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君はどこにもいない、僕はどこまでも探し続ける
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「渡良瀬くん、おはよう!」
明るい声で呼びかけられて振り返る。齋藤さんが走ってくるのが見えた。
「おはよう。」
齋藤さんと通勤で一緒になるのは久しぶりだ。僕が避けていたから。でもなぜか、もうどうでもいいような気がして、電車を元の時間に戻していた。
「久しぶりね?」
「うん、そうだね。」
何だかいつもの齋藤さんと違う。化粧か? 香水を変えた? ちらりと横目で見ても分からない。目の周りはいつも通りピンク色だし、ふんわりと固めた前髪が、相変わらずゆらゆら揺れている。
何も話すことがない。話した方がいいと思うのに、藪蛇を突くようで、会社でのことは何も話せなかった。他に共通の話題ってあったっけ?
「最近ね、よく金井くんと一緒に帰っているの。」
「金井と?」
ああそれでか。と安堵した。金井は齋藤さんを好きだった。喫煙室での一件以来、金井とその話はしてなかったけれど、うまくいってるんだろう。
「そう。この前は嶺さんの話になったの。ほら、営業部の……。」
「知ってる。どんな話?」
触れたくない話題だけれど、金井は社長の息子。何か情報を掴んでいるのか気になっていた。
「ほら、2人目の生存者が全く違う方向の島に流れ着いたじゃない?」
「えっ? 生存者!? もしかして……嶺さん?」
先週末からニュースは一切チェックしていなかった。昨日は近所のスーパーに買い物に出かけたほかは、一日中自宅で寝て過ごしていた。
頭を振る齋藤さんの姿に、また不安な気持ちが蘇る。嶺さんが無事だったと信じたい。でも、もう10日目。
「その人は事故があった次の日にはもう漂着していたのですって。連絡が遅くなったから、報道されなかっただけで。嶺さんも可能性はあるよな、って。金井くんが。」
齋藤さんの言葉に希望が湧いてくるのを感じた。セイちゃんも海の中にいた嶺さんしか見ていないようだった。
その後、海面に上がって何かに掴まってどこかに漂流していた、ということはないだろうか? もしくは近くの漁船に助けられたとか。
「希望は持ち続けていこうよ。きっと大丈夫だよ。嶺さん。」
もし、嶺さんが無事に戻ってきたらセイちゃんはどうするのだろう? そんなことがふと脳裏をよぎる。昨日は、内心連絡がくるものだと信じていた。
半分夢の中でインターホンが鳴るのを聞いたような気がして飛び起きたほどだ。でも夜まで待っても連絡はなかった。
『まったく! いつになったら連絡をくれるんだ?』
夕飯の時には腹が立った。まーちゃんから貰った大量の茄子を焼いて、挽肉の餡を掛けながらブツブツ言っていた僕の姿は側から見たら滑稽だったかもしれない。
「それでね、金井くんに好きな人いるの? って聞かれちゃった。」
もうすぐ会社が入っているビルが見えるという所で、齋藤さんの言葉に急に現実に引き戻された。
明るい声で呼びかけられて振り返る。齋藤さんが走ってくるのが見えた。
「おはよう。」
齋藤さんと通勤で一緒になるのは久しぶりだ。僕が避けていたから。でもなぜか、もうどうでもいいような気がして、電車を元の時間に戻していた。
「久しぶりね?」
「うん、そうだね。」
何だかいつもの齋藤さんと違う。化粧か? 香水を変えた? ちらりと横目で見ても分からない。目の周りはいつも通りピンク色だし、ふんわりと固めた前髪が、相変わらずゆらゆら揺れている。
何も話すことがない。話した方がいいと思うのに、藪蛇を突くようで、会社でのことは何も話せなかった。他に共通の話題ってあったっけ?
「最近ね、よく金井くんと一緒に帰っているの。」
「金井と?」
ああそれでか。と安堵した。金井は齋藤さんを好きだった。喫煙室での一件以来、金井とその話はしてなかったけれど、うまくいってるんだろう。
「そう。この前は嶺さんの話になったの。ほら、営業部の……。」
「知ってる。どんな話?」
触れたくない話題だけれど、金井は社長の息子。何か情報を掴んでいるのか気になっていた。
「ほら、2人目の生存者が全く違う方向の島に流れ着いたじゃない?」
「えっ? 生存者!? もしかして……嶺さん?」
先週末からニュースは一切チェックしていなかった。昨日は近所のスーパーに買い物に出かけたほかは、一日中自宅で寝て過ごしていた。
頭を振る齋藤さんの姿に、また不安な気持ちが蘇る。嶺さんが無事だったと信じたい。でも、もう10日目。
「その人は事故があった次の日にはもう漂着していたのですって。連絡が遅くなったから、報道されなかっただけで。嶺さんも可能性はあるよな、って。金井くんが。」
齋藤さんの言葉に希望が湧いてくるのを感じた。セイちゃんも海の中にいた嶺さんしか見ていないようだった。
その後、海面に上がって何かに掴まってどこかに漂流していた、ということはないだろうか? もしくは近くの漁船に助けられたとか。
「希望は持ち続けていこうよ。きっと大丈夫だよ。嶺さん。」
もし、嶺さんが無事に戻ってきたらセイちゃんはどうするのだろう? そんなことがふと脳裏をよぎる。昨日は、内心連絡がくるものだと信じていた。
半分夢の中でインターホンが鳴るのを聞いたような気がして飛び起きたほどだ。でも夜まで待っても連絡はなかった。
『まったく! いつになったら連絡をくれるんだ?』
夕飯の時には腹が立った。まーちゃんから貰った大量の茄子を焼いて、挽肉の餡を掛けながらブツブツ言っていた僕の姿は側から見たら滑稽だったかもしれない。
「それでね、金井くんに好きな人いるの? って聞かれちゃった。」
もうすぐ会社が入っているビルが見えるという所で、齋藤さんの言葉に急に現実に引き戻された。
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