【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう

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ディニス編

11(ソロンSide)

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誤字報告ありがとうございました!修正させていただきました。

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まずいことになった。

ディニス様が直接ウェスに会いに行くと言い出したのだ。
物理的に引き離せば、いずれウェスへの興味を無くなると思っていたのに…

今ディニス様が彼に会いに行けば、私が一度もウェスの様子を見に行ってなどいないことがバレてしまう。

それに、ウェスが城を出る日、私は彼を治療したのは自分だと嘘をついた。
ディニス様が今までのことを全て話すなら、その話にも触れられてしまうかもしれない。

彼らが会うまでになんとかしなければ…

まあでも、幸いあと1週間ある。
私は、2人の逢瀬を阻止するために思考を巡らせた。

あの感じだと、ディニス様の方を止めるのは無理だろう。だから、働きかけるとしたらウェスの方だ。

そこまで考えて、私は良いことを思いついた。

(ウェスが今でもディニス様を慕っているなら…)

それを実行する、いや、実際させるには一刻も早くウェスに会いに行かなくては。そして私は直ぐに彼を訪ねた。


ーーー

街の隅にある小さな家、そこがウェスの家だった。
そのこじんまりした佇まいの家に、こういう場所こそがお似合いだ、と内心嘲笑う。

そして、ノックをすると彼が顔を覗かせた。

「やあウェス。元気…ではなさそうだね」

久々に会ったウェスは、城にいた頃よりやつれて見えた。あんな環境でさえ元気だった彼が落ち込んでいるのは不思議な感じだ。

「ソロン様、なぜこんなところに?」
「君のことが気になってね」

ディニス様のあの発言がなければ会いにくる気などなかったが…ディニス様の信用を勝ち取るためにも彼の前では優しい人物でなければならない。

「なかなかいい家じゃないか。その後落ち着いたかい?」
「はあ…そうですね…のんびりさせてもらっています」

ウェスは私を中へ入れながら気持ちの篭らない返事をした。
そして、気まずそうにおずおずと口を開いた。

「その、ディニス様は…お元気ですか?何か、俺のことを話したりは…」

こいつはまだディニス様のことを慕っているのか。
あんなに冷たくされたというのに本当にめでたい頭だ。
私はそう思いつつそんな考えが顔に出ないよう細心の注意を払う。

「ああ、ディニス様は…今は忙しくされていてね。君については特に…」
「そう、ですか…」

ディニス様は口を開けば「ウェスは元気だったか?」とか「街では虐められたりしてないだろうか?」と彼のことばかりだが、そんなことを教えてやる義理はない。

そして傷ついたような表情を見せるウェスに満足する。

「あー…気を落とさないでくれ。魔王軍の情勢が良くなくてね。ディニス様も大変なんだ」

そして、私は本題を切り出した。

「それは、どういう…」

案の定食いついてくれたウェスに笑見が溢れそうになるのを堪える。

「ディニス様が出陣せざるを得ない状況が近づいている。それに、勇者たちは力を増していてディニス様でも勝てるかどうか…」
「そ、そんな…ディニス様が負けるはずありません」

その反応も想定済みだ。
私は大袈裟に溜め息を吐いてみせた。

「私もそう信じたいが、相手も強いからね。まあでも、ディニス様を信じるしかないな」

そして、悩み込んだウェスの反応を観察しつつもう一息だと少し煽ってみる。

「すまない、こんな話を君にしたところで仕方がないのに」
「いえ…」

今私に見下されたことが分かったのだろう。彼はわずかに顔を顰めた。昔ならこの皮肉にも気づかなかっただろうが、確かに成長はしているようだ。

「それで、勇者一行は今どの辺りに?」
「ああ、まもなくベルケンシュトック領に入るよ」
「そんなところまで進行してきて…」

興味を持ち始めた彼に勇者たちの情報を伝えてやる。本当は城にいる者のみが知る機密だが、彼に行動を起こさせるためにも正確な情報を伝えておく必要がある。

「こんな話をするために来たわけじゃなかったのだが、すまないね…暗くしてしまって。君は気にせず穏やかに暮らしてくれ。きっとディニス様もそれを望んでいる」
「いえ。ありがとう、ございます」

そして最後にディニス様の話をして私は彼の家を後にした。


その後の数日間、私はウェスのことを見張っていた。
今になってディニス様の言いつけを守ることになるなんて皮肉なことだ。

そして、彼が行動を起こそうとしている様子に満足した。もし何も行動しそうになかったり諦めてしまいそうだったら発破をかけるつもりだったが、その必要はなさそうだ。

私は彼が勇者と再びぶつかるように、さりげなく必要な情報が届くようにした。
加えて、あまりに実力差があるとウェスが途中で諦めてしまうかもしれないので、様々な戦法や禁術の本をこっそり彼が手に取れるよう計らった。

まあ、彼に限っては負けると分かっていても突っ込んでいきそうではあるが…


そして、我ながら万全とも言える準備をさせた私は当日も彼の戦いを見守っていた。

…まさか勝利するとは夢にも思わなかったが。


彼が生き残るのは想定外だったが、禁術にも手を出したウェスは虫の息だ。それならば…
 

「やった…!やったぞ、俺が勇者一行を倒し…」

私は歓喜に震えるウェスに向かって魔法を放った。

「え…?」

彼は何が起きたのかわからないという顔をして地面に倒れ込む。今の攻撃では死ななかったか。 
とは言ってももう助かりはしないだろうが。

「まさか本当に勇者一行を倒すとは。やりますね、ウェス」
「な、んで…ソロン様が俺を…」

最後の戯れに彼に話しかける。

「馬鹿なウェス。今の一撃で死んでおけばまだ幸せだったものを」

やっと目障りな存在がこの世から消える。その喜びで思わず笑顔が浮かぶ。自分の掌の上で操られているとも知らずここまで報われない努力をしてみせた彼が滑稽だった。

「私があんな話をすれば君はもう一度勇者たちに戦いを挑むと思っていました。まあ、勝つとは夢にも思いませんでしたが…これはこれで行幸です」

そうだ、彼が死んだ理由は適当に作ってこの功績は私がいただいてしまおう。そう思いついて私は彼の羽を力一杯踏みつけた。

「ぐっ!何を…」

痛みに顔を歪めるウェスに嗜虐心が満たされていく。

「これで魔王城には戻れませんね。まあ、戻る間もなく息絶えそうですが…念には念を入れておかないと。では、私はディニス様にと報告に行かないといけませんので」

トドメをしっかり刺していこうかとも思ったが、私に手柄を奪われディニス様に知られることなく死んでいく彼の思うと、その苦悩をじっくり味合わせたくなった。

ディニス様は、ウェスが死んだと知ったらショックは受けるだろう。だが死んだ相手のことを毎日気にかけることは無いはずだ。

私はこの結末に満足して転移の魔法を唱えた。




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