俺は勇者の付添人なだけなので、皆さんお構いなく 勇者が溺愛してくるんだが……

雨月 良夜

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第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦

興味深い漆黒の青年(???side)

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(???side)



パーティー会場から抜けて、ゆっくりとソファに腰かけているとホテルの客室に1人の美麗な男が訪ねてきた。ふうっとため息を吐いた絶世の美男は、俺を見ると無表情に腰を折った。


今回、こいつには世話になったからな。
何か褒美を与えねばならん。


「御忍びの視察は、楽しかったですか?王太子殿下」

美しく微笑んだ口元と違い、その蒼色の目は海の底のように冷たい。こいつの蒼が甘く優しくなるのは、あの弟の前でだけだ。あいつもこんな男に執着されて可哀そうに。

俺は忠臣であるアルカシファを見ながら、用意された果実水を口に含んだ。


「今宵はとても面白かったぞ。久々にお前の話術も聞けて、収穫が多かったな?」


あの美しくも妖しい夏の桜は、この夜会がデビュタントとなった公爵令嬢を、女性達がもてなすために演出したと言う体で丸く収まった。アルカシファがあの場で情報を操作したのだ。

実際のところは、酒を浴びせかけて侮辱しようとしていたんだがな。


あの公爵令嬢に酒をかけ、最上級のドレスを汚し恥をかかせようとしていた女性たちは、婚約者候補から除外だ。それなりに地位が高い貴族たちだったが、裏の情報戦を制していないし何よりも頭が切れない。

感情に流されてしまう者など、妃には足りない。


今回の視察を内密に行ったのは、婚約者候補の選定のためと、内政の派閥を見極めるためだ。社交界では恒例になっている、夏の夜会『短夜の宴』。国が主催するこの宴は、その時代、その場所によって趣旨が変わる。

趣旨さえも見抜けない者は、論外だ。


「作用でございますか。息抜きできて宜しかったです」

アルカシファに抑揚のない声で言われ、思わずはっと鼻で笑う。微塵も宜しかったなどと、思ってもいないのを隠そうともしない。

俺は付けていた眼鏡を外し、サイドテーブルにカタリと置いた。これは、変装用の魔導具だ。眼鏡をかけた者は、対峙している相手には平均的な特徴のない容姿に見える。


記憶にも残りにくいように、隠蔽と偽装の魔法が施された高度な魔導具。魔導師団が開発したもので、主に闇魔法が組み込まれている。置いた眼鏡をじっと見下ろし、俺は今日出会ったばかりの異質な存在を思い出していた。自然と口角が上がる。


「……まさか、見破られそうになるとはな…… 」 

この魔導具に施された闇魔法よりも、先程会った青年は闇魔法の実力が高いことを意味していた。さらには、継続して感知魔法を発動させる魔法操作技術と、魔力量の多さには舌を巻きそうだ。

咄嗟に悪戯をして、意識を逸らせたから良かったが、あのまま見つめられていれば見破られていただろう。


「あの漆黒の君は、お前の弟のクラスメイトと聞いたが……?」


あの紫色の瞳をした青年は、貴族たちが大勢いる中でも目立っていた。珍しい漆黒の髪に、深い紫色はなんとも神秘的で、大人めいた落ち着きが見えるのも不思議だった。

華奢な身体は軟弱というわけではなく、筋肉が適度についてしなやかだった。それがまた、青年時の幼気な面立ちと、大人になりかけの絶妙な年頃の魅力を引き立てた。

貴族たちの下卑た視線には、気が付かなかったのか、あるいは分かっていても気にも留めていないのか……。


何人かの貴族が、今夜の相手に出来るか見定めようとして触ろうとしたが、本人が軽やかに回避する。まるで、蝶が舞うようにひらりと避けて、凛とした姿で微笑んでいた。


「私も驚いていますよ。何でも、もう1人いた金髪の青年と、冒険者としてすでに活動しているそうです。冒険者レベルも歳の割には高い」

後ほど資料をお渡ししましょうか?と言ってくるアルカシファに、思わず苦笑した。そういえば、こいつが弟の友人のことを調べないはずがないもんな。


「学園卒業後に、あの2人を当ホテルの護衛兼従業員としてスカウトできないか、真剣に考えているところです」

「……残念だったな。俺も目を付けちまった」

本来は実力を見てから決めるのが無難だか、この男がスカウトしようとしているくらいだ。相当の手練なのだろう。


そう言えば、暗部が学園の生徒で欲しい人材がいると騒いでいたな。既に緑風騎士団の団長と副団長に目を掛けられている人材で、こちらが手を出しにくいとか、なんとか。

暗部隊長が俺に、『ねえ、あそこの緑風騎士団団長と、副団長が邪魔だからさー。ヤっちゃって良い?良いよね?』と戯言を目をランランとさせて吐いていた。


相手は国内でも最強と名高い、実力至上主義である緑風騎士団の2トップ。

暗部隊長でも2人を相手にするなら、さすがに死闘になるから止めた。久々に命を掛けた戦いができると意気込んでいた暗部隊長は、つまらないと文句を言っていたが……。あんの戦闘狂が。

この魔王が復活しそうな兆しがある中で、貴重な武力を削ってたまるかよ。


「……はあ、お忍びで遊びたいとおっしゃったから、わざわざ人員を追加して苦労させられたのに……。あっ、弟は王太子殿下であろうとも絶対に渡しませんからね?」

アルカシファがあからさまに溜息をついて肩を竦めた。


「へいへい。お前から奪おうなんぞ思わんわ。」

こいつから弟を奪ったなら、悪の帝王が出来上がる。文字通り帝国ができるだろう。この国から独立して建国が出来てしまうほど、辺境伯は権力と手腕、なによりも領民の信頼があるのだ。

そんなやつを敵に回すほど、俺も馬鹿ではない。

白色の髪を括っていた紙紐を解く。長くなりすぎた髪は腰辺りまで揺れた。


「隣国から帰ってきて正解だな。……面白くなりそうだ」

魔王の復活の兆しが、この国では表面化してきた。各地の魔物の動きが活性化し始めている。数年前から警戒はしていたが、いよいよ決戦の時が近づいているのだろう。

実の弟を、俺は命を落とすかもしれない危険な戦地へ向かわせなければならないのだ。せめて、大きな怪我をしないように、ましてや命を落とさないように、最強の武器と人員を全投入したい。

そのためには、俺という存在が不可欠になるだろう。国王は弟を政治の駒としか見ていないから。


思考をひとしきりしたところで、サイドテーブルに置いたグラスをすくい取る。紫色の果実水は彼の瞳の綺麗さを思い出させる。


「……いいねえ。あの凛とした清楚な感じを、縛って涙目にして、啼かせてぇ」


自分の性癖がほんの少しだけ歪んでいるのは知っている。愛しいものは虐めたい。特に、美しいものほど自分の前でだけ、妖艶に乱したい。


「ドン引きです。王太子殿下」

「うるせぇ」


軽口を叩き合いながら、夜は更けた。



    
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