不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第四章 火精霊の棲み処へ

魔石の気配

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「どうやら、この石橋から先は結界が張ってあるようだ。」

 
石橋の始め辺りで、火精霊の姿がふわっと消える。
火精霊たちの後を追おうとしたところ、一人の火精霊にツンツンと引っ張られた。

その火精霊は『うしろの酒飲みもこいよ!』と言い、俺から離れるとフレイの顔の周りをぐるぐると飛び回った。


「……なんか、精霊たちがフレイも来いって言ってる。」

 
俺が精霊たちの言葉を通訳すると、皆が驚いて目を見張っている。

実は俺たちが風精霊の棲み処に入った後、ヒューズたちや騎士団の皆も、結界内に入れないかと試していたようなのだ。
精霊に許可されていない者は、結界に入ったと思ったら、すぐに同じ場所に戻されてしまうらしい。


「……俺、入れるのか?」

「一度、試してみると良い。俺たちが先に入るから、フレイはそのあとに来い。」

俺とスフェンは二人で石橋に足を踏み入れた。薄い膜を通り抜けたような感覚がして、空気が揺ぐ。

結界を通り抜けると、先ほど俺たちを案内していた火精霊たちの姿が見える。
俺たちが通ったすぐあとに、薄い膜が再び揺れた。

燃えるような赤い髪の大男が入ってくる。


「普通に通れたわ。いつもなら、入った瞬間にまた戻されるのに。」

不思議そうにしているフレイの顔がおかしくて、俺とスフェンは思わず笑ってしまった。

俺たち3人は宮殿に続く長い石橋を足早に進んだ。

 
石橋を進んだ先にはアーチ形の巨大な門がある。
目の前に立つとギギ―っという音とともに、白色の扉が勝手に開いた。

中は点々と明りの灯った、長い廊下が続いている

『こっちだぞー』『はやく、はやく!』と楽し気にしている火精霊たちと、俺たちは宮殿の奥へ進んだ。

 
しばらく廊下を進むと、窓が四方にある広間に案内された。


白い壁には薄いベージュの石でアラベスク模様が描かれている。
ところどころには、金色の星が装飾されていた。


天井は落ち着いた色合いの濃い茶色で、見事な植物のツタの模様が描かれている。
天井からは金色の金属に、大きなモザイクランプが吊り下げられていた。

上から傘を開いたような形のランプは、色とりどりなステンドグラスの光を映して、キラキラと煌びやかだ。

 
広間の中央には八角形の石でできたベンチがあって、柔らかそうなクッションが幾つも置かれている。


そのベンチに胡坐をかいて座っている、褐色の肌をした男がいた。

 
『おう!よく来たな、ミカゲ!そんでもって、そっちが風のと、酒飲みか!』

俺たちを認めたとたん、ベンチから立ち上がって迎え入れてくれる。

 
褐色の肌に、炎の紅い髪とルビーの切れ長な瞳。
紅く胸元辺りまでの長髪を、片側だけ耳にかけている。


黒色で詰襟の上着はスカートのように長く、腰の部分からスリットが入っていた。
一見するとチャイナドレスのようにも見える。


上着には金糸で、炎の揺らぎを模した模様が描かれ、小さな赤の宝石が所々縫い付けられていた。動くたびに宝石が光り、とても豪華な衣装だ。


ズボンはサルエルパンツ。落ち着いた焦茶色にうっすらと同系色の幾何学模様が入っていた。

肩には金色のショールをゆったりと巻いている。足には皮でできた上品なサンダル。


フレイと同じくらいの背格好である、火精霊カリエンテは気さくに話しかけてくる。

 
『いやー。お前のくれた酒は実に旨かった。今回も同じ酒が献上されたから、お前かなと思ったんだよ!』

「……はあ…。」

バシバシとフレイの背中を叩くカリエンタ。そんなカリエンタに、あのフレイがタジタジだ。
なんだかおかしくて、笑いがこみあげてきた。


『お前のその酒の飲みっぷりと、酒の好みが気に入った!お前に俺の加護をやるよ!』


カリエンタは、右の人差し指を曲げて、ちょいちょい、と何かを呼ぶ仕草をした。

すると、外の壕にいた炎の魚が、四方の窓から勢いよく入ってきて、フレイの全身を炎で包み込んだ。

 
「フレイ?!」

 
俺が驚いて、フレイに近づこうとしたが、フレイはそれを手で制した。

 
「大丈夫だ。熱くねえ。」

 
フレイが問題なさそうにしているが、フレイの全身は炎で燃えている。やがて炎が収まると、フレイは不思議そうに全身を見ていた。

 
『今度は酒一緒に飲もうぜ!あの酒以外にも、旨い酒が飲みてぇ。』

次の貢物を催促しているあたり、ちゃっかりとした精霊だ。

 
『旨い酒で興奮しちまったな。ミカゲ、頼んだわ。』

俺は一つ頷くと、右手の人差し指と中指を立てて、軽く口元に当てる。術の発動のための呪文を唱えた。


浄化の呪文を唱えると、自分を中心にぶわりとした風が巻き起こり、銀色の粒子とともに周囲に向かって広がっていった。


波紋状に広がった清らかな風に、反発する魔石の気持ち悪さを感じる。

淀んだ泥のように纏わりつく邪悪な気配が、いつにも増して強い。

魔石を覆い隠すように、黒い靄が渦巻いている。
今までで、邪気の濃さは一番ではないだろうか。


そして、魔石の反応を感じた瞬間、
俺は目を見開いた。

 

………嘘、だろ……。

 
俺は、自分のことを疑った。

俺の勘違いであってほしい。


身震いがして、俺は自分の身体を両手でぎゅっと抱きしめていた。
悪寒というよりも、これは恐怖と怒りと、絶望だ。

 
水精霊アイルのところで、ルストタートルが魔石を身体に取り込んだ時、魔石の反応は生き物の鼓動のように脈を打っていた。

今感じた魔石の反応も、脈打っている。


この鼓動の速さは、身に覚えがあった。
というよりは、これしか思いつかないのだ。

 

ドクン、ドクン

 

………人間の鼓動だ。

 



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