追放系治癒術師は今日も無能

リラックス@ピロー

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グレアム

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その子供を助けたのは偶然だった。冒険者として仕事をこなしたまでだ。

その証拠に他の村で魔物を片付けた時だって、決まった金額がギルドに支払われ礼の言葉も程々に村を追い出された。
向こうは金を払い、俺たち冒険者は仕事を受ける。それ以上でも以下でも無い。

にも関わらずエディとイーノックは、俺を特別な存在であるかのように、輝いた目でこちらを見てきた。ただその視線を向けられる事にほんの少しの気まずさを感じたのは、中堅冒険者として経験を積んできた己が程々に擦れてしまっていたからに他ならない。
これが新人冒険者であったなら、憧れを含んだ眩しい目の輝きにむしろ気分を大きくさせ調子に乗らせたのだろうが。

そんな新鮮な感情も二十代を半ばに迎える頃には既に形を潜めていた。三十を間近に控えた当時の俺では、冒険者としての仕事に対しやりがい以上にどこか作業的な気持ちで挑んでいたのは否定出来ないだろう。
だからこそその後件の二人が、俺みたいな人間に憧れた為に冒険者を目指したと耳にした時、俺は少なくない罪悪感を抱いた。

一言に冒険者と言えど、成功できるのは一部の人間だけ。大多数はBランク止まりで、それでも成功した部類に分けられるのだろう。
エディと出会った時の俺のランクはC。年齢を鑑みれば十分成功していると言えるだろう。

イーノックはまだ見所があった。内側に秘めた魔力量や、彼の家族を見た時の筋肉のつき方、遺伝。恐らく優秀な冒険者として育つだろう。

問題はエディの方だった。記憶力は良く、勉強は出来るようだった。幼いながらも会話の端々から知性を感じさせた。ただ冒険者となるには壊滅的に向いていないと一目で分かった。
細い骨に、手足の大きさから将来も大柄には育たないだろう。顔立ちもよく言えば整ってはいるが、強面の男たちの中に混じれば舐められ足元を見られるタイプだ。搾取されて終わる未来しか想像出来なかった。

そしてその予感が当たっていたのだと理解するまでそう時間は掛からなかった。

自分の仕事をこなしながら時々パーティの様子を見ていたが、イーノックが冒険者らしく育っていく中、エディは相変わらず子供のような体格だった。身長は平均より低くとも順調に伸びてはいたようだが、やはり細くどこか頼りない。愛らしかった顔立ちも年齢を重ねるごとに、儚さの中に色気を宿すようになった。
その所為で負わなくて良い苦労をしている事が多く、イーノックは暫し気を揉んでいるようだった。

一番記憶に残っている出来事は、彼らが18の齢を迎えた時の事。

表立って名乗ってはいないが、貴族による依頼を受けた時の事。
貴族が閨で好んで使う媚薬の材料を納品した時の事だ。スプーン一杯分程度の少量なら滋養に良い薬草だが、量を誤ると効果の強い媚薬となる。

直接会って納品してほしいと言われた貴族の言を、ギルド側は受け入れるしかなかった。そうしてまだパーティメンバーが二人だった頃、イーノックとエディは直接その貴族に薬草を渡した。
その時に出された茶の中に、同じ薬が入れられている事も知らずに。

本来ならギルドを出た後エディを拐う手筈だったのだろう。俺がそれを阻止しなければ。
その貴族が用意したゴロツキを俺が全員のした事でその計画はパアになった訳だが。

問題はその後。
媚薬に侵された二人が宿に戻った後、どうなったかなんて想像に難くない。
ただ予想外だったのは、エディの身体が思いの外薬物に耐性が無かった事だ。
本来なら媚薬となるそれを異物と判断し、性的興奮を高める異常に身体が異常を判断した。つまりは風邪のような症状を引き起こし高熱を出したのだ。

体調不良に喘ぐ幼馴染の姿に心を痛めたのは、激しい性衝動に襲われながら理性を保ったイーノックの方だった。
これが二人とも媚薬の効果を全うに受けていたなら、今頃二人は恋人同士にでもなっていたに違いない。

一晩寝込んだ後、エディはけろっとしていた。薬を盛られた事さえ気付いていなかったのだろう。
だからこそ危機感を覚えたのは、イーノックだけだった。
宿から出てきた二人の姿を見て、俺は悟った。この時からイーノックはエディに冒険者を止めされるつもりだったのだろうと。

その後急にパーティメンバーを増やし陣形を整え出したのも、エディをパーティから追放する言い訳を作る為だったのだと。イーノックが態々追放と言う形を取った理由は想像に難くない。
このままなし崩しに冒険者を続けていれば今後同じような事は何度だって起こっただろう。その時権力に抗える程、冒険者の立場は強くない。
単純にイーノックだけが冒険者を諦めると言えば、エディは己だけで冒険者を続ける可能性があった。

だからこその追放。
お前は無能だからパーティの為に身を引けと、心にも無い言葉でエディを切り捨てた。

幼馴染が大切だからこそ、イーノックはその選択肢を選んだ。
本当ならもっと纏まった金を渡してやりたかったのだろうが、パーティに軋轢を生まず、エディが納得する金額のギリギリがあのラインだったのだろう。

本当なら、捨てたく無かった筈だ。



それでも。
一度手を放したのなら、今度は俺がもらい受けても問題無いだろう。

エディは再会したのが偶然だと思っているようだが、そんな都合の良い話がある訳ない。冒険者として働いていれば、見た目が目立つ二人組の話は聞かずとも耳にする機会はあった。イーノックだって十分煌びやかな見た目だし、受付嬢なんかには冒険者に珍しい爽やかな外見が良く話題に上がっていた。エディは言わずもがな。

あの日だって、森で魔物を狩るついでにパーティの様子を見に行った。そうしたら、いつかそうなるだろうと思っていたが、エディがパーティから追放されていたのだ。
森の中を泣きながら歩くエディの姿は見ていて痛々しく、直ぐに抱きしめてあげたくなる程だった。
そうしなかったのは、ひとえに俺の忍耐力の賜物だ。

そうしてエディの暮らしが普通の平民らしく落ち着いた頃、偶然を装い近付く予定だった。食事処で働くならその常連になって、徐々に距離を詰める予定だった。

そうも言っていられなくなったのは、明らかに怪しい男にほいほいついて行こうとしたからだ。思わず声を掛けたが、あの時の判断は正解だったと思う。仕事で怪我をした時世話になっていたじじいが人手を必要としていたのは偶々だったが、治癒術師をしていたエディにとってそれも都合が良かった。
人の助けになる仕事が好きなのだろう。どんな雑用も文句を言わず懸命に働いていた。元来人嫌いのじじいも、エディの事は気に入っているようだったし。エディもあの頑固じじいに良く合わせていると思う。


仕事にも慣れ漸く地に足ついてきた頃に、事件は起こった。前の職場で厄介な感情を抱いた迷惑客がエディを探し出し、あろう事か手を出しやがった。
俺が何年見守ってきたと思ってるんだ。そんな宝物のような存在に、汚い手で触れるなんて言語道断。視界に入る事さえ悍ましい。

奴はしっかり然るべき場所で罪を償ってもらう。

ただ怪我の功名とでも言うべきか、決して感謝はしたくないがそれがきっかけでエディと恋人になる事が出来た。
柔らかな唇を味わい、その奥の唾液の味まで知り尽くし、素肌に触れる許可を与えられた。締め付けられ必要だと身体全体で求められる喜びを知った。

呂律の回らない舌で名を呼ばれ、愛の言葉を惜しまず与えられる事はまるで天に召されるかの如く甘美なものだった。
エディが初めてだと知りながら明け方まで抱き潰したのも仕方ない事だったと言えるだろう。ありとあらゆる体液に塗れながら気絶した姿は壮絶に美しく淫靡で、それこそ誰にも見られないよう隠してしまいたい衝動にかられる程に。

それでもエディは一人の人間だ。そんな事をすれば悲しむだろうし、何より俺は彼の笑顔が好きだった。
こちらが眩しくなるほどの輝きを宿した目に、じっと見つめられると胸が苦しくなるほど締め付けられる。愛しいと言う感情を、これでもかというくらいに理解させられた。

本当はあの事件の時、ポーションを飲ませたじじいはすぐに目を覚ましていたし、敢えて寝ているふりをしてくれていた事には感謝している。あの時じじいが目を覚ましたなら、エディは間違いなくそちらを優先していたに違いない。

そのお礼を翌日言えば、じじいには惚けられたが。まったくあのじじいも素直じゃない。そのお陰でエディは恥じらう事なく診療所で今まで通り働く事が出来ているわけだが。


何が言いたいかと言うと、エディは幸せだし、俺はもっと幸せだと言う事だ。
冒険者の治癒術師としては無能でも、エディは診療所で十分じじいの助けをしてくれている。
出来る事を自分に合った場所でやる事、それに尽きるのだろう。

まあ、例えエディが働かなくても、その時は今度こそ誰にも見られないよう大切に閉じ込めるだけなんだが。
そんな未来が訪れても良いように、俺はエディに知られないよう準備をするだけだ。
エディの笑顔を曇らせない事こそ俺の望みなのだから。

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