45 / 153
第6章 友達の家に遊びに行きます、夏休み後半戦
興味深い漆黒の青年(???side)
しおりを挟む(???side)
パーティー会場から抜けて、ゆっくりとソファに腰かけているとホテルの客室に1人の美麗な男が訪ねてきた。ふうっとため息を吐いた絶世の美男は、俺を見ると無表情に腰を折った。
今回、こいつには世話になったからな。
何か褒美を与えねばならん。
「御忍びの視察は、楽しかったですか?王太子殿下」
美しく微笑んだ口元と違い、その蒼色の目は海の底のように冷たい。こいつの蒼が甘く優しくなるのは、あの弟の前でだけだ。あいつもこんな男に執着されて可哀そうに。
俺は忠臣であるアルカシファを見ながら、用意された果実水を口に含んだ。
「今宵はとても面白かったぞ。久々にお前の話術も聞けて、収穫が多かったな?」
あの美しくも妖しい夏の桜は、この夜会がデビュタントとなった公爵令嬢を、女性達がもてなすために演出したと言う体で丸く収まった。アルカシファがあの場で情報を操作したのだ。
実際のところは、酒を浴びせかけて侮辱しようとしていたんだがな。
あの公爵令嬢に酒をかけ、最上級のドレスを汚し恥をかかせようとしていた女性たちは、婚約者候補から除外だ。それなりに地位が高い貴族たちだったが、裏の情報戦を制していないし何よりも頭が切れない。
感情に流されてしまう者など、妃には足りない。
今回の視察を内密に行ったのは、婚約者候補の選定のためと、内政の派閥を見極めるためだ。社交界では恒例になっている、夏の夜会『短夜の宴』。国が主催するこの宴は、その時代、その場所によって趣旨が変わる。
趣旨さえも見抜けない者は、論外だ。
「作用でございますか。息抜きできて宜しかったです」
アルカシファに抑揚のない声で言われ、思わずはっと鼻で笑う。微塵も宜しかったなどと、思ってもいないのを隠そうともしない。
俺は付けていた眼鏡を外し、サイドテーブルにカタリと置いた。これは、変装用の魔導具だ。眼鏡をかけた者は、対峙している相手には平均的な特徴のない容姿に見える。
記憶にも残りにくいように、隠蔽と偽装の魔法が施された高度な魔導具。魔導師団が開発したもので、主に闇魔法が組み込まれている。置いた眼鏡をじっと見下ろし、俺は今日出会ったばかりの異質な存在を思い出していた。自然と口角が上がる。
「……まさか、見破られそうになるとはな…… 」
この魔導具に施された闇魔法よりも、先程会った青年は闇魔法の実力が高いことを意味していた。さらには、継続して感知魔法を発動させる魔法操作技術と、魔力量の多さには舌を巻きそうだ。
咄嗟に悪戯をして、意識を逸らせたから良かったが、あのまま見つめられていれば見破られていただろう。
「あの漆黒の君は、お前の弟のクラスメイトと聞いたが……?」
あの紫色の瞳をした青年は、貴族たちが大勢いる中でも目立っていた。珍しい漆黒の髪に、深い紫色はなんとも神秘的で、大人めいた落ち着きが見えるのも不思議だった。
華奢な身体は軟弱というわけではなく、筋肉が適度についてしなやかだった。それがまた、青年時の幼気な面立ちと、大人になりかけの絶妙な年頃の魅力を引き立てた。
貴族たちの下卑た視線には、気が付かなかったのか、あるいは分かっていても気にも留めていないのか……。
何人かの貴族が、今夜の相手に出来るか見定めようとして触ろうとしたが、本人が軽やかに回避する。まるで、蝶が舞うようにひらりと避けて、凛とした姿で微笑んでいた。
「私も驚いていますよ。何でも、もう1人いた金髪の青年と、冒険者としてすでに活動しているそうです。冒険者レベルも歳の割には高い」
後ほど資料をお渡ししましょうか?と言ってくるアルカシファに、思わず苦笑した。そういえば、こいつが弟の友人のことを調べないはずがないもんな。
「学園卒業後に、あの2人を当ホテルの護衛兼従業員としてスカウトできないか、真剣に考えているところです」
「……残念だったな。俺も目を付けちまった」
本来は実力を見てから決めるのが無難だか、この男がスカウトしようとしているくらいだ。相当の手練なのだろう。
そう言えば、暗部が学園の生徒で欲しい人材がいると騒いでいたな。既に緑風騎士団の団長と副団長に目を掛けられている人材で、こちらが手を出しにくいとか、なんとか。
暗部隊長が俺に、『ねえ、あそこの緑風騎士団団長と、副団長が邪魔だからさー。ヤっちゃって良い?良いよね?』と戯言を目をランランとさせて吐いていた。
相手は国内でも最強と名高い、実力至上主義である緑風騎士団の2トップ。
暗部隊長でも2人を相手にするなら、さすがに死闘になるから止めた。久々に命を掛けた戦いができると意気込んでいた暗部隊長は、つまらないと文句を言っていたが……。あんの戦闘狂が。
この魔王が復活しそうな兆しがある中で、貴重な武力を削ってたまるかよ。
「……はあ、お忍びで遊びたいとおっしゃったから、わざわざ人員を追加して苦労させられたのに……。あっ、弟は王太子殿下であろうとも絶対に渡しませんからね?」
アルカシファがあからさまに溜息をついて肩を竦めた。
「へいへい。お前から奪おうなんぞ思わんわ。」
こいつから弟を奪ったなら、悪の帝王が出来上がる。文字通り帝国ができるだろう。この国から独立して建国が出来てしまうほど、辺境伯は権力と手腕、なによりも領民の信頼があるのだ。
そんなやつを敵に回すほど、俺も馬鹿ではない。
白色の髪を括っていた紙紐を解く。長くなりすぎた髪は腰辺りまで揺れた。
「隣国から帰ってきて正解だな。……面白くなりそうだ」
魔王の復活の兆しが、この国では表面化してきた。各地の魔物の動きが活性化し始めている。数年前から警戒はしていたが、いよいよ決戦の時が近づいているのだろう。
実の弟を、俺は命を落とすかもしれない危険な戦地へ向かわせなければならないのだ。せめて、大きな怪我をしないように、ましてや命を落とさないように、最強の武器と人員を全投入したい。
そのためには、俺という存在が不可欠になるだろう。国王は弟を政治の駒としか見ていないから。
思考をひとしきりしたところで、サイドテーブルに置いたグラスをすくい取る。紫色の果実水は彼の瞳の綺麗さを思い出させる。
「……いいねえ。あの凛とした清楚な感じを、縛って涙目にして、啼かせてぇ」
自分の性癖がほんの少しだけ歪んでいるのは知っている。愛しいものは虐めたい。特に、美しいものほど自分の前でだけ、妖艶に乱したい。
「ドン引きです。王太子殿下」
「うるせぇ」
軽口を叩き合いながら、夜は更けた。
462
あなたにおすすめの小説
役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました
綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜
【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】
*真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息
「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」
婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。
(……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!)
悪役令息、ダリル・コッドは知っている。
この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。
ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。
最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。
そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。
そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。
(もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!)
学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。
そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……――
元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。