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第六話 私は新天地で……(下)
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やった、きちんと言えた。んん、こほん。言えました。
引きこもりの私だってできるのです。どうだ、と胸を張りながら私は顔を上げます。
ところが、です。
顔を上げると、すぐ目の前にイオニス様がやってきているではありませんか。
それどころか、私の背中に手を回し、身を屈めて私の頬の隣にイオニス様のお顔がやってきました。これは抱擁? いきなり?
そのまま、私の首筋に冷たく柔らかいものが触れました。もうダメです、私は悲鳴を上げます。
「ひええ!? な、何を」
「じっとしていろ。ただのマーキングだ」
意味不明な単語です。今、マーキングだなんて言葉を使う要素がどこにあるのでしょう。
そこで私は思い出しました。ラッセルからの助言、竜生人は匂いをつけたがる、それに——舐める、とか。
まだその想像はしていません。しかし、まるで身体中の血液が沸騰したかのごとく、噴火のごとく力がほとばしります。
気付けば私は、その力を全力でイオニス様へと叩きつけていたのです。こう、手のひらから、ドーンと。
「いやあ!」
その間、数秒もなかったかもしれません。私の声など掻き消えるほどの轟音が連続し、わけも分からず尻もちを付いていました。
応接間中に粉塵が立ち込め、視界が塞がれています。咳き込みながら、多分前方にいるであろうイオニス様へ平謝りです。
「も、も、申し訳ございません! くすぐったくて!」
だんだん視界が晴れていくと同時に、私は見てしまいました。
夕暮れの空が見えている。ガラス越しではなく、ぽっかり空いた空洞……気のせいでしょうか、砕けた建材の石も見えています。
まずい。どうなったか分からないけれど、非常にまずい事態であることは分かります。
かつて、私が魔法の制御にまだ躍起になっていたころ、大地を干上がらせたり大洪水を起こしたりした悪夢が蘇ります。今の状況、空洞を囲む盛大に欠けた石材、明らかに破壊跡です。
まだ姿が朧げにしか捉えられていないイオニス様の声がして、頭が真っ白で思考なんてぐちゃぐちゃで動けない私を動かしました。
「分かった、もういい。今日は部屋で休め」
これ幸いと私はかつてない早さで立ち上がり、回れ右をして応接間から逃げ出します。
「は、はい! 失礼いたします!」
そこからはまさしく脱兎です、応接間——すでに扉はなくなっていました——から逃げ出し、颯爽と追いついてきたオルトリンデになだめられながら、そのまま自室にと用意された部屋へ飛び込みました。
色々感情が渦巻くものですが、そこはアレです。そう、アンガーマネジメントで気持ちを落ち着け、そして——とりあえずベッドに入りましょう。寝たら何か変わるかも、なんて子供のような希望を持って、私はゴソゴソと布団を被りました。
翌日、とんでもない事実が待ち受けているとも知らずに、安眠したのです。
引きこもりの私だってできるのです。どうだ、と胸を張りながら私は顔を上げます。
ところが、です。
顔を上げると、すぐ目の前にイオニス様がやってきているではありませんか。
それどころか、私の背中に手を回し、身を屈めて私の頬の隣にイオニス様のお顔がやってきました。これは抱擁? いきなり?
そのまま、私の首筋に冷たく柔らかいものが触れました。もうダメです、私は悲鳴を上げます。
「ひええ!? な、何を」
「じっとしていろ。ただのマーキングだ」
意味不明な単語です。今、マーキングだなんて言葉を使う要素がどこにあるのでしょう。
そこで私は思い出しました。ラッセルからの助言、竜生人は匂いをつけたがる、それに——舐める、とか。
まだその想像はしていません。しかし、まるで身体中の血液が沸騰したかのごとく、噴火のごとく力がほとばしります。
気付けば私は、その力を全力でイオニス様へと叩きつけていたのです。こう、手のひらから、ドーンと。
「いやあ!」
その間、数秒もなかったかもしれません。私の声など掻き消えるほどの轟音が連続し、わけも分からず尻もちを付いていました。
応接間中に粉塵が立ち込め、視界が塞がれています。咳き込みながら、多分前方にいるであろうイオニス様へ平謝りです。
「も、も、申し訳ございません! くすぐったくて!」
だんだん視界が晴れていくと同時に、私は見てしまいました。
夕暮れの空が見えている。ガラス越しではなく、ぽっかり空いた空洞……気のせいでしょうか、砕けた建材の石も見えています。
まずい。どうなったか分からないけれど、非常にまずい事態であることは分かります。
かつて、私が魔法の制御にまだ躍起になっていたころ、大地を干上がらせたり大洪水を起こしたりした悪夢が蘇ります。今の状況、空洞を囲む盛大に欠けた石材、明らかに破壊跡です。
まだ姿が朧げにしか捉えられていないイオニス様の声がして、頭が真っ白で思考なんてぐちゃぐちゃで動けない私を動かしました。
「分かった、もういい。今日は部屋で休め」
これ幸いと私はかつてない早さで立ち上がり、回れ右をして応接間から逃げ出します。
「は、はい! 失礼いたします!」
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色々感情が渦巻くものですが、そこはアレです。そう、アンガーマネジメントで気持ちを落ち着け、そして——とりあえずベッドに入りましょう。寝たら何か変わるかも、なんて子供のような希望を持って、私はゴソゴソと布団を被りました。
翌日、とんでもない事実が待ち受けているとも知らずに、安眠したのです。
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