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番外編(エリオットside)
フォリアと僕 (エリオットside)
(エリオットside)
「すごいでしょ!これ、雪で出来てるんだよ!」
おませな女の子が、どうだ!と言わんばかりに、僕に教えてくれた。
トレノの腕力に限界がきたみたいで、白色の猫を床に静かに降ろしていた。床に降ろされた猫は、トンッと小気味よく跳ねると、僕の腰かけているベッドに上がる。
ベッドに投げ出していた左手に、猫がスリっと寄ってきて頬ずりをしてくれる。
ひんやりとした温度が、ふわふわと伝わってきて驚いた。本当に雪で出来ているなんて。
なんと、目の部分が氷魔法と風魔法の魔石が嵌めこまれているらしく、触っても溶けないんだとか。トレノが僕にプレゼントするために、ミカゲさんと、スフェレライトさんに頼んで、作って貰ったそうだ。
猫なのは、俺が前に猫が好きだと話したことを、覚えてくれていたからだろう。
「……トレノ、すごく嬉しいよ。ありがとう。」
こんなに素敵なプレゼントを、僕にくれるなんて。心がポカポカして、なんだかむず痒いけど、心地いい。自然と頬が緩んで、トレノの頭をお礼の意味も込めて、よしよしと撫でていた。
トレノは嬉しそうに笑いながら頷くと、ふと、思い出したように僕にこういったんだ。
「……ねこちゃ、おなまえ、なに……?」
おおきな緑色の瞳で僕を見て、ゆるく癖のある赤髪を、ぴょこんと揺らしながら首を傾げているトレノ。
「ラパンはトレノが名前を考えたから、猫はエリ兄に考えてもらおうと思って。」
カイはいつの間にか、雪で出来たラパンを抱っこしていた。
鼻が忙しそうにぴくぴく動いていて、長い耳もピンとしていて可愛い。瞳の色は猫と同じオッドアイだ。雪ラパンの名前は、
空を意味する『シエル』になったそうだ。
皆で図書室の辞典をひっくり返して、トレノがピンときた名前にしたのだとか。水色の目が、空の色にも見えるから、ぴったりな名前だ。
僕のベッドで、前足をちょこんと揃えて、お行儀よく座っている白猫を見る。左の深い緑色を見て、僕はある一つの単語が浮かんだ。
「……フォリア」
『葉』という意味の言葉だ。この前、院長が部屋に持ってきて来てくれた本に書いてあった。
雪猫を一目見たときに、僕は窓からいつも見える、庭の木を思い出したんだ。背が高くて、深緑色の葉っぱが茂った木。ちょうど、2階の部屋の窓と同じくらいの高さで、ゆらゆらと葉が風に靡くのがよく見えるんだ。
今も、猫の目はランプの光を吸い込んでいるかのように、静かに揺らめていている。
僕が『フォリア』と呟くと、白猫はもう一度僕の左手にすり寄った。頭を撫でると頭突きをしてくる。もっと撫でてほしいと言っているみたいだ。
「……ほぉ。『葉』を意味するフォリアか。良い名前じゃのお。」
院長がほのぼのとした顔で、皆に説明をしてくれた。
皆も「いい名前―!」「フォリア。可愛い!」と賛成してくれた。
ふわふわした白い雪猫は、その日から『フォリア』になった。
院長と一緒に夕食を食べた後、僕はすぐに眠くなってしまった。職員の人に身体を拭いてもらって、寝る準備を早々に済ませて布団に潜る。
仰向けで寝ながら、枕に頭を乗せてぼうっとしていたら、視界の端で、ゆらゆらと長いしっぽが揺れているのが見えた。
白い尻尾は、のんびりと右へ、左へと僕を誘うように揺れていた。
顔を左側に向けると、フォリアが至近距離で僕の顔に鼻を近づけていた。びっくりした拍子に、フォリアの鼻が僕の鼻先とくっ付いて、少し冷たい。
僕は可笑しくなってクスクスと笑っていると、フォリアはそのままシーツの上に座り込んで、丸くなった。猫が寝るときの態勢だ。
もしかして……。
「……フォリア、一緒に寝てくれるの?」
フォリアは返事をするように、丸い身体に沿わせていた尻尾を一振りした。人の言葉が分かるようなその仕草に、もっと笑いがこみ上げてくる。
嬉しい。
盗賊のアジトでは皆と一緒に眠っていたけれど、最近はずっと一人だったから。
そっと、その白くてふわふわした身体を、顔の近くまで引き寄せた。触り心地が不思議で、柔らかい雪をポフポフと触っているような感覚。そして、ひんやりと冷たいんだ。
尻尾の先が顔に当たって、ちょっとくすぐったい。
「……おやすみ。フォリア。」
その日も、夢の中で嫌な気配がした。
嫌な夢を見るときは、本当に何となくだけど分かるんだ。身体と頭の中がぞわぞわと、鳥肌がたつような、黒い無数の手が這う感じがする。
怖い。嫌だ。
黒い手が僕の足を触ってくる。そのたびに、ぞわぞわと寒気と鳥肌が立つ。
助けて。誰か、助けて。
夢の中だから、誰も僕のことを助けることはできないのに、そう願ってしまうんだ。
何度も。何度も。
叶わない願いを呟いていた、その時だった。
僕のおでこに、冷たいひんやりとした、『何か』がピトッとくっ付いた気がした。
冷たいけど、嫌な感じは全くしない。むしろ、爽やかで、ふわふわしていて、僕の中に渦巻いていた灰色の空気が晴れていく。清々しささえ感じた。
気が付くと、黒く這いずるような手も無くなっている。頭の中の景色も恐怖が強い黒色の世界から、青空の綺麗な草原へと変わっている。柔らかい草が、心地よい風で揺れていた。
そのまま、ごろんと寝転んで、温かな風に包まれながら。
夢の中の僕は眠ることにしたんだ。
気が付くと、朝になっていた。
すごい。夜に一度も起きずに眠れたのは、初めてのことだった。
寝不足で頭がぼうっとすることもなく、すっきりしている。こんなに安心して、ぐっすり眠れたのが信じられなかった。
悪夢を見そうになったときの、あの清々しい、ふわふわしたものは何だったんだろう?
仰向けになって天井を見ながら考えていると、トンっと胸の上に何かが着地した。
「ぐえっ。」
小さな4つの足が、布団越しに僕を踏んだ。そのまま、布団を前足で左右交互に踏んでいる。緑色と水色の瞳を朝の光に反射させながら、僕の上でずっと踏み踏みしている。
……起きろってことかな……??
僕が身体を起こそうとすると、フォリアは僕の胸を蹴って、ベッドにぽふっと着地した。
踏まれ押された衝撃に、もう一度僕は蛙のような声を出して、起き上がった。いつもなら気怠くて、起き上がるのにも眩暈がするのに、今日はなんともない。
よく眠れたからだろうか……。
フォリアは、左後ろ脚で耳を掻きながら、僕が起きるのをのんびりと待っていた。
「おはよう。フォリア。」
僕の右隣でちょこんと座っているフォリアの頭を撫でる。ひんやりしてて、気持ちが良い。
僕とフォリアは、一緒に過ごすようになった。
昼間は、他の子たちが部屋に遊びに来て、ほんの少し賑やかになる。かくれんぼで、ベッドの下に隠れようとする子が来たり、フォリアを撫でるために来たりする。
それでも、ずっと一緒に居るわけではない。
今までは、一人で部屋に居る時間のほうが多かったけど、今はフォリアが僕の部屋に居座ってくれるから、寂しくないんだ。ヒラヒラとしたリボンで、よく一緒に遊んでる。
フォリアは、僕に寄り添うように、ずっとこの部屋に居る。
みんなと遊びに行っていいよって、前に言ったことがあるんだけど、あんまり部屋から出ない。
時々部屋から出ていくと、すぐに帰って来るんだ。口にお花を咥えていたこともあった。フォリアに貰った記念に、セリカに押し花にしてもらったんだ。
夜は僕のベッドで一緒に眠ってくれる。フォリアと眠るようになってから、悪夢を見なくなった。
悪夢の予感がすると、いつもおでこや頬が、ひんやりとして、ふわふわな何かが擽るんだ。フォリアの尻尾とかで顔に触れたり、頬ずりをしてくれる感覚によく似ていた。
いつも、草原で一人で眠る夢を見る。心地よいけれど、少し寂しい気もする。
叶うなら、フォリアも夢に出ていてくれないかな。
なんて思うんだ。
悪夢に魘されずに、夜を過ごせるようになって2か月経った頃。
その日の朝も、フォリアにトンッと胸に着地されて、蛙のような声を出しながら起きた。いつものように身体を起こして、隣にいるフォリアの頭を撫でる。
すると、フォリアの美しい宝石の両目が、見えなくなった。
気持ちよさそうに目を細めて、僕の手にすり寄ってくる。
「……えっ…?」
フォリアの目は魔法を付与した魔石で出来ているから、瞬きはしない。いつもは、まん丸の目がキラキラしているだけだった。
……僕は、寝ぼけているんだろうか。
目を擦って、もう一度、頭を撫でているフォリアを確認する。ぱっちりと開いた瞳は、なんだ。いつも通りじゃないか。
僕の右手に頭突きをしたフォリアは、満足したのかスリスリを止めた。
小さなまぁろい前足を揃えて、ゆらーとしっぽを揺らすと、フォリアは口を少し開けた。
「ミァヤ。」
「っ?!!フォリア?!」
僕は、ものすごい勢いでフォリアを二度見した。
うそ。フォリアが鳴いた。
ミァヤって。本物の猫みたいに。
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