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番外編(王立騎士・魔導士団対抗武道大会)
剣術部門、ヒューズ。魔法部門、ヴェスターの戦闘
しおりを挟むヒューズの対戦相手は、緑炎騎士団員。緑炎騎士団員が切っ先を突き出してきた攻撃を、ヒューズが長剣で軽くいなし、巧みに手首を反して刃体を絡め取った。
素早い動きに翻弄され、そのまま緑炎騎士団員の剣は手から離れてしまう。カキンッ!という音と共に剣は宙に放り出され、地面へと落ちた。
武器を失った緑炎騎士団員は、冷静にヒューズの剣戟を躱そうと後ろへ下がったが、もう遅い。
剣を手放した緑騎士団が動揺したほんの僅かな隙に、ヒューズは距離を詰めていた。ヒュンっ!という風切り音とともに、緑炎騎士団員の右胸にあった魔石を砕く。砕け散った魔石が紫色の破片をキラキラと太陽の下に散らしていた。
「勝者!蒼炎騎士団ヒューズ!」
圧倒的な剣戟を目にして、観戦者の興奮のボルテージが上がる。ヒューズへの歓声が響いた。
俺はヒューズを応援する声に、蒼炎騎士団には珍しく若い女性の黄色い声援が混じっていることにも気が付いた。
「……ヒューズって、人気があるんだな……。」
ヒューズの剣術は、貴族の優雅で形式ばったものとは、少し違う。魔物を相手にしているからか、一撃一撃が素早い上に、力強い。確実に仕留めるという闘気と殺気が籠っている。
それはまるで、獲物が隙を見せた瞬間に、一瞬で喉元へ鋭い鉤爪を食い込ませ逃さない、鷹の狩りを思わせる。
「まあね。……副団長は実家が貴族だから、仕草も綺麗でガサツじゃない。剣術も国の5本の指には入る実力者。……あのクールで無骨な見た目と雰囲気が、大人の男って感じで、男女問わず結構モテるんだってさ。」
ツェルの言葉に、なるほど、と納得した。
ヒューズも確かに、切れ長の目が鷹を思わせる、クールなイケメンだもんな。冷静かつ、騎士団員をまとめる面倒見の良い兄貴肌でもある。
地面に座り込んでいた相手選手に手を差し伸べ、起こしている様子は紳士的だった。
ヒューズも順調に初戦を突破して、控室に戻って来る。ヴェスターが会場入りの準備をしているところに、ヒューズが近づいて行った。ヴェスターの耳元で何か囁いているようだ。
「~~っ?!違います!!」
途端に、ヴェスターは耳まで真っ赤に染めて、大声で何か否定した。どうやら、ヒューズがヴェスターを揶揄ったようだ。
ヒューズはヴェスターには、すごく子供っぽいと言うか、意地が悪い。悪い大人のような笑みを浮かべている。プイっとそっぽを向いたまま、ヴェスターは控室の扉を開いた。
「行ってらっしゃい。ヴェスター。」
「行ってきます!!」
俺の言葉にヴェスターは、半ばヤケクソになって返事をした。いつも穏やかなヴェスターが、取り乱している。
大丈夫だろうか……?
体術の試合が、ツェルの瞬殺によって思ったよりも早く進行し、魔法部門の試合が始まろうとしていた。
俺にいつも『眼福です!ありがとうございます!』って謎の呪文を言う、マルスさんも会場入りしようとしていた。
マルスさんは、平民出身の俺より少し年上な騎士団員だ。明るい茶髪に赤茶色の瞳。魔力操作が得意で、紡がれる魔法は見事だ。最近メキメキと実力をつけて、今大会の選手に選ばれた。
……なぜか、蒼炎騎士団の仲間内では、
『ドMの残念騎士』と呼ばれている。
あだ名の由来は知らないけれど、決して皆から嫌われているわけではない。むしろ、皆には愛されていると思う。きっと、揶揄われるくらい愛されキャラなのだろう。
「マルスさんも、頑張って。」
そう、マルスさんに告げると、マルスさんは一瞬固まった。それはそれは、カチンッっと音がするのではないかというように、直立不動になる。
そして、はっとしたように我に返ると、身体をわなわなと震わせて、興奮気味に俺に宣言した。
「はい!必ずや勝利を女王様に捧げます!!」
……いつも思うんだけど、女王様って誰なんだろう?
でも、こんなにもマルスさんが口にするのだから、きっと、とても大切な人なんだろうな。
俺は、マルスさんの意気込みを受け止めるように、うんっと頷く。マルスさんは、気合が入ったようで、力強い足取りで控室を出て行った。
「……マルスのあれは、大丈夫か?」
ヒューズが少し心配そうに、マルスさんを見て呟いた。
「大丈夫じゃないっすか?むしろ、女王様直々に激励されて、気合入りまくってるし。……そこら辺のやつなんかには、負けないっしょ。」
興味なさげな様子で返事をしたツェルも、マルスさんの実力を認めている。
実際、マルスさんは、蒼炎騎士団長であるスフェンから、度々直接指導をされて、扱かれているのを見たことがある。それぐらい、きっとマルスさんに期待しているんだろう。
俺は、どうしても気になっていたことを聞いてみた。
「………なあ、女王様って誰なんだ?」
「ミカちゃんは知らなくていーの。」
ツェルに思いっきりはぐらかされた。
そんな呑気な会話をしているうちに、魔法部門の試合が始まった。
魔法部門は、剣などによる武器での物理攻撃は禁止。魔法で作り出した武器、例えば土魔法で作ったハンマーとか、水魔法で作り出した槍とかは使用が可能だ。
魔法の戦闘は、やはり異世界ならではというべきか。CG映画を見ているようで、それ以上に美しく迫力がある。
先ほどのやや静かな試合とは違い、魔法の閃光が飛び交い、轟音や風が吹き荒れる音が会場に響き渡る。見ている観客も、より一層興奮してきた。
そんな魔法部門の試合の中で、ひと際爆発音が響いている試合があった。
あれは……。
ヒューズが可笑しそうに、ふはっと噴き出して笑った。こんなふうに笑うヒューズも珍しい。目元を綻ばせて、ヴェスターを見ながら僅かに嬉しさを含んだ声音で呟いた。
「……あれは、八つ当たりだな。」
爆発音が響き渡っている試合とは、なんとヴェスターが戦闘している試合だった。
ヒューズに言われてよくよく思い出してみると、確かにヴェスターの攻撃は、いつもより荒っぽい。普段は、光のツタでの捕縛魔法のように、繊細で緻密な魔法を繰り出す。
光のツタでの捕縛は、魔力操作や力加減が難しいのだ。
でも、今戦闘しているヴェスターの魔法は違う。
思いっきり、魔力量の多さでぶん殴って、ねじ伏せているような魔法だった。……どうしたんだろう?ヴェスター。
ヴェスターの対戦相手である紫炎騎士団員は、もはや逃惑うしかない状況だ。地面には複数の穴ぼこが空いている。それもそのはずだ。
ヴェスターは試合開始早々、光魔法で作った光の玉を、空中から何個も、勢いよく降り注がせたのだ。その勢いは凄まじく、着弾した地面には高さ数メートルの穴が開いている。
最初は、紫炎騎士団員も光の玉を躱したり、防御結界で防いだりしていた。しかし、あまりの落玉の多さに魔力が足りなくなったのだ。
足場も悪くなり、とうとう、紫炎騎士団員に光の玉が被弾した。瞬時に紫炎騎士団員の右胸に装着された魔石が壊れ、防御魔法が発動する。
もう、紫炎騎士団員はへとへとだった。
「……勝者、蒼炎騎士団ヴェスター。」
勝者であるはずのヴェスターも、なぜか肩で息をして、ゼェー、ゼェーと息を切らしている。穏やかなで、取り乱すことなんてない、いつものヴェスターではない。
会場はヴェスターのごり押しの魔法に、若干引きぎみだ。
乗りの良いおっちゃんや男性陣からは、「よくやった!キザな紫炎騎士団をこてんぱんだ!」と、ヴェスターを褒めた讃えている人もいた。イケメンぞろいの紫炎騎士団を、やっかんでの言葉だろう。
やっと息が整ったのか、ふうっと一息、ため息をついたヴェスター。いつものような穏やかな保健の先生の顔に戻った。
「……私としたことが、取り乱すなんて……。まだまだ、修行が足りませんね。」
そう言いながら、ヴェスターは控室に戻って来た。
ミルクティー色の美しい髪が、少々乱れている。
俺は、ヴェスターを見ながら、決してヴェスターだけは怒らせない様にしようと、心に誓った。
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