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うなじのかみ傷★

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 グレンも自らのシャツを荒々しくはだけてゆく。あっという間に胸に吸いつかれた。

「あ。グレン……っ」

 すでに期待で尖っている先端を啄まれ、甘い痺れに酔いそうになる。時折軽く噛まれるたびに、ビクンと体が跳ねてしまう。

「感じているのか、シリル」

 シリルの反応を見たグレンが嬉しそうな声を出す。もっと喜ばせてやろうと思ってか反対側の乳首も摘ままれ、恥ずかしさにいたたまれなくなって顔を隠した。

「隠すな。お前の悦ぶ顔が見えなくなる」

 手を払われ、唇をふさがれながらも両手で乳首を捏ねられて、一体これはなんの拷問だろうかと思えてしまう。

「結婚するなら、俺に全部見せてくれ。恥ずかしがっていては分からない。昼間お前も言っていただろう」

(たしかに言ったけど……っ)

 考えていることとしとねのことは違うのではないかと思っていると、グレンは胸への刺激を強めた。サリサリとしたざらつきのある舌に舐められると頭に血が上ってしまい、しっかりものが考えられなくなる。

「ふぁ。あ……っ」

 耐えきれず、シリルはグレンの頭を掻き抱いた。フワフワとした獣毛が心地いい。後頭部の毛並みを愛おしむように撫でると、グレンはグルル……と満足そうに喉を鳴らしていた。

「次はどこがいいんだ?」
「ここ。ここも……っ」

 白銀の獣毛に覆われた掌を股間に導く。目を合わせられないほどの羞恥を覚えたが仕方ない。夫夫ふうふというものは、たとえ閨事でも隠しごとはしてはいけないらしいから。

「シリルは素直だな」

 クッと喉元で笑うグレンの手が、彼のものとシリルのものを合わせる。ふれ合わせられて分かったが、グレンの性器はこれ以上ないほど硬く反り返っていて、まだ半勃ちの己のものが恥ずかしくなるほど立派だった。そんなシリルの気持ちを読み取ったのか、グレンが「お前だって、擦ればすぐに硬くなる」と囁く。そうしてまた胸をいじられながら力強く掌で愛撫されると、また意識が飛んでしまいそうになった。

(グレンのあそこの根元……。ノットっていうんだっけ)

 性器の根元にある瘤状の固まりが睾丸にあたるたび、子作りするときにはここに子種を蓄え長い射精をするのだと意識してしまう。シリルのようなオメガにはない、アルファだけの器官だ。おまけに、グレンは猫科の身体的特徴を持っているから、性交時にはシリルの腸壁に棘状の針を刺して抜けないようにする。

(今度僕が発情した時、きっとグレンの子を孕むんだろうな)

 性器を擦る手が早くなってゆく。恐れにも似た期待で股間が反応し、シリルは最初の高みを迎えた。

「はぁ、は……っ」

 すっかり息が上がってしまい、仰向けに寝転がると、グレンはなんでもないことのように足のあいだに顔を埋めた。

「え!? やだっ」
「やだじゃない。次はここだろう」
「でも、今までこんなことしたことないのに」
「言っただろう、お前の悦ぶ顔が見たいと。オメガの男なら、だれでもここで気持ちよくなれるはずだ」

 閉じようとする脚を押さえつけられ、抵抗が不可能だと悟った。シリルの直腸からは、子宮より分泌される液体が流れ出ているのだ。シリルの足を開かせたグレンが、ペチャペチャと音を立ててそれを丹念に舐め取ってゆく。
 ずくん、と体の奥が軋んだ。内腿に分泌液がトロトロと滴ってゆく。グレンの毛並みが腿にふれ、くすぐったいけれどゾクゾクした。

「あ……」

 腿に食い込んだグレンの爪にすら感じて、鳥肌が立つ。グレンを抱きしめたいのに彼は遙か下にいて、もどかしい。
 ふいに充分に潤った直腸内に、指を差し入れられた。長い指をあっさりと受け入れる自分が淫らだと言われているようで、火が点いたように顔が熱くなった。
 そんなことに頓着しない男の指がコリコリ、と前立腺の裏を刺激し、ふたたび胸を啄むように舐めはじめる。長い腕を伸ばし、胸と後孔を同時に攻めてくる。胸からは甘い疼痛を、後孔からはやめて欲しいような、もっとして欲しいような快楽に苛まれる。

「あぁ、グレン。グレン……っ」

 前立腺を刺激され、胸の先端を吸い上げられるたびに、どこか遠いところへ連れて行かれるような錯覚を覚えた。たまらず首に腕を廻し、彼を抱き寄せる。温かな毛皮のぬくもりが心地いい。体を密着させていると、グレンの屹立が太腿にあたった。それは体内に受け入れるには怖ろしいくらいに大きくなっていた。

(さっきから僕ばかり気持ちよくなってる。グレンだって挿入したいだろうに)

「グレン、もう我慢しないで。僕の中に挿入はいって」
「シリル。だけどお前はまだ……」
「いいんだ、もう充分気持ちよかったから。挿入れて、うなじを噛んで。……来て」
「分かった。噛むには後背位になってもらわないといけない」
「うん」

 尻を突き出すようにして四つ這いになると同時に、分厚い胸板が背中に押しつけられた。

(グレンの上半身、背中で感じるとまた違う……)

 考えているあいだに乳首を背後からキュウッと摘ままれ、直腸の奥に響いてしまう。ドッと体液が後孔から漏れた。

「あ、またなにか出た……」
「今度は舐めてやれない。お前の中に挿入はいる貴重な潤滑油だからな」

 すっかり猛りきったものを後ろに充てられた。今からあの大きなものを受け入れるのだ。直腸奥から出たぬめりを借り、グレンが体内に挿入ってくる。

「うぁ……っ」

 グレンはもともと大きい成りだが、膨張した性器に体を裂かれるような錯覚を初めて感じた。体の大きな番を持つとこんな苦労もあるんだと、文字通り痛感した。

「痛いのか、シリル」
「少しだけだよ。慣れてきたらきっと大丈夫だから、動いてっ」
「シリル……」

 いたわるように耳元に口付けが振ってきて、この人は相変わらずなんて優しいんだろうと涙ぐみそうになる。続いて腰を揺さ振られ、はじめ痛かった場所が違和感に変わってゆく。腸内でグレンの性器が擦れるたびに、その違和感が悦楽というものに変化してゆくのを体で覚えた。知らぬうちに、グレンの律動に合わせ腰を揺らす自分がいる。

「気持ちいい。いいよ、グレンっ」
「愛している、シリル。俺は生涯かけてお前を守る」

 その言葉のあと、プチリとうなじの皮膚が破れる音がした。


「ん……」

 覚醒したときに派手な花の壁紙が目に入り、一瞬知らない女の人の家に来てしまったのかと勘違いした。朝陽がカーテンから透けて届き、小鳥たちのさえずりが爽やかに響く。うなじに走った痛みに手をやると、すでに包帯を巻かれていることに気が付いた。

(そっか。僕、ゆうべグレンと……)

 昨夜のことを思い出すと、いつもより大胆に振る舞った記憶しかなくて、思わず上掛けを頭から被ってしまった。

「シリル、宿の者に言えば湯をもらえるそうだが。……起きたんじゃないのか?」

 浴室と思しき部屋から、グレンが顔を見せる。

「起きてる……」

 顔を見せようと上掛けから頭を出すと、グレンが上半身裸でやってきた。
 獣毛に覆われた立派な胸筋が目に飛び込んで来ると同時に、昨日背中であの胸を感じたことを思い出して照れてしまう。

「ちゃ、ちゃんと服着てよ!」
「寝間着のサイズが小さかったんだ。しばらくこの格好でいる。首の痛みはどうだ、ひどくないか?」

 寝台に腰掛けたグレンが、横になったままのシリルを覗き込んでくる。心配そうな薄水色の瞳と目が合って、負担をかけているというのになぜか嬉しくなってしまった。

「大丈夫、そんなに痛くないよ。僕の我が儘聞いてくれてありがとう、グレン」

 湿った鼻先におはようのつもりでキスをする。グレンが楽しいときや嬉しいときに鳴らす喉音が聞こえてきた。そのまま、幼い頃のように寝転がったままじゃれ合い、クスクスと笑い合う。

「家に帰ろう、シリル。父さんと母さんに、これからのことを話そう」



「おかえりなさいシリル君、グレン。夏至祭は楽しかった?」
「楽しかったよ。黙って泊まってきちゃってごめんなさい」
「いいのよ。でも、今度からは連絡してね」

 昼近い帰りになったことを、両親は咎めなかった。穏やかに微笑んで接してくれる。暗黙の了解をしてくれるのは嬉しいが、二人揃っての朝帰りは気恥ずかしくて仕方ない。だが、その黙認も首元の真新しい包帯を見られるまでだった。

「シリル君、その怪我……! グレン、まさか無理やりじゃないでしょうね?」
「無理やりってなんだ」

 キッ、とグレンを睨んだ黒豹の母を見て、やはり心配をかけてしまったのだと心が痛んだ。

「違うんだ母さん、僕が頼んだんだ。今はまだ発情期じゃないから、噛んでも意味がないって分かっていたけど、そうして欲しくて……」

 二人のあいだに割って入ると、仁王立ちになっていた母がフンッと鼻息を吐いた。

「そう。だったらいいわと言いたいけれど、あなたたちのことだから、きちんと消毒してないでしょう。ちゃんと母さんに傷を見せて、治療させて。そうしたら、黙って帰って来なかったことも含めて許してあげる」
「母さん……」
「シリル、いい機会だ。今俺が言う。父さん、母さん。俺とシリルは近いうちに結婚する。職場に通いやすいように、領主様の屋敷の近くに家を建てるつもりだ」

 グレンが四人の真ん中で宣言すると、父母は同時に喋りはじめた。

「本当か、グレン? この家を出て行ってしまうのか」
「シリル君、嘘よね? ずっとここにいるわよね?」

 父に尋ねられ、母に手を握られてうろたえるが、グレンを覗うと「ちゃんとしろ」とでも言うような視線を寄越され、背筋を伸ばした。

「本当だよ。だって僕たち、もうとっくに大人なんだ。これから家族も増えるだろうし……」

 子作りのための新居だとはとても言えなくて、ごにょごにょと語尾を濁す。大柄な黒豹の母は一瞬虚きょを突かれたように「家族……」と呟き、父のほうに向き直った。

「父さん、男の子ってあっさりしてるのね。大事に育てた息子二人がいっぺんに旅立ってしまうなんて、めでたいことだけどさみしいわ」
「しかし、結婚するなら、家を出ることも祝うべきなのかもしれんな」

 夫婦二人にしか分からないことを言い始め、シリルとグレンは顔を見合わせた。

「でも、ちょっと待って。二人の子供が見られると思うと、少しでも早く本当の番同士になってほしいと考えてしまうわ。一体どうしたらいいかしら」

 いつも冷静な彼女らしくなく、夢見るように頬に手を添えた母が、想像の世界に羽ばたいてゆく。その横をグレンが通りすぎる。

「じゃあ、俺はこれで。描きかけの絵があったのを思い出した」

「僕も」と言いかけたが、肩をむんずと掴まれた。

「……シリル君、あなたは待ちなさい。噛み傷はきちんと消毒しないとね」
「母さん……」

 その後は母の独壇場だった。孫は三人欲しいとか、もし四人目が生まれたら遺伝の法則で黒豹が出来るとかという想像図を、治療が終わったあとも聞く羽目になってしまった。居間の椅子で仕方なく聞いている父をちらりと横目で見ても、励まされるように頷かれ、これが無断外泊の報いなのだと愛想笑いで凌ぐしかなかった。

「そうそう、これも聞いておかなくちゃ。シリル君は子供は何人欲しいの?」
「ふ、ふたりくらいだけど。もう、勘弁してよ母さん!」

 くだらない話に付き合いつつ、生ぬるい安泰がこの家にいつまでもありますように、と心の隅で願う自分がいた。
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