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居酒屋
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目の前に置かれたビール。サーバーから注いだばかりの泡立つビールが6つ。これを普段は一度に運べるというんだから驚きだ。
「優樹、お前は両手に一つずつ。俺の後ろについて来い。」
米田さんが取っ手を2つ一緒に、それぞれの手で持ち上げながら歩き出した。俺も慌ててビールを持って続く。ビールの泡が消えないうちに客のテーブルに届ける。少しだけ急ぎ足だ。
「お待たせしました!」
米田さんの威勢の声が響く。焦茶色の作務衣が似合う。俺も同じものを着ているはずなのに、どうしてこんなに印象が変わるんだろう?
「お待たせしました。」
「おおーー! 待ってた待ってた。」
米田さんが脇に退いたのを見て前に進む。会社帰りのサラリーマンと思われる男6人の中で、1番歳を取っていそうな禿げたおじさんが大声を上げた。
「どうぞ……ごゆっくり、どうぞ。」
米田さんの持ってきたビールは奥の方からもう配られてる。俺はテーブルの手前の端に置くだけにした。声が小さくなる。おじさんたちは苦手なんだって。遠慮ない物言い。下卑た笑い……。まぁ、女の子も苦手なんだけど。
「1日目にしてはよく頑張ってるよ。それにその眼鏡、視力悪かったっけ?」
席を離れて、カウンターへと戻る。隣を歩く米田さんに話しかけられた。僕は作務衣の中に白のTシャツを着ている。中に着るのは白か黒だと聞かされていた。でも、米田さんは何も着ていないらしい。たまに襟の合わせ目から覗く肌にドギマギしている自分がいた。
「ええ、少しだけ。でも恥ずかしいからという気持ちが大きいです。……変装用。」
「ははっ! 優樹らしいや。」
米田さんの手が眼鏡を掠めるようにして頬に触れた。触れられたところから、全身が泡立つように感じる。
米田さんに言ったことは半分が本当。もう半分は、愼との約束があるからだ。バイトの最中にスマホは持たないし、ましてイヤフォンをするわけにはいかない。
『優樹様の身に、何が起こるか把握しておきたいのです。映像だけですが、緊急事態には備えておきたい。もちろん的確に判断するつもりです。』
愼にああ言われちゃ、従うしかないじゃないか。昨日宅配で届いた黒縁の眼鏡を見た時には、ダサいと思ったけど、かけてみれば意外と似合った。
どんな顔にもフィットするように作られているようで、柄が両耳の上で優しく押さえ込み、痛くもない。これをつけているだけで愼には見えているらしい。どんな仕組みなのかは分からないけど。
『とても良くお似合いです。デザインを指定した甲斐がありました。』
「愼セレクトかよっ! 俺にも選ばせてくれれば良かったのに。」
文句は言ったけど、これはこれで満足。バイトも米田さんと一緒なら、何とかなりそうだ。
「今日は余裕があるからな。空いてる時間は、さっき渡した紙で酒の種類、頑張って覚えろよ?」
「はいっ。」
隣を歩く米田さんの声に我に返る。今日は3時間だけのバイト。残り半分。まだまだやれそうな気持ちになって、少し大きな声を出すことができた。
「優樹、お前は両手に一つずつ。俺の後ろについて来い。」
米田さんが取っ手を2つ一緒に、それぞれの手で持ち上げながら歩き出した。俺も慌ててビールを持って続く。ビールの泡が消えないうちに客のテーブルに届ける。少しだけ急ぎ足だ。
「お待たせしました!」
米田さんの威勢の声が響く。焦茶色の作務衣が似合う。俺も同じものを着ているはずなのに、どうしてこんなに印象が変わるんだろう?
「お待たせしました。」
「おおーー! 待ってた待ってた。」
米田さんが脇に退いたのを見て前に進む。会社帰りのサラリーマンと思われる男6人の中で、1番歳を取っていそうな禿げたおじさんが大声を上げた。
「どうぞ……ごゆっくり、どうぞ。」
米田さんの持ってきたビールは奥の方からもう配られてる。俺はテーブルの手前の端に置くだけにした。声が小さくなる。おじさんたちは苦手なんだって。遠慮ない物言い。下卑た笑い……。まぁ、女の子も苦手なんだけど。
「1日目にしてはよく頑張ってるよ。それにその眼鏡、視力悪かったっけ?」
席を離れて、カウンターへと戻る。隣を歩く米田さんに話しかけられた。僕は作務衣の中に白のTシャツを着ている。中に着るのは白か黒だと聞かされていた。でも、米田さんは何も着ていないらしい。たまに襟の合わせ目から覗く肌にドギマギしている自分がいた。
「ええ、少しだけ。でも恥ずかしいからという気持ちが大きいです。……変装用。」
「ははっ! 優樹らしいや。」
米田さんの手が眼鏡を掠めるようにして頬に触れた。触れられたところから、全身が泡立つように感じる。
米田さんに言ったことは半分が本当。もう半分は、愼との約束があるからだ。バイトの最中にスマホは持たないし、ましてイヤフォンをするわけにはいかない。
『優樹様の身に、何が起こるか把握しておきたいのです。映像だけですが、緊急事態には備えておきたい。もちろん的確に判断するつもりです。』
愼にああ言われちゃ、従うしかないじゃないか。昨日宅配で届いた黒縁の眼鏡を見た時には、ダサいと思ったけど、かけてみれば意外と似合った。
どんな顔にもフィットするように作られているようで、柄が両耳の上で優しく押さえ込み、痛くもない。これをつけているだけで愼には見えているらしい。どんな仕組みなのかは分からないけど。
『とても良くお似合いです。デザインを指定した甲斐がありました。』
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