暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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僕は君の初恋の人? 君は憧れのお兄さん?

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「……コイツは本当に酒に弱いよなあ。」

 遠い所で声が聞こえる。嶺さんの声? 仰向けにされ、温かなところに横たわっていた。首の下の熱い枕、それがとても心地よかった。

「こうやって見るとやっぱり似てるんだよな。思い出すなあ。『まーちゃん、まーちゃん』って、泣いて探していて、抱っこしてあげたとき。」

 頭の隅がぎくりと反応する。「まーちゃん」は、ばあちゃんの呼び名。祖母は自分を「おばあちゃん」とは絶対に呼ばせなかった。「まさえ」だから「まーちゃん」。今でも呼んでるぐらいだ。

『え? やっぱり嶺さんはあの時のお兄さんなの?』




 だんだん意識がはっきりとしてきた。僕はまた潰れてしまったのだろう。トイレから戻るとビールが届いていて、僕からジョッキを差し出し乾杯をした。あの時の嶺さんの目。

「かんぱーーい。ビール苦手だったんですけど、美味しいですよね?」

「渡良瀬、酔ってるだろ。」

「酔ってないです。僕、強くなったみたいです。ほら。」

 冷えたビールを喉に流し込み、笑顔で嶺さんを見る。嶺さんは疑り深そうな目でこちらを見ていた。そこまでは覚えてる。そして、何か会話したことも……。




『あの時のお兄さんに、抱っこしてもらった記憶はないな。……ん!?』

 意識がはっきりしてきたと同時に、状況を把握する。今、僕が寝ているのは嶺さんの膝の上? この温かな枕は、嶺さんの腕だ! 薄目を開けてみると、嶺さんの顎が目に入った。どこかに座った嶺さんの膝の上で……寝てた?

「渡良瀬、ほら起きろ! ん? 起きてるか?」

「はい。……すみません。」

 目を開いて嶺さんの顔を見る。めちゃくちゃ恥ずかしい。体を起こすと、そこは駅前だった。嶺さんの膝から降りて隣に座る。まだフラフラしている僕の腕を、嶺さんが支えて補助してくれた。

 駅前はタクシーやバスを待つ人や、改札口を通り抜けようと足速に向かう人がいたが、僕らに目を向けている人はいなかった。人が多い。僕の意識が飛んでいたのはそれほど時間はかかっていなかったのかもしれない。

「タクシーでお持ち帰りしとくかと思ったんだけどな。明日も仕事だろ? 家に帰った方がいいだろうと思って。」

「はい。ありがとうございます。」

 お持ち帰りって何なんだ! 前回のことを思い出して、顔が熱くなるのを感じた。

 嶺さんに差し出されたブリーフケースと傘を受け取る。午後まで降っていた雨はいつの間にか止み、帰りは傘は必要ではなかった。

「何か飲もう。自販機で買ってくるよ。何がいい?」

「いえ、僕が行きます。というか、今日の食事の代金……。」

 慌てて立ち上がったけれど、足に力が入らずまたトスンとベンチに座りこむ。嶺さんが笑いながら立ち上がった。

「はははは。今日は奢るって言ったろ? これでも渡良瀬より稼いでいるんだ。遠慮するな。水か?」

 嶺さんの言葉に素直に頷く。喉が渇いた。でも、どうして嶺さんはいつもこんなに上機嫌なんだろう? そんなことをぼんやりと考えながら、自販機へと歩いて行く嶺さんの後ろ姿を見送った。





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