自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

文字の大きさ
66 / 87
遭遇8 〜侑〜

3

しおりを挟む
『和樹!』

 驚きすぎて声が出なかった。体がガタガタと震えてくる。買ったばかりのルーズリーフが買い物袋の中で微かにカサカサと音を立てた。

「誰?」
 隣の夏帆ちゃんが小さな声で聞いてきたのが分かったけど、答える余裕はなかった。ゆっくりと一歩一歩近づいてくる和樹の姿に釘付けになっていた。

「侑ちゃん……。」
 夏帆ちゃんが自分の腕に手を回す。そして、自分が震えているのを感じ取ったのか、代わりに口を開いてくれた。

「アナタだれ? 侑ちゃんに何の用?」

 自分たちの目の前1mほどで立ち止まった和樹に話しかける。和樹は今までに見たことがないような顔をしていた。

「俺? 侑の彼氏。知らなかった? 経済学部3年。もう付き合って半年になるんだけど。」

 凄く意地悪そうな目。あの時に泣いていたのは嘘だったの? 純に捕まえられて、証拠の写真も撮られて……。暫く会わなかったからすっかり油断してた。

「悪いな。侑の彼氏は俺だ。オイ、こんな所で何やってんだ。」

 購買の方から出てきて、急に視界に入ってきた長身の男にまた心臓が1つ大きな音を立てる。純が和樹の肩を掴んで自分の方に振り向かせていた。

「あ、あっ、あっ……。」

 和樹も予想外だったらしく、顔から血の気が引いているのが分かった。自分はそんな2人を夏帆ちゃんと穂花ちゃんとともに見つめているしかなかった。

「もう侑とは関わるなと言ったのを忘れたのか? どこででもって言ったよなぁ。何、そんなに未練があるわけ? 生憎、もう侑は俺のモノなんだけど。」

 純が自分を真っ直ぐに見たのが分かった。一歩こちらに足を出したと思った瞬間、純に顎を持ち上げられた。真剣な表情をした純に唇を塞がれる。純の目が閉じられ、癖のある髪が額をくすぐった。けれども、自分は目を閉じることなどできなかった。

 複数の人の息を呑むような音が聞こえる。遠くで女の子が「きゃー。」と声を上げたのが分かった。自分たちの周りがザワザワと騒がしくなるのを感じる。

『純…………。』

 あなたは男が好きなんでしょ? どうして? 自分は男じゃないのに。知ってるくせに……。

 目を瞑る。角度を変えて再び塞がれた純のキスは、とても長くて、そしてとても甘いものだった。

「そこのお嬢さんたち、侑の友だち?」
「「はいっ!」」

 純の肩に顔を埋めるように頭を抱え込まれる。いつかと同じ。……ここは大学《がっこう》。周囲に人垣ができているのを感じて、顔を上げられなかった。

「悪いな。この侑の元カレ、しつこくてさ。大学にいる時はコイツのこと見張っていてくれる?」
「「はいっ。」」

 夏帆ちゃんと穂花ちゃんが元気に返事をするのが聞こえる。周りで嘲笑が響き、近くにいた人が足音を立てて遠ざかるのが分かった。和樹だ。たぶん走って逃げた……。

「侑?」

 顔に両手が添えられて上を向かされた。純がとても優しい表情でこちらを覗き込んでいた。スーツ姿にいつもの紺色の作業着。ピアスは付けていないんだ……。

「これから授業? できれば一緒に帰らないか? 送るよ。」

 何を考えたらいいのか分からない。けれども、今日はここにはいられない。いや、いたくない。純の言葉に微かに頷いた。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心

夏目萌
恋愛
潰れかけの危機に立たされている実家の店を救いたくて、試行錯誤する来栖 侑那が偶然見つけたのは——「財閥御曹司の専属メイド募集」という、夢のような高収入の仕事だった。 ダメ元で応募してみると、まさかの即採用&住み込み勤務。 だけど、そこで待っていたのは傲慢で俺様な御曹司・上澤 巴。 「金目当てで来たんだろ?」 なんて見下すような言葉にも侑那は屈しないどころか言い返され、“思い通りにならない女”との初めての出逢いに巴は戸惑いを隠せなくなる。 強気なメイドとツンデレ御曹司。 衝突するたび、距離が近づいていく二人だけど、ひとつの誤解が、二人の心をすれ違わせてしまい——。 俺様ツンデレ御曹司×強気なメイドのすれ違いラブ 他サイト様にも公開中

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

処理中です...