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謹慎
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その後、僕は謹慎のため一度侯爵家へと戻った。
両親に何か言われるのではとヒヤヒヤしたが、彼らはそこまで僕に興味はないようで、そもそも家にすらいなかった。
そして、おかしな時期に戻ってきた僕をティアとテオが温かく迎えてくれる。
「お兄様、おかえりなさい!」
「ただいま、ティア」
「お兄様、お疲れでしょう?しばらくゆっくりして行って下さいね」
「ありがとう、テオ」
2人の顔を見てホッとした僕は、謹慎という理由でありながら家に戻れて良かったと思った。
そして、いつも以上ににこやかに揃って出迎えてくれた2人に、僕がいなくなったことで2人の仲が深まったのだろうかと密かに安堵した。
「あの…お兄様、その髪…」
「ああ、そろそろ鬱陶しかったから切ろうと思ってさ」
ティアとテオは僕が謹慎で帰ってきたことは知っているが、詳しいことは話していない。だから伺うように尋ねてきたティアに、余計な心配を掛けないよう努めて平然と答えた。
「そうでしたか…長いのも素敵でしたが、短いのも似合っていますわ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
結局アリサの髪紐は使える状態には戻らず、残骸となったそれは宝石箱の中に丁寧にしまってある。
「2人は変わりなかった?」
「ええ、特には」
「そう、なら良かった」
そうしていつも通りの会話ができたことに安心して、僕は旅の疲れを取るため部屋に戻らせてもらうことにした。
その時、2人の視線が僕の髪に注がれたままだったことには気づかずに…
~アリスティアside~
数日前、お兄様が学園から戻ってくるという連絡が来た。何でも謹慎処分を受けたという。
あの真面目なお兄様がそんな問題を起こすはずがない。だからきっと他の生徒に何かされたのだとしか思えなかった。
(お兄様、大丈夫かしら…?)
そんな心配をしていると、1通の手紙が届いた。
差出人はお兄様を奪おうとしている憎い女だった。
でも今最もお兄様の近くにいる彼女は貴重な情報源だ。
私はイラつきながらもその手紙を開ける。
そこには到底許せないことが書かれていた。
「お兄様がハンフリー伯爵家の子息たちにイジメられている…!?」
そこにはお兄様が伯爵令息から受けているイジメの数々が書かれていた。
「こんなの絶対に許せない…!!」
怒りが湧き起こり手紙を握りつぶした私は、普段は話しかけないテオドアの部屋へと向かった。
「テオ、お兄様のことで大事な話があるの」
するとドアを小さく開けたテオドアが「お兄様のこと?」と訝しそうに訊いてくる。
この生意気な弟は、きっとお兄様のことと言わなければドアも開けてくれなかったでしょうね。
お兄様が仲良くしろと言うから表面上は普通に接しているけれど、私はまだこの子のことが嫌いだ。だけど、ただ一点においては誰よりも信頼している。
(テオドアは、この手紙を読めば私と同じことを考えるはず)
そう、何と言ってもこの子も兄馬鹿だ。お兄様がイジメられていると聞いて黙っている筈がない。そう思ってここにやってきたのだ。
そんなテオドアに握りしめてくしゃくしゃになった手紙を渡す。彼は怪訝そうにその紙を受け取って皺を伸ばしながら読み始めた。
その顔にみるみる青筋が立つのを見て私はやっぱりね、と彼が同じ気持ちであることを確信した。
「何だよこれ…!!こいつら、僕のお兄様に何てことを…」
「ええ、本当よね。私のお兄様にこんなことをするなんて絶対許せない」
…ほんの少し、私たちの間にもピリッとした空気が流れたけどそんなことは気にしていられない。
「それでティア、これを僕に伝えて何がしたいの?」
「あら、あなたも似たようなことを考えているんじゃなくて?」
「ああ、こいつらはタダじゃ済まさない。でも、どうしてやろうか…」
そう言って悩み始めたテオに笑顔で提案する。
「ねえ、私たちも王立学園に入学しましょうよ」
「は?それはもともとする予定だろ」
「違うわ、14歳になってからではなく今すぐによ」
私の言葉にテオドアが目を見開く。
「今すぐ…?」
「ええ、飛び級するの。今から頑張れば2学期の転入に間に合うはずだわ。そしてお兄様と同学年として学園に通うの」
そうすると彼にしては珍しく私に感心したような顔を向けた。
「そうか、何で思いつかなかったんだろう。わざわざその年まで待たなくったってお兄様と一緒にいられるじゃないか…!」
「そうよ。まずはお兄様と同じ学園に通ってお兄様を守るの。そこでハンフリー伯爵側の人間を全員特定してとことん仕返ししましょう」
私の言葉にテオドアは力強く頷いた。
そうと決まれば勉強ね。一刻も早く入学し、お兄様と一緒に学園に通わないと。
まあ私たちは家庭教師から既に学園の1、2年が習う教育は受けているしすぐに追いつくでしょう。
そう思って再び手紙に視線を落とす。
あの役ただずな女は首謀者のハンフリー伯爵令息の名前しか書いていないけれど、"伯爵令息たちにイジメられている"ということは彼の周りに取り巻きどもがいるはず。
絶対に全員後悔させてやる。
そのためにはお兄様の近くで誰が関わってるのか見定めないと。そして二度とお兄様の前に出てこないように叩き潰すわ。
テオドアも恐らくは似たような決意をした顔でぶつぶつと呟いている。
私の大切なお兄様を苦しめたこと、絶対に許さないんだから。
そうしてお兄様が謹慎として帰ってきた日。
私たちは事前に話し合って、詳しいことは尋ねずにお兄様をにこやかに迎えた。
ホッとしたような顔で笑ったお兄様は少しやつれて見えた。
そして何より…
「あの…お兄様、その髪…」
あの綺麗な長い銀髪がばっさり切られている。
「ああ、そろそろ鬱陶しかったから切ろうと思ってさ」
お兄様はそんな風に言うけど、私たちはゾーイからの手紙で顛末を全て知っている。もう治療されてはいるけれど、切られたのが髪だけではないことも…
「そうでしたか…長いのも素敵でしたが、短いのも似合っていますわ」
(アリサから貰った髪紐…一生付けるなんて言うほど喜んで、結び方まで学んでいたのに…)
お兄様が大事そうに持って帰ってきた箱に恐らくはその残骸が入っているのだろう。
あの日の喜びようを知っているだけに胸が締め付けられる。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
お兄様はそう言って笑ったけれど疲れているのか顔が青白い。
「お兄様、今日はお疲れでしょう。ゆっくり休んでください」
テオドアがすかさずお兄様を支えて部屋へと向かう。そして振り返った彼と目が合った。
その目は怒りに燃えていて彼が私と同じ気持ちなのだとわかる。
(ええ、テオ。お兄様をこんなに傷つけたやつらを絶対後悔させましょう)
そうして謹慎期間の間、私たちは精一杯お兄様を癒そうと奔走した。
謹慎帰還後…テオドアと仲の良いふりをしすぎた反動で胸焼けした私は、しばらくあいつの顔を見ずに済むよう自室に篭って勉強し続けた。
まあ、テオドアも同じだったようだけど。
両親に何か言われるのではとヒヤヒヤしたが、彼らはそこまで僕に興味はないようで、そもそも家にすらいなかった。
そして、おかしな時期に戻ってきた僕をティアとテオが温かく迎えてくれる。
「お兄様、おかえりなさい!」
「ただいま、ティア」
「お兄様、お疲れでしょう?しばらくゆっくりして行って下さいね」
「ありがとう、テオ」
2人の顔を見てホッとした僕は、謹慎という理由でありながら家に戻れて良かったと思った。
そして、いつも以上ににこやかに揃って出迎えてくれた2人に、僕がいなくなったことで2人の仲が深まったのだろうかと密かに安堵した。
「あの…お兄様、その髪…」
「ああ、そろそろ鬱陶しかったから切ろうと思ってさ」
ティアとテオは僕が謹慎で帰ってきたことは知っているが、詳しいことは話していない。だから伺うように尋ねてきたティアに、余計な心配を掛けないよう努めて平然と答えた。
「そうでしたか…長いのも素敵でしたが、短いのも似合っていますわ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
結局アリサの髪紐は使える状態には戻らず、残骸となったそれは宝石箱の中に丁寧にしまってある。
「2人は変わりなかった?」
「ええ、特には」
「そう、なら良かった」
そうしていつも通りの会話ができたことに安心して、僕は旅の疲れを取るため部屋に戻らせてもらうことにした。
その時、2人の視線が僕の髪に注がれたままだったことには気づかずに…
~アリスティアside~
数日前、お兄様が学園から戻ってくるという連絡が来た。何でも謹慎処分を受けたという。
あの真面目なお兄様がそんな問題を起こすはずがない。だからきっと他の生徒に何かされたのだとしか思えなかった。
(お兄様、大丈夫かしら…?)
そんな心配をしていると、1通の手紙が届いた。
差出人はお兄様を奪おうとしている憎い女だった。
でも今最もお兄様の近くにいる彼女は貴重な情報源だ。
私はイラつきながらもその手紙を開ける。
そこには到底許せないことが書かれていた。
「お兄様がハンフリー伯爵家の子息たちにイジメられている…!?」
そこにはお兄様が伯爵令息から受けているイジメの数々が書かれていた。
「こんなの絶対に許せない…!!」
怒りが湧き起こり手紙を握りつぶした私は、普段は話しかけないテオドアの部屋へと向かった。
「テオ、お兄様のことで大事な話があるの」
するとドアを小さく開けたテオドアが「お兄様のこと?」と訝しそうに訊いてくる。
この生意気な弟は、きっとお兄様のことと言わなければドアも開けてくれなかったでしょうね。
お兄様が仲良くしろと言うから表面上は普通に接しているけれど、私はまだこの子のことが嫌いだ。だけど、ただ一点においては誰よりも信頼している。
(テオドアは、この手紙を読めば私と同じことを考えるはず)
そう、何と言ってもこの子も兄馬鹿だ。お兄様がイジメられていると聞いて黙っている筈がない。そう思ってここにやってきたのだ。
そんなテオドアに握りしめてくしゃくしゃになった手紙を渡す。彼は怪訝そうにその紙を受け取って皺を伸ばしながら読み始めた。
その顔にみるみる青筋が立つのを見て私はやっぱりね、と彼が同じ気持ちであることを確信した。
「何だよこれ…!!こいつら、僕のお兄様に何てことを…」
「ええ、本当よね。私のお兄様にこんなことをするなんて絶対許せない」
…ほんの少し、私たちの間にもピリッとした空気が流れたけどそんなことは気にしていられない。
「それでティア、これを僕に伝えて何がしたいの?」
「あら、あなたも似たようなことを考えているんじゃなくて?」
「ああ、こいつらはタダじゃ済まさない。でも、どうしてやろうか…」
そう言って悩み始めたテオに笑顔で提案する。
「ねえ、私たちも王立学園に入学しましょうよ」
「は?それはもともとする予定だろ」
「違うわ、14歳になってからではなく今すぐによ」
私の言葉にテオドアが目を見開く。
「今すぐ…?」
「ええ、飛び級するの。今から頑張れば2学期の転入に間に合うはずだわ。そしてお兄様と同学年として学園に通うの」
そうすると彼にしては珍しく私に感心したような顔を向けた。
「そうか、何で思いつかなかったんだろう。わざわざその年まで待たなくったってお兄様と一緒にいられるじゃないか…!」
「そうよ。まずはお兄様と同じ学園に通ってお兄様を守るの。そこでハンフリー伯爵側の人間を全員特定してとことん仕返ししましょう」
私の言葉にテオドアは力強く頷いた。
そうと決まれば勉強ね。一刻も早く入学し、お兄様と一緒に学園に通わないと。
まあ私たちは家庭教師から既に学園の1、2年が習う教育は受けているしすぐに追いつくでしょう。
そう思って再び手紙に視線を落とす。
あの役ただずな女は首謀者のハンフリー伯爵令息の名前しか書いていないけれど、"伯爵令息たちにイジメられている"ということは彼の周りに取り巻きどもがいるはず。
絶対に全員後悔させてやる。
そのためにはお兄様の近くで誰が関わってるのか見定めないと。そして二度とお兄様の前に出てこないように叩き潰すわ。
テオドアも恐らくは似たような決意をした顔でぶつぶつと呟いている。
私の大切なお兄様を苦しめたこと、絶対に許さないんだから。
そうしてお兄様が謹慎として帰ってきた日。
私たちは事前に話し合って、詳しいことは尋ねずにお兄様をにこやかに迎えた。
ホッとしたような顔で笑ったお兄様は少しやつれて見えた。
そして何より…
「あの…お兄様、その髪…」
あの綺麗な長い銀髪がばっさり切られている。
「ああ、そろそろ鬱陶しかったから切ろうと思ってさ」
お兄様はそんな風に言うけど、私たちはゾーイからの手紙で顛末を全て知っている。もう治療されてはいるけれど、切られたのが髪だけではないことも…
「そうでしたか…長いのも素敵でしたが、短いのも似合っていますわ」
(アリサから貰った髪紐…一生付けるなんて言うほど喜んで、結び方まで学んでいたのに…)
お兄様が大事そうに持って帰ってきた箱に恐らくはその残骸が入っているのだろう。
あの日の喜びようを知っているだけに胸が締め付けられる。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
お兄様はそう言って笑ったけれど疲れているのか顔が青白い。
「お兄様、今日はお疲れでしょう。ゆっくり休んでください」
テオドアがすかさずお兄様を支えて部屋へと向かう。そして振り返った彼と目が合った。
その目は怒りに燃えていて彼が私と同じ気持ちなのだとわかる。
(ええ、テオ。お兄様をこんなに傷つけたやつらを絶対後悔させましょう)
そうして謹慎期間の間、私たちは精一杯お兄様を癒そうと奔走した。
謹慎帰還後…テオドアと仲の良いふりをしすぎた反動で胸焼けした私は、しばらくあいつの顔を見ずに済むよう自室に篭って勉強し続けた。
まあ、テオドアも同じだったようだけど。
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