王女殿下の婚約破棄事件〜幼馴染のために少女は頑張る〜

ルーシャオ

文字の大きさ
4 / 10

第四話

しおりを挟む
「面白そうね」
「言うと思ったぜ、相棒」

 ミルッカの気持ちも知らず、アルマスは嬉しそうです。もしアルマスがエリヴィラ王女と婚約できれば、苦労はしてもきっとバラ色の未来があるに違いない、そう思えばこそ——。

 ミルッカはさりげなく、アルマスに尋ねます。

「でも、意外ね。アルマスが王女様と結婚したいなんて、年齢も十歳は離れているのに」

 すると、アルマスはちょっとバツが悪そうに目を逸らし、頭を掻きました。

「と、とにかく、俺だってただの好奇心や権力欲なんかで結婚したいわけじゃない。理由は、あとで話すよ」
「分かった。アルマスが私を頼るなんて滅多にないもの、新鮮だわ」
「だろ?」
「じゃあ、さっそく作りましょう。その前に、一度専門書でちゃんと薬効を調べてレシピを作っておくから、また明日来てくれる?」
「おう! ありがとな、ミルッカ!」
「いいえ、どういたしまして」

 このときすでにミルッカはどんなものを作るか、おおよそ構想はできていました。急いで作れば明日には間に合うはず、そう頭の中で算盤を弾き、今日の予定を組んでいきます。

 無邪気に笑うアルマスを、ミルッカは玄関先の門まで送っていきます。その途中でおばさんメイドと合流し、手に紙の包みを持っているおばさんメイドはアルマスへそれを押しつけます。

「おや、もう帰るのかい? じゃあサンドイッチを持っていきな」
「うん、ありがとう!」
「お勉強を頑張るんだよ。あんたは下町の希望なんだからね」
「分かってるって! じゃあな!」

 ミルッカとおばさんメイドは門の前で手を振り、サンドイッチを古ぼけた郵便鞄に放り込んで走っていくアルマスを見送りました。

 あの古ぼけたハンチング帽も、古ぼけた郵便鞄も、アルマスの唯一の肉親である母方の祖父が使っていたものです。王立高等学校への入学が許されたとき、アルマスの祖父は家計をやりくりして真新しいスエード靴を買ってくれたのです。古ぼけたお下がりばかりでは孫がかわいそうだ、と長持ちする靴を選び、アルマスはそのちょっと大きすぎるスエード靴を何枚も穴の空いた靴下を履いた上で身につけています。

 おばさんメイドが仕事に戻ったあと、ミルッカは自分の屋敷を見上げます。蔦の生い茂った立派な屋敷です。この国ができたころからトゥルトゥラ家は宮廷医師の家系として続いてきました。身分こそ平民ですが、そこいらの貴族よりずっと家系図は長く、財産もたっぷりあります。

 でも、貴族ではないのです。ミルッカとアルマス、同じ平民なのに、頭のよさだってアルマスはミルッカに負けていないほどなのに、なぜ差があるのでしょう。

 いえ、考えてもどうにもなりません。アルマスのために、できることをしてあげないと。

 収穫した薬草をしまってある倉庫への鍵を取りに、ミルッカは父のカレヴィへ事情を話しに行きます。階段を上る途中、ミルッカは何となく胸がつかえて足を止め、はあ、と気持ちを吐き出します。

「……アルマスって、年上が好きなんだ」

 ——うーん、そればっかりはどうしようもない。

 十三歳のアルマスを、十歳のミルッカが年齢で追い越すことはできません。

 胸にもやもやを抱えて複雑なミルッカは、今できることに集中しようと首を振り、父のいる書斎の扉をノックしました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

これ、ゼミでやったやつだ

くびのほきょう
恋愛
これは、もしかしたら将来悪役令嬢になっていたかもしれない10歳の女の子のお話。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。

ちゅんりー
恋愛
隣国の第一王子・レモンの婚約者であったマーマレード・オレンジは、甘いものしか愛せない王子の心変わりと、甘ったるい声で媚びる令嬢シュガーの計略により、「可愛げのない、苦くて酸っぱい女」として婚約破棄され、国外追放を言い渡される。

処理中です...