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第5章 学園編、試験に夏休み。夏休み前半戦

試練を乗り越えたご褒美とは?(ソレイユside)

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(ソレイユside)



「……随分と時間がかかったが、試練を乗り越えたようだな。幼き勇者よ」

闇の細かな破片が、硝子片のように灰色の光に輝きを伴って舞う。壊れた壁の間から、随分と大人びた少年の姿が見える。


オレは闇の空間から抜けると、石畳に両膝を着いて崩れ落ちた。息切れをして、肩が激しく上下する。相当な魔力を消費したのもそうだけど、何か別の疲労感が全身を一気に襲う。

何とか長剣を杖代わりにして、倒れ込まない様にすることが精一杯だった。


俯いたオレの視界に、黒い影が差す。コツっと足音が近くで聞こえて顔を上げると。リベルがオレを見下ろしていた。


「……お前は、歴代の勇者の中でも最も若い。しかし、今までに類を見ないほどに潜在能力が高い。異世界の魂が馴染んでいることも不思議だ……。無事に能力を開花できれば、今までにない勇者となり得るだろう」


何か予言名めいたことを言っているリベルの近くで、ミルクティー色が揺れる。心配そうな顔をしたアイトリアさんが、急ぎ足でオレのもとに来てくれた。


「ソレイユ!大丈夫ですか?」

オレの身体を、アイトリアさんが肩を貸して支えてくれた。どうやら、アイトリアさんは先に試練を終えていたらしい。アイトリアさんの右肩に乗っていたモルンが、オレの左肩に移動すると、ペタッと頬に小さな手を付けた。

途端に、温かなほわりとした魔力が身体の全体を包み込む。


「モルン……、まさか回復してくれたのか?」

左肩に乗ったモルンは、ふんっ!と胸を張って左肩で仁王立ちをした。身体には怪我はないものの、魔力を多く消費して疲労が辛かった。

ほわりとした魔力が、オレの全身を包む。重苦しかった怠さが軽くなる。体力も自力で立ち上がれるくらいに回復したのには、驚いた。

……モルンのこと、役立たずとか思ってすみませんでした。


「今回の試練は、お前の中に眠る潜在能力を気付かせたのに過ぎない。いずれ、時が来れば英傑の紋章が現れるだろう……。そうなれば、お前は運命に抗えない」

この少年は、過酷な試練をオレに与えつつも、どこか心配げにオレを案じている気配がうかがえる。魔王と戦う英傑になることを、憐れんでいるようにも見えた。


「約束通り、神具を渡す。長剣を目の前に差し出せ」

リベルに言われたオレは、片膝をついて長剣を両手で差し出す。騎士が剣を差し出すように頭の上に掲げると、リベルは柄部分に手を当てた。


「神具は、歴代の勇者の精神が宿っている。魔王を倒した者から、道半ばで命を落とした者まで……。その全てが進むべき道へとお前を導く。……どうかこの者に、幸多き未来があらんことを」

神官の祈りのように言葉を紡いだベリルは、ゆっくりと瞳を閉じた。

頭の上に掲げている長剣が、じんわりと熱くなっていくのを感じる。ベリルが手を置いている柄部分から、ゆっりと熱が広がっていく。長剣全体が淡い白色の光に包まれた。


「……どうか、神が与えた人々への試練に、終止符を」

絞るように出された最後の言葉には、切実は思いが織り交ぜられていた。その言葉に呼応したように、白色の光がひと際眩しく輝くと、光が収束していく。

リベルがそっと長剣から手を離した。


「……これが、神具……」

オレは、神秘的な現象に思わず呟いた。先程まで何もなかったのに柄の中心には、丸い宝石が埋め込まれていた。暗い青色の中に、銀色の流星痕が渦巻いているような不思議な石だ。


「名は、『英霊の宿願』」

この世界を守るべく心を尽くした者たちの精神と、彼らの悲願が籠った宝石だとリベルは言った。


リベルの閉じていた黄金の瞳が、オレと交差した。頼んだと、言われているような気がして、オレは強く頷いた。


「……さて、お前たちの仲間の元に連れて行こう……」

リベルがそう言った途端、祭壇の後ろにあった重厚な扉が独りでにゆっくりと開いた。両開きの扉の奥は、黒色の大理石で出来た壁の廊下が続いているのが見える。


「そう言えば、弟が試練を乗り越えた者へのご褒美を用意していると言っていたな……。楽しみにしているが良い」

そんなことをリベルは呟きながら、オレたちを扉の奥へと案内した。足音さえ立たないほどに、重厚な深紅の絨毯を進む。豪華絢爛な城の中を進んでいるようだった。


そして、ひと際大きくて、煌びやかな両開き扉に行きついた。


「リベル様、おかえりなさいませ、なのデス」

「そこにいる2人が、囚われの姫を救う王子デスか?」

扉の左右にいた小さな白色のモフモフがしゃべり出す。オレの膝下くらいの背丈しかない羊だった。執事のような燕尾服を着た2匹は、リベルを見上げると何やら意味の分からない言葉を言い出した。


「囚われの姫?……カプリス、また変な遊びを思いついたのか?まあ、良い。この2人がヒズミとかいう奴の仲間だそうだ」

リベルの言葉に、一匹の羊が扉を少し開けて頭を突っ込んだ。扉の向こうで何やら忙しなく動いている気配がする。


「つうたつ!王子が来たのデス!姫のセッティングは整っておりますデスか?」

「万全なのデス!」

扉の奥から、とても良い返事が返ってくる。扉に頭を突っ込んでいた羊の執事は、パタンと扉を閉めた。そして、シャキッと背筋を伸ばす。


……姫ってなんだ??
それに、王子ってオレたちのことか?


「ここから先は、王子たちが先に入るのデス!」

ふんすっ!と羊の執事が鼻息を荒げて言った。オレとアイトリアさんは顔を見合わせると、2人で首を傾げながらも扉のドアノブに手を掛ける。

何かの罠ではないよな……?

その可能性も否定できないから、ドアノブに手を掛けつつ、視線をリベルに移した。


「安心しろ。危害を加える様なことはしない」

オレの考えを見通したリベルの返事を聞き、オレたち2人は扉を開けた。そして、目の前の光景に思わず息を飲む。


「「っ?!」」


美しい月光が、寒色系のステンドグラスから差し込む中で、両手をリボンで繋がれた美しい女性が鳥籠の中に囚われていた。美しい漆黒の髪は、その女性が身動ぎをすると腰辺りで悩ましげに揺れる。


漆黒のドレスは豪華で、黒色のレースから透けて見える腕やデコルテの素肌が、白くて儚いのに煽情的だ。紫色の瞳が戸惑いつつも、オレたちに向けられる。

その女性の顔は、恥ずかしげに赤らんでいる。


「えっと……。たす、けて……??」

辿々しく助けを求めたその声は、女性よりもやや低く、それでいて耳に心地よい。間違える筈はない。


「「ヒズミっ?!」」


オレとアイトリアさんの驚愕の声が、部屋に響いた。



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