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第九章 真相
セラフィス枢機卿の手記 2
しおりを挟む手記には、各地での巡行と、魔石をいつ作ったのか等、詳細に記載されていた。その道中での、セラフィス枢機卿の感情の葛藤も。
また、俺はページをめくった。
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×××年×月×日
アリファーン火山の麓で、麻薬の密売と栽培が行われていると、貴族の館に資料が残されていた。盗賊のアジトがあるそうだ。
そこに客として潜入すると、子供2人が給仕をさせられていた。盗賊の副頭領を洗脳して、大人の盗賊たちをアジトの広間に集めた。
働かされていた子供たちを、別室に集める。子供たちは皆、やせ細り栄養が足りていない。特に一番年上のエリオットは、診察で麻薬の禁断症状があることが判明した。
なんと、惨いことを。
子供たちを脅して、麻薬の製造を担わせるとは。
盗賊は全員魔石の餌食にした。私が目を離した隙に、盗賊の頭領が帰ってきて、子供たちに暴力を振るった。
私は頭に血が上る。
あの、一番身体が弱っている、一番年上のエリオットが。小さい子たちを一身に庇って、暴力に耐えていた。
エリオットの次に、年上の子たちが、さらに小さい子を抱き込んでいる。
普通の幼い子供なら、泣き喚いているところだが、この子達は暴力に慣れてしまったのだろう。涙を堪えて恐怖に耐え、声を潜めている。
泣くとその分殴られるからだ。
こんなにも、健気な罪のない子供たちを。
よくも、よくも、よくも!!!!!
頭領には、その子たち以上の苦しみを、
生きたまま味わってもらうことにした。
魔石を食べた魔物は狂暴化した。自分の身体が魔石に蝕まれ異形となり、壊れても。暴走することを止めれない。
こいつも、同じ目にあえばいい。
魔石を飲ませた後の、頭領のその後は知らない。ただ、仄暗い広間からは絶叫が聞こえた。エリオットやほかの子供たちに治癒魔法を施し、なんとか山を降りられる体力を付けさせた。
温泉街イフェスティアにある孤児院の院長は、信頼のおける人物だ。きっと、この子たちにも良くしてくれる。
しばらくたったら、様子を見に来よう。
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×××年×月×日
魔石を仕掛けた山の付近に、農村があった。その山には2つ魔石を仕掛けたから、被害が大きくなってしまった。
さらには、凶作に耐えられず、農民が精霊の石像を壊してしまった。
あの石像には、確かに神ではないが、それに近い力を感じたと言うのに。なんてことを……。
より被害が深刻になるだけだ。
ただ、以前にあの村を訪れたとき、村長はこうも言っていた。
私たちの世代は精霊を大切に、感謝しながら生活していた。今の村の若い者たちは、その恩恵を理解していない。村の繁栄も自分たちの力だと豪語する。
精霊に感謝することを、どうやって伝えていくべきかと。
私が魔石を埋めたから、凶作は起きた。
しかし、もしかしたらあの村が衰退していくのは、時間の問題だったのかもしれないとも、思ってしまうのだ。
人間は傲慢になってはいけない。戒めのようにも感じた。
自分のことは棚に上げて、何を戯言を吐いている。
私に比べたら、若い村人たちの傲慢は、可愛いモノではないか。
この国を、この世界を壊すことができると、偉そうにしている私が、彼らに文句など言えない。
________________________________
×××年×月×日
精霊の棲み処に設置した、全ての魔石が壊された。
そして、ある高位神官の一人が、神官タグを紛失してしまったと、報告がきている。
その神官が寝泊まりしていたのは、神殿の王都支部。
かなり警備が厳しい場所であり、さらには高位神官の部屋ともなると、警備は厳重である。
入り込むことは容易ではない。相当の手練れだ。
盗んだとしても、本人以外には使用できない仕組みになっているのだが……。
……いや、おそらくもう、細工をされているな。
盗んだ者たちに心当たりがある。最近、私に仕向けられてくる者たちと、同じだろう。そして、神官タグを手に入れたのがあの御方たちなら、細工をするなど戯れと一緒だ。
彼ら6人はきっと、王都を目指す。それならば、立ち寄る街で、彼だけをおびき寄せよう。そうすれば、被害が最小限に納まるはずだ。
あくまで、私の目的は『ミカゲ』だけ。
『ミカゲ』さえこちらの手に墜ちれば、
誰もこの世界を救えない。
……ミカゲには、何の恨みもない。ましてや、彼も何も悪いことはしていない。
異世界から、こちらの世界に呼び出された、数奇な運命を背負った青年。
すまない。本当にすまない。
謝っても許されるわけではない。
ましてや、私は彼を生贄とするのだから。
ただ、この手記にだけは、私の本音を記したい。
ミカゲ、君には何の罪もない。
この世界の命運を、なぜ異世界人の君に、
背負わせてしまったのだろう。
故郷から無理矢理、こちらに連れてこられて、どんなに辛いだろうか。
家族も、友人も、知人さえもいない世界に、たった一人。どれほどの孤独だろうか。
死と隣り合わせの旅は、どれほど心が擦り減り、疲れてしまうだろうか。
すまない。ミカゲ。
神がいないことは知っている。
しかし、この際、神でも、精霊でも、それこそ悪魔でも良い。
ミカゲにこれ以上、苦痛を与えないでください。
私が邪神シユウに彼を差し出す前に、
どうか、ミカゲを異世界に還してあげてください。
それが叶わないのなら。
邪神シユウに苦しみを与えられる前に、
ミカゲの命を天へと導いてください。
そして、私の魂や何もかもを使って。
来世のミカゲの人生が、苦痛も運命も背負わなくて済むような。
幸福で満ち溢れた人生になるようにしてください。
お願いです。
清らかで、誰よりも優しく、美しい彼の心と魂を、どうかお守りください。
どうか、どうか。
彼をお救いください。
________________________________
セラフィス枢機卿の手記は、そこで終わっていた。
簡素な机には、この手記以外にも様々な資料があったそうだ。
魔石を作り出すために犠牲にした貴族や、悪徳商人、盗賊らの詳細。現在も存在する貴族の悪事。神殿の闇。
各地を巡りながら、セラフィス枢機卿はずっと、国の闇と戦っていた。そのセラフィス枢機卿が戦った記録は全て、今後暴かれていく。悪しき者たちが罰せられる。
最後まで、自分ではなく、
他人の幸福を願った優しき人。
今思えば、神殿本部へ転移させられた時。
教皇の間近くに転移すれば、すぐに俺を邪神シユウに差し出せたはずだ。
セラフィス枢機卿の私室と、教皇の間は、階層が違ってかなりの距離があった。例え、魔法封じの手錠を付けるためだとしても、合理的とは言えない。
セラフィス枢機卿は、僅かな時間ではあったが、俺をどうにかできないかと、抗っていたのかもしれない。
途中走らされたが、のちに神殿本部の地図を見せてもらったときに、随分と遠回りしていたことに、気が付いた。
その時間稼ぎがあったからこそ、俺とスフェンは合流できたのだ。
セラフィス枢機卿は自分の魂を捧げて。
この世界の、悪意と理不尽の代償になった。
全てを天へと持っていった人は、
最後まで、優しく強い人だった。
彼がしたことは、決して許されることではない。
だけど。
共に戦ってくれた彼に、俺だけでも。
弔いの祈りを捧げてもいいだろうか。
あなたは、強く、清くて優しい人だった。
この国、そして、この世界の理不尽さと悪に、心が疲れ切ってしまったのだろう。
どうか、安らかにお休みください。
温かな場所で、穏やかに。
貴方の次なる命に、幸福が満ち溢れてることを。
心から願って。
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