公爵家に引き取られることになったけど、幼馴染と離れたくないので囲い込みます

ゆう

文字の大きさ
5 / 44
孤児院

5

しおりを挟む
その後僕たちは孤児院へと戻った。

「ほら、ガキども。土産だぞ!」

ノエルが子供たちに呼びかける。いつもならキャーキャーと子供たちが駆けてくるはずだが、今日はしんと静まり返っている。

「なんだ?やけに静かだな。」
「ほんと、どうしたんだろ。」


訝しげに奥へと入っていくと誰かの怒声が聞こえてきた。

「生意気な子供だな!躾がなっていないんじゃないか?」
「まあまあ坊っちゃん、子供の言うことですから。」

僕たちは来客があることを察してそっとドアを開けた。そこには、この孤児院を支援してくれているブランソン伯爵家の次男、ケネスがいた。

よく見えないが、彼は子供たちに怒っていて、それを護衛騎士がなだめている様だ。

「なんでケネスのやつがいるんだ?今日は訪問日か?」
「何も聞いてないけど…エルマー神官もいないし。」

僕たちは一度ドアを閉めて2人で話した。だがこのまま放っておくわけにもいかないだろう。

「はぁ、嫌だけど俺が話を聞いてくるか。カインはエルマー神官を探してきてくれ。」
「ノエルは大丈夫なの?」
「それなりにご機嫌取りはできるから大丈夫だろ。それに、お前は結構態度に出るから任せられない。」
「それはそうだけど…気をつけてね。」

そして僕たちはそこで別れることにした。

彼がノックをして中へと入っていくと姿を見送り、僕は急いでエルマー神官を探しに行った。

だが執務室や礼拝堂を覗いても彼の姿は見当たらない。全く本当に使えない神官だ。

僕は彼を探すのを諦めて渋々ノエルの元へ戻ることにした。

「失礼します。」

僕がそう言って中へ入るとノエルがケネスに平謝りしていた。他の子供たちは部屋の隅の方で固まっている。

視線だけでエルマー神官は、と問うてくるノエルに僕はゆっくりと首を振った。

「ああ、もう1人年長のやつがいたんだったか。名前はなんと言う?」
「カインと申します。」
「そうか、孤児とはいえ、年長者ならもう少し年下の者をし躾けろよ。」

僕は状況が分からず頭に疑問符を浮かべる。ノエルが気まずそうな視線を送ってくるが、この場で話すことは許されそうにない。

「はあ、申し訳ありません。」

僕はよく分からないまま気持ちのこもらない返事をする。するとケネスはピクっと眉を動かして不機嫌そうな表情だ。

「ふん、まあいい。お前は茶でも淹れてくれ。今日は挨拶のつもりだったからな、少し休憩して帰る。」

突然来て茶を淹れろとは…と横柄な態度に腹が立ちつつ、言われた通り用意をする。

「こちらをどうぞ。」

そう言ってケネスにお茶を出したが、彼は一口飲んで「まずい。」とカップを床に落とした。この院では貴重なガラス製のカップだと言うのに。

「こんな茶しか淹れられないのか。」

その言いように腹が立った僕は彼を冷たく睨み返した。

「恐れながら、ここは孤児院です。貴方様の様な方が好まれる茶はないかと。」
「なっ!お前、さっきから礼儀がなってないな。ここの経営は我がブランソン家の支援で成り立っていると言うのになんだその態度は。」
「申し訳ありません。礼儀など習っていないもので。」

一言一言に棘を含ませれば、ケネスは眉間に青筋を浮かべた。

「お、おいカイン…すいませんケネス様。彼含め子供たちには俺から言っておきますので…」

僕とケネスの間に流れる不穏な空気に慌ててノエルが割って入った。

「ふん、話がわかるのはお前だけか。今までは私の父たるブランソン伯爵がここの管理を行っていたが、今日からは私が引き継いだのだ。今後はくれぐれも私の機嫌を損ねるなよ。」
「はい、分かりました。」

そう言ってノエルは頭を下げる。こんなやつに傅かなくてはいけないくらいなら、さっさとこの院を出て行きたいくらいだ。

僕はそう思ってケネスを見た。すると目があった彼は嫌な笑みを浮かべた。

「小さい子供ならまだしも、お前の年齢なら少しは礼儀を知っていてもよさそうなものだが?可哀想に、誰も教えてくれる大人がいなかったのだな。」

そう言ってケネスは嫌らしい笑みを浮かべた。そして何やら呪文を唱えると、近くに置いてあった掃除途中のバケツが飛んできて僕の頭の上でひっくり返った。

「カイン!」

中の水がかかる寸前、ノエルが僕に覆いかぶさる。結局、僕たちは2人で水浸しになってしまった。

「はは、悪い。あんまり意味なかったな。」
「ノエル…」

「チッ、このいけすかないやつを躾けてやろうと思ったのに。」

ケネスはつまらなそうに僕たちを見て、悪態をつきながら出て行った。護衛の人が申し訳なさそうに礼をして後をついていく。


「あいつ、こんなところで魔法を使うなんて。」

僕は彼が見えなくなったのを確認して言葉を吐く。貴族は魔法を使える人間が多く、逆に魔法が使えるという理由で貴族の養子になるケースもある。それくらい魔法というものが重視されていた。

「ああ、でもこの程度で済んでよかったよ。部屋に入った時は怒り心頭だったからさ。」
「何があったんだ?」
「いや、突然やってきて挨拶したものの、あの態度を子供たちが受け入れられず反発したらしい。わざわざ来たのに帰れと言われて怒ってたんだ。」
「そんなの自業自得じゃん…」
「まあ貴族なんてそんなもんだろ。っと…これはチビどもにはもうやれないな。」

そう言ってノエルは自分のポケットに入れていた包みを取り出した。それは先ほど買った飴玉だ。一つ一つビニールが巻いてあるとはいえ、紙袋の中身はビショビショに濡れてしまっていた。

「洗えば大丈夫だよ。」
「でも…ただの水ならまだしも結構汚いぞ?」
「うーん…」

せっかく子供たちを喜ばせようと買ってきたのに、と肩を落とすノエルが気の毒になって僕は袋の中身を見てみる。確かに幼い子に食べさせるのは不安か。

そう思って1つを口に入れた。

「なっ!お前…」
「ん、おいしい。」
「馬鹿!せめて洗ってからに…」
「子供たちにあげるのが不安なら僕たちで食べちゃおうよ?」

僕がそういうとノエルは目をぱちくりさせた。

「ははっ、まあそれもそうだな。後で洗ってくるよ。そしたらこれは俺とお前で食べよう。」
「うん。」

笑ったノエルを見て、いくらか元気が戻ったと安心する。

「ほら、飴の前に僕たちも体を洗いにいこう。ドロドロして気持ち悪いよ。」
「そうだな。水浴びにいこう。」

そして僕たちはお互いの姿を笑いながら水浴びへと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!

キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!? あらすじ 「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」 前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。 今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。 お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。 顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……? 「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」 「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」 スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!? しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。 【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】 「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...