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第八話 欲する学者の憂鬱
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クロードがロロベスキ侯爵領都ゾフィアにやってきて、一週間が過ぎた。
念のため、所属する帝立フローリングス大学へは新学期が始まるまでには戻る、との長期不在の許しを請う手紙を送り、言外にさりげなく「万一新学期までに戻ってこないときは様子を探ってほしい」と分かるよう書いておいた。貴族に関わるとよくある話だ、大学側もその手のことには慣れている。
そもそも、クロードはそこまで長期戦になるとは思っていない。いかに昔の事件とはいえ、ロロベスキ侯爵夫人たるマダム・マーガリーにはどこかで納得してもらいさえすればいいのだ。実際に大から小まで証拠を並べて事件を解決したり、しつこく粘って真相を見つけ出すような仕事ではない。順当に情報収集をしてクロードの経験や医学的見地からの見解を築いていけば、新学期が始まる三ヶ月先までには何とかなるだろう。
そのはずだったのだが、クロードはまずその情報収集で蹴つまずいたのだ。
ロロベスキ侯爵領都ゾフィアは、今日も雨が降っていた。
クロードが普段拠点にしている大学は砂漠に近く、短い雨季と乾季が繰り返され、雨が多少降ろうともあっという間に乾いてしまう。それに比べて、ゾフィアの湿気の多さはクロードから帽子を被る権利を奪ってしまった。ただでさえ毛量の多い癖毛なのに、毎朝どれほどブラシを通してもうねってしまって手がつけられないのだ。
こうなれば、室内にいようが戸外にいようが、湿気の多さは同じだ。少し肌寒いが、ゾフィア内のカフェの多くは大きなガラス窓を天井と壁に使ったテラスを設置しており、しとしとと降りしきる雨音を聞きながらの優雅な朝食が日常的な光景となっている。
クロードもだいぶゾフィアに慣れ、朝食はいつも宿近くのカフェで摂っていた。野菜やキノコ類の栽培、それに肉食が盛んな地域だけあって、新鮮な葉物野菜たっぷりのサラダとキノコ入りクリームスープ、バゲットより大きな輪切りの大型ソーセージが定番のメニューだ。焼きたてパンも無料で追加できるし、食後のコーヒーはプレス式の濃い味をしていてクロード好みだった。
焦げた黒色の味わい深いテーブルと、花柄のクッション付きの椅子で朝食とコーヒーを堪能したのち、カレヴィンスカ学術図書館へ出向いて調べ物をし、適当にゾフィアの街を散策して宿に帰る——というサイクルで暮らしてきたクロードは、つい昨日、マダム・マーガリーへ例の事件の関係者との面会はできないか、と尋ねた。
しかし、アンドーチェを介して返ってきたのは「それは望ましくない。ゾフィアからは出ないでほしい」という答えだった。理由はごく単純、王都やイアムス王国の他の貴族にマダム・マーガリーが未だ『行方不明のクラリッサ嬢』事件にこだわっていると知られたくないこと、それに加えて、クロードの身の安全を確保するためだった。前者はイアムス王国の内情を考えれば公にしないほうがいいだろうし、マダム・マーガリーもロロベスキ侯爵領の外であまり大袈裟な動きをしたくない。もし『行方不明のクラリッサ嬢』事件がこのままそっと闇に葬られてほしい勢力がいるのなら、マダム・マーガリーに協力するクロードは邪魔者でしかないから、どんな目に遭わされるか分かったものではないのだ。
それらはクロードの要求を却下するには至極真っ当な理由で、クロードもすんなり許可がもらえるとは思っていなかった。なので、今もゾフィアから離れず、外国人としてイアムス王国についてカレヴィンスカ学術図書館で知見を深めると同時に、イアムス王国で流通する医学系の学術論文を読み漁っていたのだ。
とはいえ、そろそろ図書館だけでは役者不足となり、新たな情報源がほしくなってきた。
カフェで木製カップのコーヒーを飲みながら、クロードは今日一日の行動をぼんやりと考える。
(ううむ、ひとまず休みでもいいが、正直もう図書館だけでは手詰まりなんだよな。マダム・マーガリーからのお呼ばれもなく、進展はない。それ以前に、手紙や遺品だけで事件の推測を立てるのは、さすがに限界がある)
クロードはただの法医学者だ。だが、当事者たちとは違う視点で事件を観察することも、たまには求められる。
その方向に頭脳を使うこともやぶさかではないし、クロードは暇を見つけては事件についておさらいのように人物や事柄を頭の中で確認していく。
クラリッサという女性は、なぜ行方不明になったか。王城で婚約者のデルバート王子に罵倒され、長年の仕打ちにも耐えかねた結果だとされ、それは今も万人の共通認識と言っていい。その結果をイアムス王国の誰もが悲しみ、探し出そうと躍起になった。
(貞淑な乙女、従順な令嬢、聡明な淑女、何ともまあクラリッサ嬢は完全無欠のご令嬢、そうあらんとしていたんだろうな。デルバート王子以外の誰もが彼女の努力を認め、その能力を信じ、崇拝さえしていた。だからこそ失われた落胆は大きかった、だろうが)
実際のところ、アンドーチェだけでなく当時のことを知る一般市民でさえ、同じようにクラリッサへの愛着と賛辞を惜しまず、国王やヴェルセット公爵家の関係悪化を致し方なしと捉え、デルバート王子へ悪口雑言を吐く。それらの感情が誰かに操作されたせいではないことは、そろそろ信じてもいいだろう。
さて、当事者のうち唯一外国人である、当時のジルヴェイグ大皇国第二皇女キルステンはどうなったか。クロードは耳に挟んだ故郷の情勢から、大体のことは知っている。
(第二皇女キルステンはその後、無事ジルヴェイグ大皇国の国内貴族と結婚。皇位継承権は失われて今やサルタローグ公爵夫人。一男一女を儲けて以降目立った行動はなし。イアムス王国からは大層恨まれる立場だが、彼女のおかげで無能なデルバート王子の失脚が確定したとの見方もある)
ジルヴェイグ大皇国は、新しい皇帝が決まってきっかり十年後、神籤の儀式が行われる。第一位から第二十位までの皇位継承権者が籤を引き、国内の諸領へそれぞれ配置されるのだ。生まれて間もない幼子であっても、足腰の立たない年寄りであってもそれは同じ、辞退はすなわち皇位継承権の放棄と見なされる。
そうして、次の皇帝を決めるそのときまで、与えられた領地の発展に尽くす。高度な自治権を与えられた諸領には、代々その土地に住む貴族たちがひきめき、もし自領の皇位継承権者が次の皇帝になればさまざまな特権が与えられるのだ。だから貴族たちも必死になって自らの戴く皇位継承権者を応援する。将来の利権のために、領土の安泰のために、ときには皇帝の命令よりも優先してしまうほどだ。
だからこそ、第二皇女キルステンの勝手な行動は、ジルヴェイグ大皇国内でも大問題となった。第二皇女キルステンの主張する『クラリッサが反逆者の娘である』という話は、結局のところ、明確な証拠がなかったのだ。それゆえに、その主張はあっさりと否定され——嘘を吐いてまで、まさか外国王族を利用してまで皇帝位を狙うとは、地域の覇権に手を伸ばす大国であるジルヴェイグ大皇国にとっては青天の霹靂だった。それゆえに、第二皇女キルステンは帰国後、相当自身の権力を削がれ、人気は失われ、逆に皇位継承レースから脱落した。彼女にとっては大博打の結果、最悪に近い成果を得てしまったのだった。
誰にとっても得のない結果となってしまった、『行方不明のクラリッサ嬢』事件の背景にある二つの権力闘争は、最終的には欲をかいた者たちが自滅していったとさえ酷評されたものだ。
それに、国王も有望な将来の息子の嫁を失い、ヴェルセット公爵家は義理とはいえ唯一の子どもを失った。クラリッサを尊崇や敬愛の念で見ていた大臣や官僚たちも、これでイアムス王国の改革的進展は道半ばで終わってしまった、とまるで天が墜ちたように嘆き悲しんだという話だ。
もし、クラリッサが今もいれば——誰もがそう思っただろう。今でも、そう思う人々が少なくないのなら、誰もがクラリッサを求めるのならば、『行方不明のクラリッサ嬢』事件を終結へと導くことには一応意味がある。
しかし、なぜ、『事件から十二年後』に、いきなりクラリッサのものと思われる白骨死体が見つかったのだろう?
クロードの勘ではこうだ。
(高度に政治的で、誰もが望まず、誰もが納得しない。そんな類の出来事は、望まれなければ起きないものだ。つまり、誰かが起こそうと思って起きた出来事で、一人か複数人かは知らないが、必ず、影響を及ぼせる力を持った、その時点で生きていた人間の意思が介在している。最悪なのは、複数人にとってこの出来事が別々のベクトルで利益となる、なんてことがあるケースだが……それはもう、そうでないことを神に祈るしかないな)
古今東西、為政者とは、自身の人気を気にするものだ。だから、自身の人気が落ちるような出来事を嫌い、自身の在位中に災害や凶悪事件、特大の醜聞が起きないことを祈る。
ならば、イアムス王国の現国王は、『行方不明のクラリッサ嬢』事件にどこからどこまで関わっているのだろう。イアムス王国の権力者を上から並べて、何人目までが白骨死体の発見に干渉したのだろう。
誰が怪しくて、誰が潔白か、今の段階では論理的な根拠を導き出せない。それは単に根拠を組み立てるだけの情報がないことに由来する。であれば情報収集するしかない、という具合に堂々巡りとなるのだ。
クロードはため息の代わりに、ぼやく。
「ヴェルセット公爵家の話も聞きたいところだが、難しいかな」
それは望み薄だった。マダム・マーガリーがヴェルセット公爵家の縁者であることから、いずれは叶うかもしれないが、何を言ってもなしのつぶてである今の状況では難しそうだ。
カフェのテラスから外を眺めていたクロードだが、ふと、目に入った屋台のようなものを見つけて、思わず腰を上げた。
「これは……」
すると、クロードは慌ててカフェの勘定を済ませて飛び出した。あまりに急ぐものだから、財布の金具に親指を挟んで、情けなく呻く羽目にもなった。
念のため、所属する帝立フローリングス大学へは新学期が始まるまでには戻る、との長期不在の許しを請う手紙を送り、言外にさりげなく「万一新学期までに戻ってこないときは様子を探ってほしい」と分かるよう書いておいた。貴族に関わるとよくある話だ、大学側もその手のことには慣れている。
そもそも、クロードはそこまで長期戦になるとは思っていない。いかに昔の事件とはいえ、ロロベスキ侯爵夫人たるマダム・マーガリーにはどこかで納得してもらいさえすればいいのだ。実際に大から小まで証拠を並べて事件を解決したり、しつこく粘って真相を見つけ出すような仕事ではない。順当に情報収集をしてクロードの経験や医学的見地からの見解を築いていけば、新学期が始まる三ヶ月先までには何とかなるだろう。
そのはずだったのだが、クロードはまずその情報収集で蹴つまずいたのだ。
ロロベスキ侯爵領都ゾフィアは、今日も雨が降っていた。
クロードが普段拠点にしている大学は砂漠に近く、短い雨季と乾季が繰り返され、雨が多少降ろうともあっという間に乾いてしまう。それに比べて、ゾフィアの湿気の多さはクロードから帽子を被る権利を奪ってしまった。ただでさえ毛量の多い癖毛なのに、毎朝どれほどブラシを通してもうねってしまって手がつけられないのだ。
こうなれば、室内にいようが戸外にいようが、湿気の多さは同じだ。少し肌寒いが、ゾフィア内のカフェの多くは大きなガラス窓を天井と壁に使ったテラスを設置しており、しとしとと降りしきる雨音を聞きながらの優雅な朝食が日常的な光景となっている。
クロードもだいぶゾフィアに慣れ、朝食はいつも宿近くのカフェで摂っていた。野菜やキノコ類の栽培、それに肉食が盛んな地域だけあって、新鮮な葉物野菜たっぷりのサラダとキノコ入りクリームスープ、バゲットより大きな輪切りの大型ソーセージが定番のメニューだ。焼きたてパンも無料で追加できるし、食後のコーヒーはプレス式の濃い味をしていてクロード好みだった。
焦げた黒色の味わい深いテーブルと、花柄のクッション付きの椅子で朝食とコーヒーを堪能したのち、カレヴィンスカ学術図書館へ出向いて調べ物をし、適当にゾフィアの街を散策して宿に帰る——というサイクルで暮らしてきたクロードは、つい昨日、マダム・マーガリーへ例の事件の関係者との面会はできないか、と尋ねた。
しかし、アンドーチェを介して返ってきたのは「それは望ましくない。ゾフィアからは出ないでほしい」という答えだった。理由はごく単純、王都やイアムス王国の他の貴族にマダム・マーガリーが未だ『行方不明のクラリッサ嬢』事件にこだわっていると知られたくないこと、それに加えて、クロードの身の安全を確保するためだった。前者はイアムス王国の内情を考えれば公にしないほうがいいだろうし、マダム・マーガリーもロロベスキ侯爵領の外であまり大袈裟な動きをしたくない。もし『行方不明のクラリッサ嬢』事件がこのままそっと闇に葬られてほしい勢力がいるのなら、マダム・マーガリーに協力するクロードは邪魔者でしかないから、どんな目に遭わされるか分かったものではないのだ。
それらはクロードの要求を却下するには至極真っ当な理由で、クロードもすんなり許可がもらえるとは思っていなかった。なので、今もゾフィアから離れず、外国人としてイアムス王国についてカレヴィンスカ学術図書館で知見を深めると同時に、イアムス王国で流通する医学系の学術論文を読み漁っていたのだ。
とはいえ、そろそろ図書館だけでは役者不足となり、新たな情報源がほしくなってきた。
カフェで木製カップのコーヒーを飲みながら、クロードは今日一日の行動をぼんやりと考える。
(ううむ、ひとまず休みでもいいが、正直もう図書館だけでは手詰まりなんだよな。マダム・マーガリーからのお呼ばれもなく、進展はない。それ以前に、手紙や遺品だけで事件の推測を立てるのは、さすがに限界がある)
クロードはただの法医学者だ。だが、当事者たちとは違う視点で事件を観察することも、たまには求められる。
その方向に頭脳を使うこともやぶさかではないし、クロードは暇を見つけては事件についておさらいのように人物や事柄を頭の中で確認していく。
クラリッサという女性は、なぜ行方不明になったか。王城で婚約者のデルバート王子に罵倒され、長年の仕打ちにも耐えかねた結果だとされ、それは今も万人の共通認識と言っていい。その結果をイアムス王国の誰もが悲しみ、探し出そうと躍起になった。
(貞淑な乙女、従順な令嬢、聡明な淑女、何ともまあクラリッサ嬢は完全無欠のご令嬢、そうあらんとしていたんだろうな。デルバート王子以外の誰もが彼女の努力を認め、その能力を信じ、崇拝さえしていた。だからこそ失われた落胆は大きかった、だろうが)
実際のところ、アンドーチェだけでなく当時のことを知る一般市民でさえ、同じようにクラリッサへの愛着と賛辞を惜しまず、国王やヴェルセット公爵家の関係悪化を致し方なしと捉え、デルバート王子へ悪口雑言を吐く。それらの感情が誰かに操作されたせいではないことは、そろそろ信じてもいいだろう。
さて、当事者のうち唯一外国人である、当時のジルヴェイグ大皇国第二皇女キルステンはどうなったか。クロードは耳に挟んだ故郷の情勢から、大体のことは知っている。
(第二皇女キルステンはその後、無事ジルヴェイグ大皇国の国内貴族と結婚。皇位継承権は失われて今やサルタローグ公爵夫人。一男一女を儲けて以降目立った行動はなし。イアムス王国からは大層恨まれる立場だが、彼女のおかげで無能なデルバート王子の失脚が確定したとの見方もある)
ジルヴェイグ大皇国は、新しい皇帝が決まってきっかり十年後、神籤の儀式が行われる。第一位から第二十位までの皇位継承権者が籤を引き、国内の諸領へそれぞれ配置されるのだ。生まれて間もない幼子であっても、足腰の立たない年寄りであってもそれは同じ、辞退はすなわち皇位継承権の放棄と見なされる。
そうして、次の皇帝を決めるそのときまで、与えられた領地の発展に尽くす。高度な自治権を与えられた諸領には、代々その土地に住む貴族たちがひきめき、もし自領の皇位継承権者が次の皇帝になればさまざまな特権が与えられるのだ。だから貴族たちも必死になって自らの戴く皇位継承権者を応援する。将来の利権のために、領土の安泰のために、ときには皇帝の命令よりも優先してしまうほどだ。
だからこそ、第二皇女キルステンの勝手な行動は、ジルヴェイグ大皇国内でも大問題となった。第二皇女キルステンの主張する『クラリッサが反逆者の娘である』という話は、結局のところ、明確な証拠がなかったのだ。それゆえに、その主張はあっさりと否定され——嘘を吐いてまで、まさか外国王族を利用してまで皇帝位を狙うとは、地域の覇権に手を伸ばす大国であるジルヴェイグ大皇国にとっては青天の霹靂だった。それゆえに、第二皇女キルステンは帰国後、相当自身の権力を削がれ、人気は失われ、逆に皇位継承レースから脱落した。彼女にとっては大博打の結果、最悪に近い成果を得てしまったのだった。
誰にとっても得のない結果となってしまった、『行方不明のクラリッサ嬢』事件の背景にある二つの権力闘争は、最終的には欲をかいた者たちが自滅していったとさえ酷評されたものだ。
それに、国王も有望な将来の息子の嫁を失い、ヴェルセット公爵家は義理とはいえ唯一の子どもを失った。クラリッサを尊崇や敬愛の念で見ていた大臣や官僚たちも、これでイアムス王国の改革的進展は道半ばで終わってしまった、とまるで天が墜ちたように嘆き悲しんだという話だ。
もし、クラリッサが今もいれば——誰もがそう思っただろう。今でも、そう思う人々が少なくないのなら、誰もがクラリッサを求めるのならば、『行方不明のクラリッサ嬢』事件を終結へと導くことには一応意味がある。
しかし、なぜ、『事件から十二年後』に、いきなりクラリッサのものと思われる白骨死体が見つかったのだろう?
クロードの勘ではこうだ。
(高度に政治的で、誰もが望まず、誰もが納得しない。そんな類の出来事は、望まれなければ起きないものだ。つまり、誰かが起こそうと思って起きた出来事で、一人か複数人かは知らないが、必ず、影響を及ぼせる力を持った、その時点で生きていた人間の意思が介在している。最悪なのは、複数人にとってこの出来事が別々のベクトルで利益となる、なんてことがあるケースだが……それはもう、そうでないことを神に祈るしかないな)
古今東西、為政者とは、自身の人気を気にするものだ。だから、自身の人気が落ちるような出来事を嫌い、自身の在位中に災害や凶悪事件、特大の醜聞が起きないことを祈る。
ならば、イアムス王国の現国王は、『行方不明のクラリッサ嬢』事件にどこからどこまで関わっているのだろう。イアムス王国の権力者を上から並べて、何人目までが白骨死体の発見に干渉したのだろう。
誰が怪しくて、誰が潔白か、今の段階では論理的な根拠を導き出せない。それは単に根拠を組み立てるだけの情報がないことに由来する。であれば情報収集するしかない、という具合に堂々巡りとなるのだ。
クロードはため息の代わりに、ぼやく。
「ヴェルセット公爵家の話も聞きたいところだが、難しいかな」
それは望み薄だった。マダム・マーガリーがヴェルセット公爵家の縁者であることから、いずれは叶うかもしれないが、何を言ってもなしのつぶてである今の状況では難しそうだ。
カフェのテラスから外を眺めていたクロードだが、ふと、目に入った屋台のようなものを見つけて、思わず腰を上げた。
「これは……」
すると、クロードは慌ててカフェの勘定を済ませて飛び出した。あまりに急ぐものだから、財布の金具に親指を挟んで、情けなく呻く羽目にもなった。
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