聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ

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第十話

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 お義母様はきょとんとしていた。

 照れ笑いを隠せない私は、もう一度挨拶する。

「申し遅れました。私、アイメル様の妻となりまして」
「妻!?」

 心底驚いた表情を見せ、お義母様はあんぐりと口を開いていた。

 ニコはオートミールの鍋をかき混ぜながら、間違いを指摘する。

「言ったじゃないか。兄さんのお嫁さんに、オールヴァン公爵家のお嬢様を迎えるんだって」
「あれは、冗談か何かかと! だって、うちみたいな騎士の家に、貴族のお嬢様がお嫁に来るなんて信じられないわ!」
「だから、そのあたりもちゃんと兄さんが説明しただろうに、また話を聞いてなかったの?」
「ね、寝ぼけていたのよ、きっと」

 お義母様は苦しい言い訳をしながら、両手で頬が紅潮した顔を隠していた。昨日見たアイメル様の照れたお顔と雰囲気がよく似ていて、血が繋がっているのだなと思わせられる。

「ごめんなさいね、本当に……そそっかしくて、私、死んだ夫にもからかわれてばかりだったのよ」
「いえ、お気になさらず」
「それにしても、我が家も『灰色女グレイッシュ』のいる家系だから、てっきり」

 その単語を聞いた瞬間、ぴくり、と私は全身が硬直したような感覚に襲われた。

 ニコが不思議そうにその単語について尋ねてくれなかったら、どうしていいか分からないままだっただろう。

「『灰色女グレイッシュ』って?」
「ああ、魔力を持たない女性のことよ。シェプハー家も私の実家も、女はよく『灰色女グレイッシュ』が生まれていたけど、ヘナで髪を黒く染めていれば誰にも何も言われなかったから」

 お義母様は『灰色女グレイッシュ』についてずいぶんとざっくばらんに語る。それとも、オールヴァン公爵家や貴族と違って、市井では本当はそんな認識なのだろうか。

 『灰色女グレイッシュ』が白髪染めの染料のヘナで髪を黒く染める、という話は聞いたことがある。ただ、匂いがきつく、何度も染めなければならないため、子どもだった私には無理だった。

 そのまま私は大人になり、何度も何度も『灰色女グレイッシュ』と罵倒されて、私はすっかり灰色の髪がどうにもならないものなのだと諦めていたのだ。

「家系的に魔法とはとんと縁のない家なのよ、うちは」
「そう、なのですね。初めて、そのような話をうかがいました」
「あら、アイメルは何も言っていないの? あの子ったら、本当にそそっかしいわね」
「母さんそっくりなんだよね」
「ニコ?」

 お義母様に睨まれ、ニコは目を逸らす。きっとアイメル様はそそっかしいのだろう、私は胸に刻んでおく。

 自然と家族三人でテーブルを囲み、お義母様はさらにおしゃべりを続ける。

「お義父様とうちの旦那と相次いで倒れて、義兄さんたちが必死で稼いでくれたから家も保てて、アイメルも借金のことを気にせず騎士になれて……そうこうしていたら、大きなお家と綺麗なお嫁さんまで。もう、思い残すことはないわね」
「縁起でもないこと言わないでくれない?」
「あとはニコが変な実験をやめてくれればねぇ」
「だから、変じゃないってば」
「たとえば?」
「砂利とタールを混ぜて固まれば、頑丈になるって本に書いてたから、それを試してみたくて」

 ニコはお義母様へ自分のやりたいことの説明が上手くできず、もどかしそうだ。

 本に書いてあることを試したい気持ちは分からなくもない。

 それに、ニコのやりたいこと、実験については、私は知っていた。代わりに、その名称を口にする。

「あら……まさか、『アスファルト』ですか?」
「何で知ってるの!?」
「ほ、本で、同じく」

 オールヴァン公爵家では刺繍をしたり本を読むくらいしか自由にできることはなかったため、手当たり次第興味の湧いた本を読んでいたことが功を奏したらしい。

 そのときちらっと目にした、建築学の本に書かれていた『アスファルト』が、そのままニコの実験のことだったとは。

 お義母様はまたしても驚き、ニコをからかう。

「ニコ、あんた、馬鹿なのにそんなもののこと知ってたのね」
「知ってるんだから馬鹿じゃないだろ!」
「でも算数は苦手じゃない。買い物を任せられないくらいさ」
「ぐうの音も出ない」

 そうなの……そうなのね、ニコ。

 致命的に算数が苦手な義弟ニコに同情しつつ、私は食後の紅茶を口にする。

 朝の食堂はしばし賑やかな団欒だんらんが続き、私は少しだけシェプハー家と家族、それにアイメル様について知ることができた。
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