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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦
鳥籠に囚われた、誰か切実に助けて!
しおりを挟むあっという間に、羊の執事たちの手によって俺はお風呂に入れられ、着替えさせられた。
「渾身の出来なのデス!!」
「男でも姫になったデス!」
「……」
モフモフな羊の執事たちが、メェーメェー言いながら俺の周りで喜んでいる。飛び跳ねたり、ハイタッチをしている羊の執事たちを、俺は遠い目をして見ていた。
眼の前に立つ鏡の中の少女も、遠い目をしている。
「どうデス!黒色で仕上げつつ、紫を挿し色にして上品!軽やかなフリルで可憐に、レースの透け感がなんとも美しく儚げなのデス!」
ふうぅと衣装担当の羊の執事が、やり切ったように息を吐いた。
オレが着ているドレスは、素人目でも分かるほど繊細で美しく、上品なドレスだった。漆黒のドレスはフリルが幾重にも付いているが、全く重くない。きっと上質な生地を使っているのだろう。
それ自体は、素晴らしいのだが……。
「……なんで、俺に着せてるんだ??」
人生でスカート何ぞ、この世界でも日本でも履いたことがない俺は、足の隙間を通る風の感覚に慣れない……。あれだ、スースーする感じ。
思わず落ち着かなくて身じろぐと、漆黒の合間から紫紺のレースが覗いた。これが、衣装の良いアクセントになっているみたいだ。
「さあ、ちょっとここでスカートを揺らしてみるのです!……ああ!!やっぱり銀にして良かったのデス!このあまり主張しない控えめな星屑のような輝き!!」
羊の御針子さんが、興奮気味に早口でまくし立てた。
俺が指示に従って、スカートの裾を摘まんで少し身体を捻る。所々に施された銀色の刺繍と、粒飾りの装飾が細かで控えめに輝くのだ。
どこかの貴族令嬢が来たならば、上品かつ神秘的な可愛らしさに男たちが釘付けになるだろうに……。
この部屋に来て何度目かの言葉を口にする。
「……いや、俺は男なんだが……」
「男でも姫デス!囚われの美しい姫デス!」
「こんなに美しい姫は、中々いないのデス!メイクもバッチリデス!!」
もう、俺の男だと言う発言は、羊の執事も御針子さんも誰も聞いてくれない……。
なんか、メイクまでされているんだが……。
「うわっ……。さすがに似合い過ぎじゃない?レースで透ける肌って、見えそうで見えない感じがまた、小悪魔的というか……。エロくていいね!」
「頼むから、解説しないでくれ……。エロいって何が??」
近くにいたカプリスに、事細かく解説されるのが恥ずかしい。
上半身は梳けたレースで肌を控えめに見せつつ、下半身はボリュームを出して華やかに。
動く度にフリルは揺れ、左腰に着いた紫色のバラとリボンの装飾が優雅に遊ぶ。
「それに、黒髪に紫紺のバラがよく似合う!」
髪が腰まで伸びたのは、執事が持っていた櫛形の魔導具のせいだ。髪を櫛で解く度に伸びていくって、どんなホラーだ。
右側頭部に付けられた、大輪の紫紺のバラの髪飾りは、腰の飾りと対になっている。銀のチェーンが、動く度にシャランっと綺麗な音を奏でるのだ
黒と紫、更には可愛らしいリボンにフリル……。
だから、何でゴスロリ趣味なんだろうか?
靴下と靴まで、漆黒のレースとか凄すぎないか?
俺の混乱をよそに、部屋は満足した羊の執事たちで盛り上がっていた。そんな騒がしい室内に、突如チリンっと可愛らしいベルの音が鳴った。ハッと、羊の執事たちが反応する。
「囚われの姫、出番なのデス!!」
「……えっ?」
俺が何のことか分からず質問をする暇を、羊の執事たちは与えてくれなかった。
俺は羊の執事たちに、急いで広い部屋に案内された。
寒色のステンドグラスが澄んだ光を演出する部屋の中心に、大人が数人入っても、まだ余裕のある巨大な鳥籠が鎮座していた。
「でかい……。あのリボンとか、一体どうなっているんだ?」
鳥籠の上部分には、可愛らしい真紅のリボンが結ばれていた。俺が、黒色の鳥籠をポカンっと見上げていると、後ろからグイグイと羊の執事たちに押される。
「えっ」
そして、あれよあれよと言う間に、俺は囚われの身になった。鳥籠に入れられた俺を、羊の執事たちは素早く拘束した。両手を頭の上に挙げ一纏めにされ、真紅のリボンで縛られた。
手首の部分には、大きなリボン結びをされた。
何だ?このファンシーな縛り方は……?
これなら、いくらでも拘束を解けそうだ。試しに身動いでみたが……。
「……解けない……」
可愛らしい見た目に反して、手の拘束が全く解けない。何か拘束の特殊な魔法がかかっているようだ。リボンは上に伸びて、鳥籠の天井に括りつけられていた。
状況を飲み込めない中、腕を挙げて座っている俺だけを残して、羊の執事たちが満足そうな顔をして鳥籠から出ていく。
「??」
誰か、俺にもっと説明してくれ!!
俺の心の叫びは届くはずがなく、鳥籠には俺一人だけが取り残された。鳥籠の扉が無情にも閉じた瞬間だ。
正面にある、重厚な部屋の扉が開いた。外の光が、薄っすらと暗い部屋に光を差し込む。
「「ヒズミっ?!」」
ソルとアトリが、同時に驚きの声を揃って上げた。その姿を俺は見遣りつつ、離れ離れになっていた2人が無事そうだと安堵する。
そして、安堵したあとに自分の状況を思い出す。女装して、リボンで身体を拘束されている俺。変態だと言われても、おかしくない状況だ。
ソルとアトリが呆然としている。理由に思い至った俺は、恥ずかしくて顔に熱が上がった。
「えっと……。たす、けて……??」
……お願いだ。ソルとアトリ……。
この恥ずかしくて、死にそうな状況から早く助けて!
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