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第十四話

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 アルマナがパペチュエリー公爵領へ出立してから一週間後。連絡支援員ルーターのヴィリディアーナから、ミリエットへ緊急の呼び出しの手紙が届いた。

「『霊圏視』の魔女クルアヴィン女伯爵ウルリカから、『魔女集会カヴン』を通じて協力要請が来ているわ。今回は国家機密に関する案件で、例外的にまだ王都へ上っていないあなたにも手助けしてほしいの。できるかぎり速やかに王都へ向かってちょうだい。諸々の手配はこちらでしておくから、心配しないで。王都に着いたらまずヴォクサレナ伯爵邸我が家へ」

 協力の内容こそ不明だが、簡潔に要件を伝えてくる手紙の文章から、どうやらあちらは切迫した事情であることが窺える。ミリエットは目処がついていた先の事件の後始末を父ブライス伯爵へ任せ、単身エスティナ王国王都へ上ることとなった。

 アルマナの向かったパペチュエリー公爵領とは真逆の方角へ、王都はブライス伯爵領から北へ数日ほどかかるが、街道が整備されているため移動の負担は格段に少ない。さして時間もかからず到着するだろうが、問題は到着してからだ。

(緊急の案件……私の『過去視』が必要なことが? アルマナからはそんな話は聞いていないけど、魔女同士の関わることだと予見しきれないのかしら。ちょっと不安ね)

 『過去視』と違い、『未来視』で『視』える未来は絶対というわけではない。アルマナやミリエット自身が違う行動を取れば、如何様にでも変えられるからだ。もしくは、未来の出来事に重要な役目を果たす人物の行動がいちじるしく異なれば、当然だが違う未来になる。

 ひるがえって、未来と違って過去はすでに起きたことであり、もう人の手では変えられないためすべて確定した事柄だ。それゆえに、『過去視』で『視』たものは確定した事実であり、ミリエットの異能は正確無比であるという信頼がある。伯爵領の司法関係者から有り難がられたのはそうした理由からだ。

 何となく不安を覚えつつも、ミリエットはヴィリディアーナが派遣してきた馬車に乗って、一路王都を目指す。






 昼頃に王都に着き、即座にヴォクサレナ伯爵邸に向かい、そのままの足で王城へ。

 ミリエットは慌ただしくヴィリディアーナに連れられて、ただただ広い王城の廊下を歩く。どこもかしこも天井が高く、格調高い調度品にフレスコ画、シャンデリア、どこまでも続く赤絨毯。エスティナ王国の財政は問題ないと言わんばかりの贅沢品ばかりだ。

 その王城の一室に案内され、ミリエットは驚く。

 部屋の奥、カーテンで仕切られた小さなスペースに、誰かが座っている。さらに部屋の右手にもカーテンがあり、数名が待機しているようだった。

 一体全体これはどんな状況なのか、ミリエットが把握しようとする前に、ヴィリディアーナが部屋の奥のカーテンを指して、こう言った。

「ミリエット、あの人物の名前を当てられる?」

 異能を使っていい、という言葉がなくとも、ミリエットはすでに『過去視』を使っていた。

 そこに人がいることさえ分かれば、『過去視』は適用される。その人物は——。

「『視』たかぎり、セリアン様、ですよね?」
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