不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

文字の大きさ
104 / 136
番外編(エリオットside)

フォリアと僕 (エリオットside)

しおりを挟む


(エリオットside)


「すごいでしょ!これ、雪で出来てるんだよ!」

おませな女の子が、どうだ!と言わんばかりに、僕に教えてくれた。


トレノの腕力に限界がきたみたいで、白色の猫を床に静かに降ろしていた。床に降ろされた猫は、トンッと小気味よく跳ねると、僕の腰かけているベッドに上がる。
ベッドに投げ出していた左手に、猫がスリっと寄ってきて頬ずりをしてくれる。


ひんやりとした温度が、ふわふわと伝わってきて驚いた。本当に雪で出来ているなんて。

なんと、目の部分が氷魔法と風魔法の魔石が嵌めこまれているらしく、触っても溶けないんだとか。トレノが僕にプレゼントするために、ミカゲさんと、スフェレライトさんに頼んで、作って貰ったそうだ。


猫なのは、俺が前に猫が好きだと話したことを、覚えてくれていたからだろう。


「……トレノ、すごく嬉しいよ。ありがとう。」

こんなに素敵なプレゼントを、僕にくれるなんて。心がポカポカして、なんだかむず痒いけど、心地いい。自然と頬が緩んで、トレノの頭をお礼の意味も込めて、よしよしと撫でていた。


トレノは嬉しそうに笑いながら頷くと、ふと、思い出したように僕にこういったんだ。


「……ねこちゃ、おなまえ、なに……?」

おおきな緑色の瞳で僕を見て、ゆるく癖のある赤髪を、ぴょこんと揺らしながら首を傾げているトレノ。


「ラパンはトレノが名前を考えたから、猫はエリ兄に考えてもらおうと思って。」

カイはいつの間にか、雪で出来たラパンを抱っこしていた。

鼻が忙しそうにぴくぴく動いていて、長い耳もピンとしていて可愛い。瞳の色は猫と同じオッドアイだ。雪ラパンの名前は、
空を意味する『シエル』になったそうだ。


皆で図書室の辞典をひっくり返して、トレノがピンときた名前にしたのだとか。水色の目が、空の色にも見えるから、ぴったりな名前だ。


僕のベッドで、前足をちょこんと揃えて、お行儀よく座っている白猫を見る。左の深い緑色を見て、僕はある一つの単語が浮かんだ。


「……フォリア」


『葉』という意味の言葉だ。この前、院長が部屋に持ってきて来てくれた本に書いてあった。

雪猫を一目見たときに、僕は窓からいつも見える、庭の木を思い出したんだ。背が高くて、深緑色の葉っぱが茂った木。ちょうど、2階の部屋の窓と同じくらいの高さで、ゆらゆらと葉が風に靡くのがよく見えるんだ。


今も、猫の目はランプの光を吸い込んでいるかのように、静かに揺らめていている。


僕が『フォリア』と呟くと、白猫はもう一度僕の左手にすり寄った。頭を撫でると頭突きをしてくる。もっと撫でてほしいと言っているみたいだ。


「……ほぉ。『葉』を意味するフォリアか。良い名前じゃのお。」

院長がほのぼのとした顔で、皆に説明をしてくれた。
皆も「いい名前―!」「フォリア。可愛い!」と賛成してくれた。

ふわふわした白い雪猫は、その日から『フォリア』になった。


院長と一緒に夕食を食べた後、僕はすぐに眠くなってしまった。職員の人に身体を拭いてもらって、寝る準備を早々に済ませて布団に潜る。


仰向けで寝ながら、枕に頭を乗せてぼうっとしていたら、視界の端で、ゆらゆらと長いしっぽが揺れているのが見えた。
白い尻尾は、のんびりと右へ、左へと僕を誘うように揺れていた。


顔を左側に向けると、フォリアが至近距離で僕の顔に鼻を近づけていた。びっくりした拍子に、フォリアの鼻が僕の鼻先とくっ付いて、少し冷たい。


僕は可笑しくなってクスクスと笑っていると、フォリアはそのままシーツの上に座り込んで、丸くなった。猫が寝るときの態勢だ。


もしかして……。


「……フォリア、一緒に寝てくれるの?」

フォリアは返事をするように、丸い身体に沿わせていた尻尾を一振りした。人の言葉が分かるようなその仕草に、もっと笑いがこみ上げてくる。


嬉しい。
盗賊のアジトでは皆と一緒に眠っていたけれど、最近はずっと一人だったから。


そっと、その白くてふわふわした身体を、顔の近くまで引き寄せた。触り心地が不思議で、柔らかい雪をポフポフと触っているような感覚。そして、ひんやりと冷たいんだ。


尻尾の先が顔に当たって、ちょっとくすぐったい。


「……おやすみ。フォリア。」


その日も、夢の中で嫌な気配がした。

嫌な夢を見るときは、本当に何となくだけど分かるんだ。身体と頭の中がぞわぞわと、鳥肌がたつような、黒い無数の手が這う感じがする。


怖い。嫌だ。


黒い手が僕の足を触ってくる。そのたびに、ぞわぞわと寒気と鳥肌が立つ。


助けて。誰か、助けて。


夢の中だから、誰も僕のことを助けることはできないのに、そう願ってしまうんだ。
何度も。何度も。

叶わない願いを呟いていた、その時だった。


僕のおでこに、冷たいひんやりとした、『何か』がピトッとくっ付いた気がした。

冷たいけど、嫌な感じは全くしない。むしろ、爽やかで、ふわふわしていて、僕の中に渦巻いていた灰色の空気が晴れていく。清々しささえ感じた。


気が付くと、黒く這いずるような手も無くなっている。頭の中の景色も恐怖が強い黒色の世界から、青空の綺麗な草原へと変わっている。柔らかい草が、心地よい風で揺れていた。


そのまま、ごろんと寝転んで、温かな風に包まれながら。
夢の中の僕は眠ることにしたんだ。


気が付くと、朝になっていた。

すごい。夜に一度も起きずに眠れたのは、初めてのことだった。

寝不足で頭がぼうっとすることもなく、すっきりしている。こんなに安心して、ぐっすり眠れたのが信じられなかった。
悪夢を見そうになったときの、あの清々しい、ふわふわしたものは何だったんだろう?


仰向けになって天井を見ながら考えていると、トンっと胸の上に何かが着地した。


「ぐえっ。」


小さな4つの足が、布団越しに僕を踏んだ。そのまま、布団を前足で左右交互に踏んでいる。緑色と水色の瞳を朝の光に反射させながら、僕の上でずっと踏み踏みしている。


……起きろってことかな……??


僕が身体を起こそうとすると、フォリアは僕の胸を蹴って、ベッドにぽふっと着地した。

踏まれ押された衝撃に、もう一度僕は蛙のような声を出して、起き上がった。いつもなら気怠くて、起き上がるのにも眩暈がするのに、今日はなんともない。

よく眠れたからだろうか……。


フォリアは、左後ろ脚で耳を掻きながら、僕が起きるのをのんびりと待っていた。


「おはよう。フォリア。」

僕の右隣でちょこんと座っているフォリアの頭を撫でる。ひんやりしてて、気持ちが良い。


僕とフォリアは、一緒に過ごすようになった。


昼間は、他の子たちが部屋に遊びに来て、ほんの少し賑やかになる。かくれんぼで、ベッドの下に隠れようとする子が来たり、フォリアを撫でるために来たりする。

それでも、ずっと一緒に居るわけではない。


今までは、一人で部屋に居る時間のほうが多かったけど、今はフォリアが僕の部屋に居座ってくれるから、寂しくないんだ。ヒラヒラとしたリボンで、よく一緒に遊んでる。


フォリアは、僕に寄り添うように、ずっとこの部屋に居る。


みんなと遊びに行っていいよって、前に言ったことがあるんだけど、あんまり部屋から出ない。


時々部屋から出ていくと、すぐに帰って来るんだ。口にお花を咥えていたこともあった。フォリアに貰った記念に、セリカに押し花にしてもらったんだ。


夜は僕のベッドで一緒に眠ってくれる。フォリアと眠るようになってから、悪夢を見なくなった。

悪夢の予感がすると、いつもおでこや頬が、ひんやりとして、ふわふわな何かが擽るんだ。フォリアの尻尾とかで顔に触れたり、頬ずりをしてくれる感覚によく似ていた。


いつも、草原で一人で眠る夢を見る。心地よいけれど、少し寂しい気もする。

叶うなら、フォリアも夢に出ていてくれないかな。
なんて思うんだ。


悪夢に魘されずに、夜を過ごせるようになって2か月経った頃。


その日の朝も、フォリアにトンッと胸に着地されて、蛙のような声を出しながら起きた。いつものように身体を起こして、隣にいるフォリアの頭を撫でる。


すると、フォリアの美しい宝石の両目が、見えなくなった。
気持ちよさそうに目を細めて、僕の手にすり寄ってくる。


「……えっ…?」


フォリアの目は魔法を付与した魔石で出来ているから、瞬きはしない。いつもは、まん丸の目がキラキラしているだけだった。


……僕は、寝ぼけているんだろうか。


目を擦って、もう一度、頭を撫でているフォリアを確認する。ぱっちりと開いた瞳は、なんだ。いつも通りじゃないか。

僕の右手に頭突きをしたフォリアは、満足したのかスリスリを止めた。


小さなまぁろい前足を揃えて、ゆらーとしっぽを揺らすと、フォリアは口を少し開けた。


「ミァヤ。」

「っ?!!フォリア?!」


僕は、ものすごい勢いでフォリアを二度見した。


うそ。フォリアが鳴いた。
ミァヤって。本物の猫みたいに。



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...