何で逃げんだよ。」
「アンタ、誰?」

 俺の声と重なって、なんて言ったかよく聞き取れなかったが、「アンタ誰?」と言われたような気がする。自己紹介の前に、まずはお前のことを教えろよ。

「お前、大学《がっこう》で女と歩いてただろ? そしてこの前は男と手を繋いで歩いてた。どっちもイケんの?」
『?』

 まん丸の目が面白い。コイツ、こんな表情もできんだ。ますます興味が出てきた。

「なぁ、俺はゲイだ。分かってんだろ? 駅前で会ったよな?」
「……だから?」

 再び細められた目。睨んでいるのに微かに震えている腕。今までに相手にしてきた奴より手首が細い。それに……この声。

「お前……。」

 茶色のダウンジャケットにブラックジーンズ。茶色の帽子で隠れているストレートの髪。化粧っ気のない顔は青白く輝いていて唇の色も薄い。けれども、中から覗くVネックのセーターの首元に、小さなチャームを吊るしたアクセサリーが見えた。

「女か?」

 胸元を凝視する。男ともとれなくはないが、男にはない膨らみ……。コイツは女だ。思わず手の力が抜けると同時に、振り払われた。

「女だから何だっていうの? アンタ誰?」

 ますます睨んでくる顔は俺好みだが……女か。女は対象外なんだって。抱いたことなんて一度もない。急に気持ちが萎えていくのを感じていた。

「……いや、何でもない。」
「じゃ、用事ないでしょ? 自分帰るから。」

 手首を掴みながら俺の脇を通り過ぎようとするソイツと同時に、振り向いている自分がいた。

「待てよ。」
「何!」

 また腕を掴むと振り向きざまに大声で怒鳴られた。いや、俺、俺はどうしてコイツを引き止めたんだ?

「……タクシーで送ってやるよ。家まで。」

 何とか辻褄を合わせようと、言葉を選ぶ。上目遣いに俺を睨みながら、考えているのが分かる。いや、戸惑ってるのか? 女心っつうものは考えたこともない。

 あれ? ここで送るなんて言ったら下心ありだと思われるのか? コイツはヘテロだ。俺は男専門だって、もう一度伝えたほうが安心させられるか?

「……駅まで。」

 少し間があいて紡がれた言葉に安堵が広がる。駅までなら、こっちも都合がいい。このままシュンのマンションまで行ってもいいんだ。

「行こう。」
 モールの反対側には、いつもタクシーが常駐している。スマホで呼び出さなくてもすぐにタクシーに乗れるはずだ。

 タクシー乗り場はモールを左手に回ったほうが早いか? そんな事を考えながら、なれた道を2人でザクザクと進んでいった。

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